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弟の日記② ドヤ顔の蚊

 駅近くのカフェチェーン店のコンセント付きカウンター下。この場所こそ、我々、蚊にとって最適解である。

 最高気温が毎年更新されていく現代、特に今年の夏は日差しで羽が焼けてしまうのではないかと心配になるほどだ。そんな環境下で行き交う人々の血を求め、ブンブン飛ぶのはこちらの体力が持たない。

 だからと言って、人の住処で飛び交うのは危険だ。

「お前馬鹿だな、人の住処にいるのが一番吸える確率が高いじゃねえか」と言って、人の住処に飛び去ったアイツは元気だろうか。吸える確率は高いだろうが、潰される確率も同様に高いことに気づけばいいのだが。

 確かに、涼しいし休憩場所も多く、活動しやすい環境かもしれない、しかしそれは人も同じ。なにより、人の住処には「人の目がない」

 これは意外にも蚊の生存率を飛躍的に高める重要なポイントである。日本人は周囲の目を異様に気にする生きであるため、人の目がない自身の住処であれば、盛大な音を鳴らして叩くことができるし、血を吸った憎き我々を潰すまで、怒りで狂喜乱舞しても問題ない。何度も何度も追いかけられ、気を抜いた瞬間、大きな手のひらでプチっとされるのがオチである。

 つまり、人の目さえあれば執拗に追われにくいということ。故に生存率がグッと高まる。私レベルの蚊になれば、日本人の性格をも利用する。

 というわけで、我々が安全に生き続けられる最適解こそ「駅近くのカフェチェーン店、コンセント付きのカウンター下」なのだ。

 駅近くだから、人がいなくなることはないし、涼しいから熱波に苦しむこともない。カフェだから他の客もいる、刺された恨みで露骨に探し回ることもできないだろう。

 さらに、コンセント付きのカウンターはスマートフォンに依存した哀れな人間には天国スポット。その席に座るような人間は、刺されてもなるべく居座るから何度も吸える。吸い放題パラダイスってわけ。

 もし、長時間居座る客に困るカフェがあれば、我々を派遣するのがオススメである。報酬は健康的な血を少々でいいから、ウィンウィンであろう。ぜひ、検討してもらいたいものである。

                〇

 駅近くのカフェチェーン店、コンセント付きのカウンターで、左足を刺された怒りと苛立ちをどこにも発散できず、この文を書いている。

 私は虫よけスプレーを噴霧しても、問答無用に刺される。今日も今日とてむせるほど噴霧したがこのザマだ。

 私の足には、命の危険を冒してまでも吸いたい美味しい血があるのだろう。なにそれ、全然嬉しくない。

 せめてスマートフォンの充電が八割いったら……と、うだうだしている内に、今度は右足が痒くなってきた。

 今頃、両足を掻きむしっている私を眺めながら、生まれたての蚊に「ほらな」と言ってドヤ顔をしているだろう。くそぅ……

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