![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/171081524/rectangle_large_type_2_fddd2d823757eb81088a77926cde6acd.jpeg?width=1200)
クルーズ中に人が亡くなることもある【カリブ海クルーズ 8】
全ての寄港を終え、あとは来た航路を戻るのみ。
残りの時間はクルーズ船の静かな場所でゆったりくつろいで過ごしたい。わたしたちは子ども禁制のセレニティエリア(Serenity Area)に向かった。
メインデッキのプールサイドに比べるとかなり落ち着いた雰囲気なのはありがたい。それでも船上の限られたスペースゆえ、わたし好みのリゾートに比べると隣との距離が近い。
![](https://assets.st-note.com/img/1737481635-TJzQ3pEhvbfR2usAaPtXr4jo.jpg?width=1200)
この日はとても風が強かったので、屋根の下の風があたらないベッドに寝転び海上の景色を楽しみながら飲んでいた。すると、船内放送で「メディカルチームはすぐに◯◯の部屋に来て下さい」とアナウンスが流れた。
誰か重病人でも出たのかな?とちょっぴり騒然とする雰囲気があった。乗客が客室で倒れたようだ。あとで聞いた話によると、その方はそのまま亡くなったそう。(また聞きなので不確かだが)6000人近い人々が乗船しているのでそんな事態が起こっても不思議はない。
共に旅をしていた方はさぞかし驚いただろうし、せっかくの旅が気の毒なことになったと思う。
その一方でつい4年前、末期癌の夫の闘病を経験し、最期を見届けたわたしなので不謹慎ながら思った。
もしその方が人生をたっぷり楽しんできた高齢者だったのなら、「クルーズ中に人生を終えられるのならそれも悪くないな」と。
病院のベッドよりいいじゃない。
闘病で苦しみ抜いた末よりいいじゃない。
人はいつか必ず死ぬのだから……。
QPさんとそんな話をしながらわたしたちはバルコニーで海を眺めていた。
夕暮れが迫ってくると空と海の大自然が織りなすスペクタクルなショーが始まる。この日、船から見たサンセットはほんとうに美しかった。
![](https://assets.st-note.com/img/1737484636-dIC5HZWXRagwcpMvq04EknSz.jpg?width=1200)
写真を撮ることが好きなQPさんが、サンセットをバックのわたしを撮りたいからそこに立ってとわたしを手招きしスマホを向けた。今夜のドレスコードは2度目のエレガントナイトなのですでにふたりともドレスアップしていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1737487111-nBMYOtDwQPUjpCS5yvbKehsd.jpg?width=1200)
ドレスコードがエレガントの日なので、写真を撮ってくれるフォトグラファーが再びの大人気。
「馬子にも衣装」の人々がお気に入りのバックグラウンドのスタジオに並んでいる。
わたしたちふたりは写真が嫌いなので、あまり撮られたくはない。現実を注視したくないアラ還カップルなのだ。
でも、こういう機会はあまりない。
「葬式用の写真になるから、このさいわたしたちも撮っておこう」
ってことで撮ってもらった。
![](https://assets.st-note.com/img/1737489796-r2PUcVCumEzDifRp0bgd8yxa.jpg?width=1200)
あら、不思議!!同じ服着ているのに自分たちで撮った写真とはまるでちがう。ポーズの付け方か、角度か、光か、カメラの質なのか?やっぱりプロの手にかかるとそれなりに見えると恐れ入った。
![](https://assets.st-note.com/img/1737488429-cpAM1D3gXNGkfTu7dx2mLrEl.jpg?width=1200)
撮ってもらうのはタダ、かなりの枚数を撮ってもらったけど全部買うわけにはいかないので、二人で何枚かを選んだ。モノに執着しなくなったわたしたちにとってはクルーズの思い出としてはちょうどいい記念といえなくもない。
セレブにでもなった気分で撮影してもらうのはおもしろい体験だった。
翌日も航路マイアミに向けて進む。
最終日になって、ようやく興味なかった船の遊園地部分を探検してみた。家族連れにはありがたいオールエイジってことだろうけど、大人の時間を楽しみたいオールドカップルにはなくてもいい娯楽施設だ。
![](https://assets.st-note.com/img/1737491608-3d15F0Eklm9XvbzuRtqxYwyW.jpg?width=1200)
クルーズ最後の夜は、ホワイトパーティーの名の下、白い服で踊るパーティーだった。少し覗いてみたけど、正直わたしにとっては、この手の大騒ぎパーティーはもうごちそうさまだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1737492308-vCXx5i1utkqdlasc7wZ0hBfb.jpg?width=1200)
クルーズ中でわたしがいちばん幸せと思えたのは、海の見えるバルコニーでQPさんといっしょに紺碧の海、暗黒の海、美しい夕暮れを眺めながらの語らいの時間だったので、そっと部屋に消え、二人で最後の暗黒の海を味わっていた。
「同じ船に乗っていた一人がクルーズ途中でかけがえのない人生を終えたけど、そんなことおかまいなしにクレージーなパーティーは続くのね」
「ハッハッハ。今、この真っ黒な水の中にボクが飛び込んだとしても、誰も気づかないさ。いつのまにか一人いなくなった。ただそれだけさ」
![](https://assets.st-note.com/img/1737492564-FIBfV4ye6dgno1JXbRwDhMHL.jpg?width=1200)
海を前にすると、かけがえのない一人の人生もほんとうにちっぽけなものに感じられた。
たわいない会話を続けながら、わたしたちは翌日の下船に向けて荷造りをした。
明け方8時には予定どおり、マイアミポートに到着し、無事にクルーズの旅を終えた。
![](https://assets.st-note.com/img/1737494056-aiqxygUosAjwDVrZ5bLKPFmB.jpg?width=1200)
いいなと思ったら応援しよう!
![yahoi /ライフエディター・エッセイスト](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/39931462/profile_8f2f6195d9a4aee3d703664a4a23e225.jpg?width=600&crop=1:1,smart)