将棋自戦記#23~第7期指す将順位戦第1局~vsしまのばさん
※※※注意※※※
本自戦記シリーズは棋戦の規定に則り、私の独断にてお送りしております。何かしら不具合がありましたら当方のTwitterまでご連絡下さい。ご対応させて頂く場合がございます。
みなさんこんにちは、やきそばです。ついに今年も指す将順位戦がはじまりました。私の、私たちの青春が再び盤上へと宿ります!募集が始まったときの盛り上がり、それが落ち着いたころに公開される対局表。エモの波が幾重にも襲い掛かってくる春を越えて、いよいよ開幕となりました。
私やきそばは今期で4期目の参加。前期は魔境B級3組を8勝3敗で勝ち抜き、悲願のB級2組復帰を達成しました。しかし3年という月日を経て、B2は構成メンバーがほとんど入れ替わってしまいました。以前とは全く異なる風景となったB2は、これまでのB3時代で得たたくさんの仲間たちが集うクラスへと変貌しました。どこか懐かしさも覚えつつ、どう戦っていこうかなとわくわくする今日この頃。今期は「自戦記を楽しむ」という本シリーズの原点にも立ち戻りながら1局1局に情熱を注いでいこうと思います。それでは本編に行きましょー!!
局前の準備~しまのばさん編~
開幕局のお相手はしまのばさん(以下島ノ葉さん、と表記)。島ノ葉さんとは第5期以来の付き合いです。のののさんが主催する勉強会に私が参加し、後に島ノ葉さんが加わったことで交流が一気に増えました。不定期にVSをお願いしていたり、互いの戦型思想や身の上話なんかもたくさん語り合った仲です。まさしく友と呼ぶにふさわしい存在で、感謝と尊敬の念はいつも絶えることがありません。
そんな島ノ葉さんは三間飛車を主体とする対抗形党。最高Rは1080で、指す将順位戦には第3期から参加されています。第5期にB級2組への昇級を果たし、B2は今期2期目。絶対の信頼を寄せる銀冠の経験値と、厚みを活かした戦い方が特長。最近は矢倉の勉強をされており、私とは今春より相振り飛車をテーマにしたVSを行うなど、縦の将棋に関しても意欲的に学ばれております。互いの手札のほとんどを知っている状態ですから、初戦から戦型選択に迷うわけです。
私の主な手札は「ノーマル三間・石田流・中飛車・角換わり」あたり。その他サブの戦法がいくつかあります。島ノ葉さんほどではないにせよ、対抗形の居飛車を持つことすらあるのです。そのうえ相振りの練習もしているので、起こりうる組み合わせは膨大ですね。悩みに悩みましたが、諸々の戦略も含めて最終的には中飛車一本に絞ります。主な理由は2つ、「三間vs銀冠では島ノ葉さんに分があると判断したこと」「中飛車への対応についても再現性が高いと見たこと」でした。
私と島ノ葉さんの決定的な違いは、厚みを好むか否かという点。私はどちらかというと、平たい美濃の遠さで勝負する形の方が好き。高美濃や銀冠の取り扱いについては島ノ葉さんに一日の長があります。当初は私が三間飛車に振ることを考えましたが、島ノ葉さんは三間飛車自体の経験値・知識も豊富。間合いをうまくとられて負けるイメージを払拭できず、別の手段を探すことにしました。
そこで中飛車の登場です。中飛車なら私も高美濃への組み換えを多用しますし、なにより銀冠に近い中央を戦場にできます。加えて、島ノ葉さんの実戦譜では「4手目△6二銀からの飛車先不付き左美濃→銀冠」が頻出であり、駒組みのクセをとらえて戦えるのでは!という読みですね。先に示した図が想定の一例で、普段より早めのポイントで仕掛けて中央突破を目指す順を調べました。指す順本番では慎重になりがちな自分の将棋を、より前に持っていこうというのが狙いです。
銀冠が本命ではあるものの、他に相振り飛車や銀立ち矢倉から玉頭位取り風の将棋になる可能性も考えました。こちらは少し駒組み手順を抑えただけでしたが、相振りには左穴熊を視野にいれつつ、銀立ち矢倉にはやはり早い動きで牽制する戦い方を意識して本番に臨みます。
銀を繰り出せ!
対局時刻の1時間前にお風呂に入り、30分前にレッドブルを半分飲み、15分前からピックアップしておいたお気に入りの曲を聞きました。昨年から続けているルーティンは今年も健在です。開幕局は先手番となり、気合いを入れて▲5六歩と突き出します。普段なら▲7六歩△8四歩▲5六歩としますが、2手目△3四歩の可能性を考慮し初手から中飛車を明示しました。互いに1分ほどでするすると駒組を進めて途中1図。やはり銀冠持久戦模様の立ち上がりとなりました。
想定の△6四歩型よりもさらに早く銀冠への組み換えが決行されたため、▲6五銀と繰り出す手に1分ほどの考慮を挟みました。この銀は狙いこそ単純明快ですが、すぐの仕掛けでは▲5四歩△4三金▲5三歩成△同銀と形よく受けられて突破しづらい印象です。自陣を見れば▲4九金型が若干浮いています。バランスは良いのですがどこかで標的にされそうです。事前研究で▲5九金左~▲4八金左~▲4七金の組み換えを勉強していたので、それに倣い一手金を寄せておいて第1図の局面へ。後手にも一手多く指してもらったところで仕掛けを狙います。
突き捨てを咎めたい!
▲5四歩の仕掛けに対して島ノ葉さんは△8六歩の突き捨てで反発。ここで何か手がありそう、と直感が騒ぎます。手抜いて▲5三歩成~▲4三とが十分早そうで、これは角を渡したとしても攻めている箇所の違いがあまりに大きいですね。さすがに▲5三歩成には△同銀で、流れで▲8六角(途中2図)と出ることに成功します。続く△6四歩には▲5四歩が用意の一手。以下第2図の▲6三銀成まで自然に手を繋げて主導権を握ることに成功しました。
この△6四歩では代えて△5四歩と納められると手が難しそうというのが対局中の読みでした。交換させてもらった歩を投入するのでやや指しづらい受けでしょうか。以下▲5五歩と合わせる手を島ノ葉さんは警戒されていたとのこと。本譜は読み筋のなかにあった手順だったので、スムーズに指せたのが良かったですね。
機を伺う
島ノ葉さんは△4五歩から動きを見せます。私としてはどうにか後手の飛車に動いてもらい、▲5二成銀以下のわかりやすい攻めを目指したいところ。ですが直接飛車に働きかけるには手駒が足らず、じっくりとした手を選ばざるを得ません。▲7七角と合わせた手にも島ノ葉さんは△4六歩と角交換を保留。積み上げてきたポイントを手放さずに局面を進めるのが難しく、最終的には自ら角交換を挑み▲4八歩(途中3図)と受けに回ります。
局面を悲観しているようですが、どうやらソフトに聞いてもここでは思わしい攻めがなかった様子。実際のところ、この近辺の評価値は見た目より悪く、我が家の水匠では-100~-500点辺りを推移していました。
再び角を打ち合い、清算の流れに乗って桂馬を跳ねたことで少し気分が楽に。とはいえおかわりの△4四角に▲6六角では△同角▲同歩△4七角と打たれてしまうのが気になります。これは決断の時だと思い、秒読み突入までじっくりと▲5三歩成以下の手順を検討。△同歩▲同桂成と踏み込んだ所で島ノ葉さんが全清算を拒否して△9九角成!(第4図)。ここで攻め合いに転じ、局面にうねりが生じていきました。
確実な攻めが間に合うか
▲4二成桂△同飛▲5一飛成までは一直線。後手は銀一枚をはがしてなおも金銀三枚の堅陣を維持しています。ゆっくりとした攻めでは速度を逆転されてしまいかねません。警戒していたのは△4三香などと4筋に足していく手でしたが、島ノ葉さんは△2五歩を選択。指されてみると継続の攻めが難しく、続く▲6五角は△5五馬(A図)のような切り返しが見えている状況でしたが、代替案が見つからずに秒に追われて指します。
後のソフト検討で大丈夫と知りましたが、A図の攻めはかなりの迫力。▲4八歩型で玉が狭いこともあり、とても怖く映りました。本譜は△2四桂と控えて、端にも効かせてこれまたプレッシャーのある一手です。ただ後手の攻めが届くにはもうしばらくの猶予がありそうですから、ここはわかりやすく金駒を剥がす攻めが無いかと考えます。手の流れに従い▲9二角成から2枚目の飛車を打ち下ろし、持ち駒を使いたくなるところを節約して▲4二成銀(第4図)が本局の充実ぶりを示す一手になったかと思います。やや重たいことには変わりませんが、▲4二銀と投入する第一感を跳ねのけられたのは自慢です!
過集中が見せた幻影
△1六桂から手薄な端を狙われて若干焦りました。ですがここまでの戦いで脳みそがフル回転していた私は、▲3一龍△1三玉▲1五香と王手で香取りを切り抜ける手順を発見します。▲3一龍に△同金でも▲同飛成があり相当有力に見えます。「飛車を渡した際に自玉の危険度がどれほどか」、「上に逃がす分の紛れはいかほどか」というのが疑問点で、それも局面が進めば明解になっていくのではないかと直感レベルでは前向きに判断します。さあ再度手順を読もうとマウスカーソルを動かしたとき、私は▲1五香(途中5図)!!!!
何指しとんねーーーん!!!!と胸中大パニックに陥ります。
そもそも、取られそうな香車を手順に活かす手を読んでいたのです。それが王手なんだから「ああ良い手が見えるなぁ」と自分でも充実感を得ていたのです。それが一転▲1五香。当然△同香と取られてさあ大変。なおも先に▲3一龍はあったかもしれませんが、ほぼノータイムで▲1七歩と打ち付けるところにパニックぶりが現れていますね。今にしてみれば後手の持ち駒は少なく、自玉は狭いとはいえ形勢はまだまだ先手良し。大丈夫だぞ、と言い聞かせようとするにはするのですが、どうしても似たようなミスをした経験やミスが起点となって掴んだはずの形勢を逃してしまった対局を思い出してしまいます。
後手の継続手は△3六歩。怖いところですがこれなら△3七歩成は▲同銀とすれば大丈夫そう。▲3一龍との二択で迷いましたが、龍はここで失うべきでないと判断し▲3一成銀。ここで冷静さを取り戻せた気がします。△1八歩(第5図)の垂らしは先手の攻めが頓挫したらば△1九角(銀)~△2八Xで寄せちゃうぞという脅しの一手。しかし詰めろではありません。今こそ寄せを目指すときです!
開幕戦を制す
▲3二成銀から王手ラッシュを開始。個人的には▲1二金(第6図)が決め手になったかなと思います。△1四玉と立たれて後手玉も広いですが、以下▲6四飛成と回り、合い駒を請求したところで▲3五銀が龍切りからの詰めろ。玉の可動範囲をしっかり狭めて、進んでみれば堅実な寄せを繋げることができました。この辺りはずっと読み抜けが無いかドキドキしていましたが、実力以上に正確に指せたのではないでしょうか。最後は即詰みのあるところまで指し切り、99手にて投了。嬉しい嬉しい開幕戦勝利となりました。しまのばさんありがとうございました!
振り返りと、次局に向けて
本局は戦型予想の大本命の戦いになり、事前準備で得たことを反映しやすい将棋でした。実際の評価値はともかく、「主導権を握っているぞ」という感覚があったことでバランスよく押し引きできたと思います。ミスからの立ち直りも早く、手の広い局面でも好判断ができました。準備面においても、「初手▲5六歩を見せたらどんな風に思ってくれるかな?」「縦の将棋を投入するタイミングと決断されるのかな、慣れた形で真っ向勝負に来るのかな?」といったわくわくした気持ちが募っており、将棋に好影響があった気がします。ほかには、A級2組のロウポンさんから観戦記執筆の打診があったことも良いモチベーションになりました。島ノ葉さんとの関係性を含めて、この開幕の一番に熱視線を向けて下さるというのはとてもありがたいことですね。記事の完成がとても楽しみです!ここから半年の長丁場ですから、色々な楽しみを探しながら戦うことができればいいなあと思います!
2回戦のお相手はアカサビさんです。第5期B3以来、2年ぶりの対局となります。2年前も2回戦での当たりでした。そういう運命でもあるんでしょうか!進化を続ける棒銀のスペシャリストにどう立ち向かうか、通期の戦略上も重要な戦いになるとみています。梅雨空の下、心身に無理をしないよう心がけつつ準備していきましょう。今回もお読みいただきありがとうございました!!