人生を永遠に変えた映画
好きな映画は数多ほどあるけれど、「人生を変える」ような映画に出会うのは至難の業だ。意識下で作用するような影響を与えたものはあるかもしれないけど、はっきりと「これがあったから、私の人生はこう変わった」と認識しているのは、感動的な超大作でも、世界的な賞を総ナメにした作品でもなく、インディーズとも数えられるような小さな作品だ。
その名は「GHOST WORLD」。
若かりし(まだメジャーへの階段を駆け上がる前の)スカヨハが出ていると言えばとっつきやすくなるだろうか。アカデミー賞受賞作「アメリカン・ビューティー」に出ていたソーラ・バーチ主演と言ってどれだけの人がピンとくるだろうか。タランティーノ作品の常連だったスティーブ・ブシェミ目当てで見たこの作品が、私の人生を永遠に変えることになるとは、もちろん思いもよらなかった。
主人公のイーニド(ソーラ・バーチ)は、高校を卒業した後進学も就職もせず、郊外の退屈な街でぷらぷらとただ時間をつぶすだけの日々を過ごす。幼馴染のレベッカ(スカヨハ)も同様で、二人で共同生活をしようと夢想したりもしたけれど、一向に実現には向かわない。イーニドが現実逃避で冴えない中年男(ブシェミ)と仲を深めていく中、レベッカはアルバイトをはじめ、徐々に社会に、現実に向き合い始める。
高校の時は同じ場所にいたのに、いつのまにか、レベッカだけが自立を目指し、すなわち大人になっていく。取り残されたイーニドはレベッカを恨み、中年男をイライラのはけ口にし、自分を取り巻くすべてが気に食わず、親とも衝突を繰り返す。何一つうまくいかない、どうしてこんなにも苦しめられなきゃいけないの、周りが大嫌い、なのに一歩踏み出せない。
と、詰んだ感満載、後半に向けて閉塞感が果てしなく重いストーリーで、正直見ていてイライラすることも多かったように思う。それが何をもって、私の人生を永遠に変えたのか。
ラストシーン、イーニドはバス停にいる。隣に座る老人は、2年前に運行停止になったバスを、(それを理解できずに)待っている。そこにバスがやって来る。老人が立ち上がり、not in serviceと表示されたバスに乗り去っていく。バス停に一人取り残されるイーニド。次のバスが来る。
イーニドは、黙って、そのどこへ行くかもわからないバスに乗る。
それは、彼女の決意だ。子供時代と別れ、大人になることの。GHOST WORLDに別れを告げ、現実を生きるための。彼女はもうこの街には戻らない、そう決意して出て行った姿だ。
その時一度映画館で見ただけなので、ディティールは間違っているかもしれない。けれどそのラストシーンは忘れられない。バスを見つめる無表情のイーニドの横顔、遠目に去っていくバス、後に残る空っぽのベンチ。私は、その姿に自分が重なったのだ。大学生活にイマイチ馴染めず、日々の生活に鬱屈していた、変わるチャンスを見出せず、都合の悪さを環境や周りのせいにしたまま終わっていく自分の姿。バスに乗らなければ、私は永遠にこのままだ。
この後、私は実際に行動を起こし、人生を永遠に変える体験(留学や海外生活)に飛び込んでいく。その話はまたいつかしたいと思うけれど、始まりはこの映画だったと断言できる。
人生はタイミングというけれど、その妙に心を掴まされる。そのチャンスやきっかけを、逃さない自分でありたい。その柔軟性を、いつでも持っておきたいと思う。