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はじめの一歩|経済を知るためのさまざまな統計データ

この記事は、独立行政法人 国民生活センター で連載が続いている「経済を知るためのさまざまな統計データ」の内容をコピーしたものです。これら連載は、とても分かり易くてためになる内容なのに気づいている方が少ないと思いましたので、ここでも掲載し広めたいと思いました。原文にはグラフや挿絵もありより良く理解することができます。ぜひ原文をお読みください。

誠に残念ながら2022年5月号をもって連載が終了してしまったようです。このような企画は長く続いてほしいと感じました。

政府を始め、大手シンクタンクや金融機関が使っている政府統計データを私たち国民も使えるようになってきました。多様で変化の速い時代には、経営者の勘と経験だけでは通じない局面も出てきており、より一層のデータ経営に慣れなければならない時代に突入したとも言えます。とはいえ、経済表現は慣れなく難しさも感じるのも事実です。先ずはこの記事から練れてみては如何でしょうか。皆様の一助になれば幸いです。



1.経済統計とは何でしょうか

皆さんの身近なところに「経済統計」はありますか。
私たちは皆、経済活動をしながら生きています。必ずしも自分で商売をしたり、会社をつくったりしていなくても、生活そのものが経済活動といってもいいのです。会社に行って働く。給料をもらう。買い物をする。家賃を払う。そうしたことは、すべて経済活動です。それらの活動や経済現象を表す統計が、文字どおり「経済統計」ということになります。

消費者としてだけではなく、仕事をすればそれは、生産者としての経済活動です。製造業であれば、その製品の受注額や生産額が統計として表れます。輸出や輸入をすれば、貿易統計となります。企業で働いていれば、その売り上げや利益が、企業活動の統計となります。

企業の活動は、賃金の統計としても表れますし、人材の採用は雇用の統計となります。商品の販売は、業界の売り上げを表すと同時に、消費者の行動をも表す統計となります。デパートやスーパーの売り上げ、自動車や住宅の販売数などがそれに当たります。

経済統計の役立てる

こうした統計は、どのようなときに役に立つのでしょうか。もちろん利用する人によって目的はさまざまですが、ほとんどの利用者は、経済の現状を見極めて、先行きの見通しを立てたいと思っているはずです。どんなビジネスにかかわっていても、事業戦略や販売計画は必要だからです。

もし事業で自動車を売りたいのであれば、販売台数の統計を参照するのは当然として、大きな買い物ですから、消費者の懐具合も見極めなくてはなりません。景気がよくなって賃金が上昇するときには積極的な営業活動をするでしょうし、景気が悪くなると思えば経営は守りに入ります。景気の良しあしによって、商品の売れ筋も違ってくるでしょう。

大きな買い物といえば、住宅はまさにそうです。景気の見通しが暗く、消費者も自分の収入が不安なときはなかなか購入に踏み切れないでしょう。資金を借り入れますから、利率などの金融環境も考慮しなければなりません。不動産価格の推移も重要です。購入時期を見極めるためには、さまざまな統計が役に立つはずです。家計もある意味「経営」ですから、経済の見通しを持つよう努めたほうがよいのは言うまでもありません。収入は増えそうか減りそうか、職を失う心配はないか。「物価」も気になります。もっとも日本は長期にわたるデフレ経済で、一般的な物価動向が気になるような場面はしばらく経験していませんが、家賃や学費など、価格動向が気になる項目も無くはありません。また先ほど触れたように、住宅を購入するような場合には、さらに長期的な家計の見通しや金利の見通しを立てることになるでしょう。

景気の波を知る

「景気」という言葉は、比較的頻繁に日常会話に登場します。そこでは漠然と、社会の空気を経済的な側面から表す言葉として使われているように思います。厳格な定義は無いのかもしれませんが、「景気判断」とか「景気循環」という使い方をするときは、5~10 年の周期で動く経済全般の上下動を指すと考えてよいでしょう。幅広く「経済活動全般」といっても、調子のよいところとそうではないところが混在しているのが普通です。必ずしも同じように動いているわけではない統計数値を整理して、「景気」を目に見えるかたちにしようというのが「景気動向指数」(図)です。景気がよくなる過程では、中に含まれる統計の数値によくなるものが増えていき、やがて景気の山を迎えます。その後は逆に悪化するものが増えていき、景気の谷ができるというわけです。今の日本は「好景気」といわれても、あまり実感を伴わないということも多いようですが、それでも経済は循環的によくなったり悪くなったりしています。直感で判断することも時には必要かもしれませんが、感覚に頼り過ぎず、客観的な数値をもとに置かれた状況を判断し、取るべき経済行動を決定することが基本です。そのためにも、経済統計は十分に活用すべきでしょう。

経済のトレンドを知る

経済の見通しは、5 年や10 年のサイクルよりも、もっと長い将来にわたって必要になることもあります。会社を創業したり、長期的な事業計画を策定したりするには、目先の景気を見極めているだけでは足りません。今後長期にわたって伸びていく産業は何か、需要が増える商品やサービスは何か、発展する地域はどこか、見通しを立てなければなりません。そのために重視されるものに「人口統計」があります。経済統計の範疇には入らないかもしれませんが、経済の長期トレンドを知るには基礎となる統計です。商品やサービスを最終的に消費するのは人間だからです。人口統計は「既に起こった未来」といわれるぐらいで、既に生まれている人口の将来は確実に予測できます。昨今、日本経済の将来に悲観的な人は少なくないようにも思いますが、その根拠は多分、少子化、つまり人口の減少にあるのではないでしょうか。国ごとの経済の規模を測る尺度としては、GDP(国内総生産)が一般的です。それは国内で生産されたものやサービスすべての合計、という発想で計算された統計で、文字どおり国の生産力を意味します。GDP は金額で表され、経済の成長、景気の拡大・縮小もGDP によって測られます。人口が減れば、確かにGDPの成長には不利になります。1人当たりの生産性を上げなければ、GDP が縮んでしまうからです。ただ、GDP がその国の「豊かさ」に、直結するわけでもありません。金額で表すことのできない豊かさもいろいろとあるでしょう。それは経済統計の限界ということなのかもしれません。将来を予想することは、誰にとっても難しいことですが、客観的に集められたデータは、多くのことを教えてくれます。自分の知りたい未来のためにも、この連載をとおしてぜひ身のまわりの統計データに目を向けてみてください。



2.今の景気は良い?悪い?

経済統計でみる景気循環

経済は拡大したり停滞したりを繰り返しています。しかし経済活動は、誰かが全体を仕切って統制を取っているわけではなく、個々の企業や個人がそれぞれの事情や見通しに基づいて、仕入れを行ったり、生産設備に投資したり、人を雇ったりしています。皆が競うように生産や消費を増やす時期があったかと思うと、それらが過剰になってブレーキがかかるときもあります。人間の営みですから、時の勢いや気分に流されることもあるでしょうし、気候などの自然現象に影響されることもあるでしょう。そうやって経済は活況と停滞を繰り返しているのです。これが景気循環です。そうした経済活動は、さまざまな経済統計として記録されています。生産設備を発注すれば「機械受注」の統計が、原材料を多く仕入れれば「商品市況」が動きます。人を雇えば「求人」や「雇用」の統計が、給与が増えれば「所得」、それが消費につながれば「消費支出」の統計が動くでしょう。これらの統計は、どれも皆、景気指標です。そしてここに挙げた以外にも、数多くの景気指標があります。しかし、景気というのは経済全体の状況ということですから、その良しあしを判断するには、それらの指標を一度に調べなくてはなりません。これはなかなか困難な作業でしょう。

景気動向指数

そこで、これらの景気指標を整理してまとめた指標が、内閣府で毎月作成、公表している「景気動向指数」です。景気循環を目に見えるかたちにしたものといってもよいでしょう。景気動向指数には「先行指数」「一致指数」「遅行指数」と3 種類あって、それぞれいくつもの景気指標を合成して作られています。まずは先行指数がどんな統計によって構成されているのか、ちょっと見てみましょう。ここに含まれるのは、それぞれ景気に先行して動く統計や指数です。まず「在庫率指数」は、景気がよくなる前に在庫が減り始めることから採用されている逆向きの指標です。「実質機械受注」や「新規求人数」は、生産を増やすための準備です。そのためにはお金が必要ですから、経済に回るお金の量を示す「マネーストック」や、資金調達のしやすさを測る「投資環境指数」も含まれます。材料の調達が増え始めれば価格が上昇し「日経商品指数」が上昇することになります。人々の、経済活動や消費に対する「意欲」を示す「消費者態度指数」や「中小企業の売上げ見通し」。「新設住宅着工床面積」が増えれば、その後の支出の増加が予想できます。そして、少し意外かもしれませんが、「東証株価指数」も先行する指標として採用されています。株式投資家は、常に先を読もうとしているということですね。一致指数になると、中身は製造業の生産や出荷の量を表す「生産指数」や「出荷指数」が中心となります。経済が活況になると同時に動く指数です。「輸出数量」の指数も含まれます。生産量が増え、実際に物が売れるようになると、卸売業・小売業の「商業販売額」、さらに企業の「営業利益」に反映されます。雇用関係では、稼働している人員と時間を表す「労働投入量指数」や、雇用の逼迫度合いを示す「有効求人倍率」が採用されています。好景気で業績に余裕が出てくると、企業は設備投資以外の支出を増やすようになります。遅行指数にはその傾向をとらえるべく、「事業所向けサービス業の活動指数」、常用の「雇用数」や「給与水準」が入ってきます。「設備投資」は既に完了した金額として、企業の利益は「法人税収入」として表れます。その恩恵が一般の個人にも行き渡るようになり、「家計消費支出」や「消費者物価指数」を押し上げることになります。しかしそのような好況のうちに、在庫や雇用の過剰感が「在庫指数」や「完全失業率」に表れ始めるのです。

日銀短観と景気ウォッチャー指数

このほかにも、景気循環を知るために利用されている指数はいくつかあります。その代表的なものは、「日銀短観」でしょう。正式な名称は「全国企業短期経済観測調査」で、通称の示すとおり、日本銀行が行っている調査です。全国1万社以上の企業を対象に、四半期に1 度行われるアンケート調査で、翌月の月初(12 月の調査だけは同月中)に結果が公表されます。いくつかある調査項目の中で、最も注目度が高いのは「業況判断」でしょう。これは「良い」という回答数から「悪い」という回答数を引くという、非常にシンプルな方法で指標化されています。企業が幅広くカバーされていて速報性もあること、誰にでも分かりやすいことなどから、非常によく利用されています。そのほか、内閣府が毎月公表している「景気ウォッチャー調査」があります。日銀短観と同じように、景気判断や見通しを聞くアンケート調査で、地域ごとに経済に敏感と思われる事業者を選んで行われています。結果は「家計」「企業」「雇用」の項目別と、全国を12 に分けた地域別の指数として示されます。指数だけではなく、回答者からのコメントも同時に公表されていて、読んでいると、生きた経済を感じることができる調査です。指標にはそれぞれ特徴がありますが、景気循環はどの指標でみても、大体同じように表れているのが分かります。



3.企業の生産活動は活発?

経済を動かしている原動力は、何といっても企業の生産活動です。あらゆる産業で企業が投資を行い、それが製品の生産を拡大させ、経済成長を促します。その流れを、さまざまな統計によってとらえることができます。

鉱工業指数

生産活動の代表的な指標は、経済産業省が毎月公表している「鉱工業指数」(図1)の中の「生産指数」でしょう。これは名前のとおり、鉱業と工業の生産統計から作られます。調査対象となる事業所が、それぞれどれだけの物を作ったか、その数量を調べて集計し、前の月からどれだけ増えたか、または減ったか分かるようになっています。膨大な品目数がある中から、統計のために選び出されているのは現在のところ412 品目。全体を表す指数のほかにも、品目別、業種別や、資本財・消費財といった分類でも指数化されています。この統計では、生産指数以外にも、「出荷指数」と「在庫指数」が作成されています。生産された物が実際に売れているかどうか、それは出荷と在庫の状態を見ることによって知ることができます。生産された分の量が売れなくて残ってしまうと在庫となり、在庫が積み上がれば生産は減らさなければならなくなります。それが景気の好不況を生む、ということは、前回*お話しましたが、この生産指数、出荷指数、在庫指数は、景気動向指数を構成する系列にも、その一部が含まれています。

第3次産業活動指数

景気を動かす原動力として、鉱工業の存在感が非常に大きいことに疑う余地はありませんが、経済全体に占める割合は、実は2 割ほどにしか過ぎません。それ以外の大部分を占めるのは、サービス産業です。第3 次産業とも呼ばれます。ですから、経済の動向を知るのに、この第3 次産業を抜きには語れません。そのための指標が、鉱工業指数と同じく経済産業省が月次で公表している「第3 次産業活動指数」です(図2)。調査の対象となる産業は、11業種に分類され、やはり鉱工業指数と同じように、各業種で前月からの変化を示しています。サービス産業は非常に幅広いので、全体の動きもさることながら、業種ごとの動きに注目することも重要です。また、個人向け・事業者向けといった分類や、製造業に依存するかしないかによる分類などでも、指標が作成されています。第3 次産業は、経済の実態としては非常に重要ですが、景気に対して先行性がほとんどありません。そのため景気の先行きを知る指標としては、あまり利用されません。景気動向指数では、一致指数や遅行指数の系列に、その一部が含まれています。

機械受注統計

「実質機械受注」は景気の先行指標として、頻繁に利用されます。先述の景気動向指数にも、先行系列の1 つとして含まれます。機械は製造設備であることが多いので、機械受注が増えるということは、その発注者が生産能力を増やそうとしていると考えられます。機械が受注され、生産され、出荷されると、その後は製造業の生産量が増え、景気の拡大につながると期待されます。「機械受注統計」は内閣府が毎月、各事業所の受注額を集計して作成、公表しています。実績値だけではなく、四半期に一度「見通し」の調査も行われます。受注のほか、販売額、受注残高も同時に公表されます。また、民間需要と官公需別にも集計されていて、特によく見かけるのは「船舶・電力を除く民需」という項目です。電力の設備投資や船舶の受注は、金額が大きいのですが、景気動向とはかかわりの無い要因の働く余地が大きいので、それらを除いた項目を、景気動向を探るという目的のために、特別に設けてあるのです。また、機械の中でも製造業の設備投資の代表として、「工作機械受注」は特に注目されています。その他、機種別や需要者別など細かく公表されていて、さまざまな分析に利用することができます。

住宅着工統計

住宅着工数は、裾野の広い住宅産業の活動を先導する指標です。これもまた先行指数を構成する指標の1 つです。さらに消費意欲の動向を示唆する面もあるので、目にする機会の多い統計です。「住宅着工統計」は、国土交通省によって毎月公表される「建築着工統計調査」に含まれ、着工床面積の合計と、持家・貸家・分譲といった利用関係別の戸数などが集計されています。また三大都市圏別の着工戸数も公表されており、地方経済の動向を知るために利用することもできます。住宅以外の建築物は、「民間非居住建築物」として着工床面積が集計され、事務所、店舗、工場、倉庫といった使途別や、産業別の着工面積が分かります。これら産業用の建物も、企業や事業所の行う設備投資の一部ですから、それらの企業活動を示す指標となります。

法人企業統計

財務省が年次と四半期ごとに発表する「法人企業統計」は、主に企業の決算や資本など、財務の状況を示す統計です。売上も利益も企業活動の結果ですから、景気の先行性はありませんが、項目の1 つに「設備投資」があり、実行された設備投資は、その後の生産活動に反映されるはずですから、景気指標として注目されています。現在のところ、11 の製造業と8 つの非製造業に分類され、公表されています。



4.仕事は見つけやすい?給料は増えている?

雇用の情勢は、経済の状態を色濃く反映します。景気がよくて企業の業績がよければ、給与・賃金が増えるでしょう。仕事の量が増えれば雇用される人数も増えます。先行きの見通しがよければ、企業はさらに多くの人を雇おうとするでしょう。

労働力調査と完全失業率

雇用情勢を表す統計といえば、まず思い浮かぶのが失業率です。総務省統計局が毎月行っている「労働力調査」の中の「完全失業率」がそれです。労働力調査というのは、全国から選ばれた約4 万世帯の就業状況を調査、集計しているもので、完全失業率は、労働力人口に占める完全失業者の割合です。この「労働力人口」は、15 歳以上で働く意欲がある人の人数のことで、働いている人、今働いていなくても仕事のある人(育児休業中など)、仕事が見つかりさえすれば働こうと思っている人がここに含まれます。完全失業者は、15 歳以上で今は仕事が無いけれど、見つかりさえすればすぐに働こうと思っている人のことです。つまり、15 歳以上で働くことができる人でも、働くつもりのない人は労働力人口にも完全失業者にも入りません。景気がよくなれば企業は人手を増やさなければなりませんから、失業している人は新たな仕事を見つけやすくなり、完全失業率は下がります。景気が悪ければ逆に職が減って、完全失業率は上がります。ただし前述したとおり、労働力としてカウントされるには「働く意欲」を見せることが必要ですから、景気の悪い時に仕事を探すのを諦める人が増えて、一時的に失業率が下がることもありますし、景気がよくなりそうだからと仕事を探す人が増えて失業率が上がることもあるのです。労働力調査では、年齢、男女別の完全失業率も算出しています。また、求職理由による分類や、産業ごとの就業者数、正規・非正規別の就業者数なども公表されています。

有効求人倍率

失業率と並んでよく知られているのが「有効求人倍率」という指標です(図2)。厚生労働省の行っている「一般職業紹介状況」という一連の統計に含まれ、毎月公表されています。これは公共職業安定所( ハローワーク) に集まる情報をもとにした統計で、求職者数に対する求人数の割合、つまり職を探している人1 人に対してどれだけの求人があるかを表します。値が大きいほど職を見つけやすいことになります。前月から繰り越された求人数にその月の新規求人を加えた「月間有効求人数」と、同じく前月から繰り越された求職者に新たに加わった求職者を加えた「月間有効求職者数」をもとに算出されます。新規の求職、求人を取り出した「新規求人倍率」も同時に算出されています。雇用の動向は一般に、経済の動きを追う「遅行指標」といわれ、景気を見極めるための指標としてはあまり注目されませんが、新規の求人数に限っていえば、景気に先行します。企業の採用意欲を示すものだからです。この統計には、実際に就職できた件数も集計されています。求職数に対して実際に就職した割合が「就職率」で、これが高ければ、就職しやすい環境、ということになります。就職数を求人数と比べれば、その割合は「充足率」と呼ばれ、人材を求める側から見た雇いやすさを表す指標となります。また求人と求職者数が増えても、もし実際の就職数が増えていないならば、雇用のミスマッチが生じている可能性が推測できます。これらのデータは、管理的職業、専門的・技術的職業、事務的職業等の職種別や、産業別、就業地別にも細かく集計されています。ハローワークは職を求める人と働き手を求める企業のための機関ですから、双方に利用しやすく、参考になる情報の多い統計といえるでしょう。

賃金の動向

厚生労働省は全国の事業所を対象に、「毎月勤労統計調査」を実施しています。調査対象となった事業所は、常用労働者(一般、パートタイム)の賃金、労働時間、雇用の変動などを男女別に回答します。集計結果から、賃金指数、労働時間指数、雇用指数などが算出され、集計結果と合わせて毎月公表されています。また年1 回、6 月分の賃金を調査し「賃金構造基本統計調査」として公表しています。全体の平均に始まり、性別、年齢、学歴、企業規模、産業、雇用形態、地域といった、さまざまな角度で分類して集計されています。これらは経済状況を見極めるというよりは、ある時点の雇用の構造や、長期的なトレンドを知るためのもの、という性格の統計です。男女の格差や非正規雇用など、雇用は経済の枠を超えて、社会問題とも深くかかわっています。そうした問題に向き合うために、必要な情報が多く含まれています。賃金の情報は、公的な統計以外にも、民間の機関が集計しているものもあります。その多くはパート・アルバイトの紹介や人材派遣、転職の仲介を行う企業によるものです。こうした情報は通常、受け取った賃金の情報というよりは、募集の際の賃金、時給です。集計の時点で、経済活動の見通しが含まれているということになります。賃金・時給の上昇は、その職種の仕事の量が増えていること、その業界の収益が伸びていること、または働き手が不足していることなどを示唆します。正規雇用となると、増やすことはともかく、簡単に減らすことはできませんから慎重にならざるを得ませんが、アルバイトのような臨時の雇用は、事業の見通しに対応して機動的に動くことが可能です。そういう意味で、このような統計に表れる時給の変化は、先行性があると思われます。調査機関によっては、地域別やさまざまな職種別に、細かく分類して集計・分析されているものがあります。



5.家計と消費の動きを知ろう

経済活動の大きな部分を担うのが、個人消費です。消費の面からGDPの内訳をみると、52%(2020 年度)が私たち個人の家計によるものです。経済のサイクルの中で、家計はほぼ最後に動きます。企業の生産活動が、雇用や賃金を通じて家計の収入に及び、その結果、消費が増えたり減ったりするからです。

「家計調査」~財布のひもは固いか緩いか

総務省は、全国から抽出された約9,000 世帯(単身世帯を含む)を対象に、家計の収入、支出、貯蓄、負債などを毎月調査しています。世帯の収入の階級や世帯主の年齢、家族構成など、細かい分類ごとに収入の内訳や支出の項目が集計され、収支の状況とともに、どういう世帯がどのようなものに支出しているのかが分かります。2 人以上の世帯の収支については、毎月結果が公表されます。また、貯蓄や負債の額も集計され、四半期ごとに公表されています。統計の目的は、幅広く国民生活にかかわる政策に役立てることですが、家計の収支状況はいわゆる個人の財布のひも、ひもが固いか緩いかは消費の動向を探る重要な指標となります。また、世帯の収入別や世帯主の年齢・職業別、地域別などの集計もされており、消費の構造や傾向について、さまざまな面からの分析に利用することができます。2002年からは「家計消費状況調査」として、家電・AV 機器や通信機器、通信料やネット接続などの情報通信への支出など、従来の家計調査ではとらえられなかった消費項目が調査対象に加わっています。さらに消費の実態として、インターネットを通じて何を購入しているのか、また電子マネーの利用状況なども、家計消費状況調査でカバーするようになっています。

消費者はどんな見通しを持っているのか

内閣府が毎月実施している「消費動向調査」は、消費者自身が、今後半年間についてどういう見通しを持っているかを聞く意識調査です。自分の暮らし向きは今後よくなると思うか、収入の増え方は今より大きくなると思うか、仕事は見つけやすくなるか、耐久消費財の買い時としては今よりよくなると思うか、保有している資産価値は増えると思うか、といった項目を調査します。また物価の先行きについても、上がると思うか下がると思うか、見通しを調査しています。集計結果は毎月公表され、各指標をまとめて指数化した「消費者態度指数」も作成されます(図1)。これはいわゆる「消費者マインド」を表すもので、個人の今後の消費行動を占う指標となるため、景気動向指数では、先行指数を構成する指標の1つとなっています。

物はどのくらい売れているのか

ここまでは「家計」、つまり買う側に焦点を当ててきましたが、今度は売る側の統計です。経済産業省が毎月行っている「商業動態統計」は、全国の卸売業と小売業の事業所または企業に対し、その月の販売額を調査しています(図2)。卸売業、小売業それぞれについて、多種の商品を扱う業態をはじめ、繊維品、食料・飲料、機械器具、医薬品・化粧品など、業種別の販売額を集計しています。大規模卸売業や百貨店・スーパー、コンビニエンスストアについては、品目別にも集計され、さらに百貨店・スーパーについては、経済産業局別、都道府県別、東京特別区・政令指定都市別についての販売データも公表されています。卸売業、小売業それぞれの「商業販売額」の増減は、景気一致指数を構成する指標として採用されています。また商業販売額は、業種別の指数も作成されています。

百貨店やスーパーの売上統計

消費の動向を知るために最もシンプルなのは、小売店舗の売上高かもしれません。デパートやスーパー、コンビニエンスストアなどの売上統計が、毎月それぞれの業界団体から発表されています。(一社)日本百貨店協会は、毎月の売上を集計し、その月の天候や集客の状況、営業日数や土・日・祝日数とともに、「全国百貨店売上高概況」および「東京地区百貨店売上高概況」として発表しています。売上額は、主要都市およびそれ以外の地区別、また商品種別に集計されています。小売業における百貨店は、かつてほどの存在感が無くなってはいるものの、統計の継続性ということもあって、注目度の高い指標であり続けています。スーパーについては(一社)日本スーパーマーケット協会による月次販売統計のほか、これを含む主要な3 団体が共同で、「スーパーマーケット販売統計調査資料」を作成し、毎月公表しています。全国270 社を対象に、主に食品についての売上データが部門別に集計され、さらにエリア別、保有店舗数による企業分類別の売り上げ動向も見ることができます。また、中核店舗に対しては、経営動向や景況感についての調査も行っており、その結果が報告されています。コンビニエンスストアについては、店舗数の増減、売上高および来店客数、平均客単価、商品構成比が集計され、(一社)日本フランチャイズチェーン協会から月次で公表されています。そのほか、(一社)日本ショッピングセンター協会の販売統計、(公社)日本通信販売協会の売上高調査(対象社)なども、月次で集計・公表されています。こうした業界団体の統計データは、団体の会員である小売業者が経営に役立てることを目的にしているわけですが、一般の消費動向を示す指標としても、大いに利用価値があるでしょう。少し性格は違いますが、自動車の販売データや、マンションの市場動向なども、月次で公表されています。こうした統計も、高額消費の代表的な指標として見ることができます。消費は非常に裾野の広い経済活動です。工夫次第で、さまざまな品目の売上統計が、消費動向を知るための指標として機能し得るのです。



6.日本の物価は安い?

日本は長期にわたってデフレ経済の下にあるといわれています。デフレというのは物価が持続的に下落している状態です。物価というのは「正しい水準」が決まっているわけではありませんから、物価が安いかどうかは、何かと比較する以外にはありません。下がっているということは、日本の物価は「過去よりも安い」というわけです。また現在は「他の先進国と比べても安い」といわれることが多くなっています。

消費者物価指数~最も身近で重要な物価指数

一口に物価といっても何種類かありますが、私たちの生活にかかわる物の値段を表すのが「消費者物価」です。一般に「物価」といえば、まずはこれを指すことが多いと思います。総務省が毎月発表している「消費者物価指数」は、全国の家計を代表するような品目を選定してウェイト(重み、重要度に応じた係数)*付けし、その価格を調査して指数化しています。現在選定されている品目は582品目ですが、私たちの生活は、時代の流れとともに常に変化しますから、採用される品目とそのウェイトも、適宜見直さなくてはなりません。それらの改定は5 年ごとに行われ、現在は2020 年が指数の基準年となっています。この改定で、例えば食品であれば、もち米、グレープフルーツなどが廃止され、カット野菜、サラダチキン、ノンアルコールビールなどが加わっています。固定電話がドライブレコーダーに、男児用ズボンと女児用スカートが子ども用ズボンに置き換わっているのをみると、時代の流れを感じます。また無償化で幼稚園保育料が廃止される一方、学童保育料が加わっています。品目ごとのウェイトは、総務省の「家計調査」をもとに作成されます。現在のウェイトの内訳をみると、耐久財や非耐久財(消耗品)などの財と交通費、教育費などのサービスがほぼ半々となっています。食料品は全体の25%程度、光熱費は5%ほどです。サービスのおよそ4分の1は公共サービスで、残りは民間ということになりますが、特徴的なのは「持家の帰属家賃」です。これは実際の出費というわけではなく、持家に住む人が、賃貸と同じように家賃を払っていると仮定した計算上の「家賃」で、これを消費として含めているのです。実際に借家に対して支払われる家賃は2〜3%のウェイトですが、持家の帰属家賃は15%以上あります。指数化の際に用いられる価格は、総務省の「小売物価統計調査」を用います。一般の世帯が消費する品目の価格を、全国167市町村を対象に毎月調査しています。その品目も、消費者物価指数の基準改定に合わせて改定されます。これらのデータから、基準年の物価を100として指数が作成されます。総合指数のほか、一部を取り出した指数も作成され、重要な指数は季節調整値が発表されています。なかでも物価動向を知るためによく利用されるのは、「総合指数」「生鮮食品を除く総合指数」、そして「生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数」です。気候等の影響で価格が大きく変動する市況商品を除外することで、経済状況を表す指標としての物価動向を見極めるためです。

企業物価指数と企業向けサービス価格指数

もう1 つの重要な物価指数は「企業物価指数」です。企業間で取引される商品(財)を対象とした物価指数で、日本銀行が作成し月次で発表しています。国内で生産され、国内の企業向けに取引される商品の価格を集計し、指数化したものが「国内企業物価指数」で、そのほかに「輸出物価指数」「輸入物価指数」などがあります。国内企業物価の場合、日本銀行は商品を生産する企業に対し、対象となる商品の出荷時点の価格を調査して集計します。品質が一定の商品の価格を調査するため、商品の内容(素材、性能等)や取引条件なども調査します。各商品にかけるウェイトは、経済産業省の「工業統計」や「生産動態統計」などを参考に出荷額を推計して決定します。調査品目やウェイトなどは5 年ごとに改定、基準年を100 として指数化されます。消費者物価にはサービスの価格も含まれますが、企業間取引については「企業向けサービス価格指数」があります。これも企業物価指数と同じく、日本銀行が調査・作成し、月次で公表しています。

物価指数で何が分かるか

物価指数は文字どおり物価が上がっているか下がっているか示すものですが、多くの情報を含む経済指標として大変重視されています。消費者物価は国内の最終的な需要の強さを示唆します。価格は需要と供給で決まるものですが、供給に比べて需要は、景気の強弱をより反映して変動します。通常は景気が過熱すると、物価が上昇して消費生活が苦しくなるので、それを抑えるための政策が発動されます。しかしデフレ経済の続いている今の日本では、景気がよくなって物価が上昇する、という現象が起きにくくなっています。これは、供給力に対して需要が慢性的に弱いということを示唆します。企業物価指数は、たとえ国内指数であっても、世界全体の景気や市況の影響を強く受けます。海外で市況価格が大きく上昇したり、為替レートが円安になって円建ての価格が上がったりすれば、国内の最終需要にかかわらず取引価格は上昇するでしょう。それが消費者物価に転嫁できるかどうかは、最終需要がそれを許すかどうかにかかっているわけですが、それができなければ、企業は利益を減らすことになり、それがまた最終需要を冷やす、となると経済は、縮小の悪循環に陥ってしまいます。生活実感からすると、物が安くなることは結構なことですし、物価が安定しているのは基本的にはよいことですが、物価が下落し続けると、経済活動にさまざまな支障を来します。日本は今、その悪循環を避けるべく、デフレ経済からの脱却をめざしているのです。



7.人口などの調査で何が分かるの?

経済を知るために利用できる統計は、経済統 計や産業統計だけではありません。人口に関す る統計は、その代表的なものです。人口の調査 は、総務省による国勢調査や、厚生労働省によ る人口動態調査によって行われています。

国勢調査

5年に1回、国内に住む全世帯(一部地域を除 く)を対象に行われているので、実際に回答した 覚えのある人も多いと思います。世帯ごとに回 答した調査票を郵送で提出、またはインターネッ トで回答します。提出のない世帯には、調査員 が訪問して回収することになっています。最近 の調査は2020(令和2)年でしたが、郵送とイン ターネットで 8割が回収され、インターネット の利用はそのうちの半数に近づいています。 回答する項目は、世帯員の氏名、性別、年齢、 国籍などの基本的な情報、家族構成、住居の種 類や建て方、世帯員それぞれの就学・就業状態、 職種や職場での地位など。そして集計結果は、 翌年、総務省より公表されます。 国勢調査の目的は、国内に住む人と世帯につ いて知ることです。日本の人口統計は、この調査 結果が基礎になります。公表されている結果の 概要には、第1回調査の実施された1920年以来 の人口が概観できるようになっていて、2010年 を頂点に、総人口が減少し始めているのが見て 取れます。また、調査結果から分かる人口の年 齢構成は、高齢化の傾向を明確に示しています。 都道府県別の動向も知ることができます。 2020年の調査で人口が増えたのは、首都圏を 国勢調査 はじめ大都市を抱える8都道府県にとどまりま した。市町村別にも集計がされており、最も人 口が増えた市町村、最も減った市町村などが公 表されています。 世帯についての調査も、目的の 1つです。人 口は減り始めているものの、世帯数は増加傾向 が続いていて、1世帯当たりの人数は減り続けて います。

人口動態調査

厚生労働省は、各自治体に提出される出生届、 死亡届、婚姻届、離婚届といった各届け出を集 計しています。届けが出されている限り、回収 漏れとなることはありません。国勢調査が 5年 に 1度の大々的な調査であるのに対し、人口動 態調査は、人口の日々の増減を反映しています。 結果の公表は、速報、月報、年報といったか たちで行われ、出生数、死亡数、婚姻数、離婚 数を見ることができます。死亡数には乳幼児死 亡数などが内数として表記され、死産数なども 掲載されています。

年次の統計は、第二次世界大戦の戦中戦後の 3年分を除き、1899年までさかのぼって見る ことができます。都道府県別の人口動態や母親 の年齢階級別出生率、死因別死亡率など細かく 集計されていて、保健・福祉を担う厚生労働省 ならではの特徴が垣間見えます。人口問題の議 論でよく耳にする「合計特殊出生率」は、この調 査の関連統計として厚生労働省が算出していま す。

人口推計

前述のように、国内の人口は国勢調査から知 ることができますが、調査は 5年に 1度しか行 われないため、その間の人口統計は推測するし かありません。それを行うのが、総務省の「人口 推計」です。 推計の方法は、国勢調査で得られた人口をも とに、前述した調査の「人口動態統計」のほか、 「出入国管理統計」や国籍の異動数を用いて行い ます。都道府県間の移動については、「住民基 本台帳人口移動報告」から推計します。結果は 毎月1日現在の月次と、毎年10月1日現在の年 次ベースで推計人口が公表されます。

人口と経済

人口統計がほかの統計と違うのは、将来を予 測しやすい、ということです。今年生まれた子ど もは何年後に何歳になるか、正確に予測できます。突発的な何かが起きない限り、年齢 構成も、時とともにそのまま上がってい きます。人口動態は、「既に起こった未来」 ともいえるのです。特に15~64歳の生 産年齢人口の増減率は、実質的な経済成 長率と深くかかわっています。むしろ「人 口動態は経済の基礎」といってもよいく らいです。生産年齢人口の増加は生産力 と消費を同時に増やしますから、経済が 成長するのです。国によっては、国内の 生産力を上げることが難しく、人口が増 えても増えた分を賄うことができない場 合もあります。人口抑制策が取られることがあ るのは、そういうケースでしょう。

日本経済の将来について悲観的な人は少なく ないと思いますが、それは将来の人口構成がど うなるか、分かっているからでしょう。生産年 齢人口が増えない一方で、多くの高齢者を養わ なければならないことは、確実に予測できるの です。しかし確実に予測できるからこそ、将来 起きてくる事態に備えることもできるのではな いでしょうか。

少子化対策が重要課題といわれるようになっ て、既にかなりの年月が経ちますが、出生数が急 に増えることはありません。それを受け入れな がら、いかにして働き手を増やすか、知恵を絞る 必要があります。高齢者が働き続けられる環境 づくりもあるでしょう。女性の地位の向上は、本 来は経済的ニーズとは関係のない社会課題です が、女性の働きやすい職場、子どもを育てやす い労働環境は、経済への貢献も大きいでしょう。

それ以外にも、取るべき対策はいろいろある と考えられます。少ない労働人口で経済力を維 持するために、1人当たりの生産性を高める必 要があります。また、社会の無駄をできるだけ 少なくして、豊かさが広く行きわたるようにす る努力も求められます。人口に関する統計は、 地方・地域ごとに細かく集計されているので、 国家的な政策だけではなく、生活に身近な施策 にも生かされているはずです



8.経済規模ってどういうもの?

世界の国々を経済の規模で比べる時、何が用 いられているでしょうか。もちろんご存じです ね。それは「GDP」という統計です。日本語では 「国内総生産」といいます。この連載でも、さま ざまな経済統計のお話をしてきましたが、最も 影響力を持つ経済統計といえば、多分「GDP」 ではないでしょうか。

GDPは何を表す?

GDPは国内総生産、と読んで字のごとく、国 内で生産されたすべての物やサービスの合計で す。しかし生産された物やサービスを単純に合 計すると、ある生産物が次の生産物の材料とな るような場合、同じものが何度も加算されてし まうことになります。そのような重複を除外し て合計するので、GDPは、国内で生産された物 やサービスの「付加価値の合計」と表現されます。 これが「生産面から見たGDP」です。 生み出された付加価値は、どこへ行くのでしょ うか。価値を付加しているのは労働を提供して いる人々ですから、皆それに対する報酬を受け 取ります。そして彼らを雇用している企業が利 益を確保します。利子や配当として受け取るも のもあるでしょう。それらの総額は、生み出さ れた付加価値と釣り合うことになります。これ が「所得(分配)面から見たGDP」です。 報酬を受け取った個人や、利益を手にした企 業は、必要なものを手に入れるために消費した り、投資したりします。政府による支出も含ま GDPは何を表す? れます。また、輸出は国内で生産された付加価 値ですからこれに加わり、輸入は逆に差し引か れます。これらは生産された物やサービスに対 する支出ですから、その総額もまた、同じ値に なります。これが「支出面から見たGDP」です。 ここまでの説明は非常に大 おお 雑 ざっ 把 ぱ ですが、経済 は価値を生み出し、その価値は分配され、最終 的に支出されるということを表しています。3つ の面のどこから見てもその規模は同じ、という ことを表したのが「三面等価の原則」です。

国民経済計算(SNA)とは?

コンセプトはこのように決して難しいもので はありませんが、実際に計算する手順は非常に 複雑です。そこでは、すべての経済主体のあら ゆる経済活動を記録することを目的に、「国民経 済計算」というシステムが用いられています。英 語では System of National Accounts(SNA)と 呼ばれ、国際連合の勧告によって、多くの国が 導入している国際基準です*。 企業の業績を測るために会計基準があるよう に、国の経済活動を測るにも、計算のためのルー ルがあります。計算に用いる価格に何を使うか とか、費用と投資の線引きをどうするかとか、 そうした基準を合わせなければ、お互いを比較 することができません。SNAのような国際基準 を導入することによって、経済活動の国際比較 も可能になります。SNAに基づき計算されるさ まざまな経済活動の1つが、GDPなのです。 
SNAの基準自体も、より正確に経済活動を表 すことをめざして改定が行われています。経済 活動が物の生産だけならば分かりやすいのです が、実際には金融サービスやインターネットを 使った情報サービスなど、“かたちの無いサー ビス”の経済における存在感は増すばかりです。 また政府による経済活動も決して小さくはあり ません。そうした要素をどう扱うかで、結果は 大きな影響を受けることになるので、時代の要 請に合わせて基準の改定が必要になるのです。

「実質GDP」と「名目GDP」

通常、ニュースなどで目にする「今年のGDP 成長率は○%」といった表現に使われる「GDP」 は、特に断りが無ければ「実質 GDP」を意味し ます。これに対して「名目GDP」というものもあ ります。「名目」のほうが市場価格で計測した値 そのもので、それをインフレ率で調整したもの が「実質」です(図)。 物価が上昇している状態では、生産量が増え なくても、価格が上昇した分だけGDPの値は増 えることになります。そこで実際の経済活動が どうであったかを知るためには、名目値を物価 上昇率で割り引かなくてはならないのです。つ まり、物価が 10%上がっている時に市場価格 で測ったGDPが10%増えても、実質的にはまっ たく伸びていないのと同じ、ということです。 このようにインフレ経済の下では、名目GDP を見てもあまり意味が無いということは分かり ますが、デフレ経済が長く続いている今はどう 「実質GDP」と「名目GDP」 でしょうか。例えば「実質GDP成長率2%」であっ ても、「名目値が 3%伸びてインフレ率が 1%」 という状態と、「名目値はゼロ成長だが物価が 2%下落した」状態では、まったく意味するとこ ろは違うのではないでしょうか。しかし、いま だにこうしたニュース報道では、実質のみを重 視して伝えられているように見えます。

GDPと「豊かさ」

国の経済力を一言で表そうとする場合、GDP は最もそれにふさわしい指標といってよいで しょう。しかしさまざまな問題があることも事 実です。例えば技術進歩の問題。価格が上がら ないまま性能が高度化するデジタル機器などは、 性能の変化を価格に反映させる方法が考案され ていますが、新しい技術が普及すると、こうし た問題は常に発生します。 無形資産の問題はどうでしょう。知的財産が 生産される過程で、その価値を適切に測るのは 困難な課題です。無償労働の問題もあります。 家事労働は外注すればGDPに含まれますが、そ の提供者が家族で、賃金が払われなければ、数 字に表れなくなります。子育てはどうでしょう か。長い目で見れば生産力に直結する最も生産 的な労働ともいえそうですが、家事労働である 限りはGDPに表れません。 私たちの生活が豊かであるためには、必要な ものを手に入れるだけの経済力が必要です。で すから当然GDPと豊かさは無関係ではありませ ん。しかしGDPが「大きいこと=豊か」というわ けでもありません。 例えば公害がひどければ、それに対処するた めの活動がGDPに加算されます。そうした活動 が盛んであればあるほど、公害がひどいという ことになるのではないでしょうか。また、医療 のように健康を守る活動でも、逆に健康を害す るような活動でも、同じだけの労働力を必要と すれば、同じだけGDPが増えるのです。 GDPは有効で便利な指標ですが、その限界を も理解して利用することが必要でしょう。



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