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「時空をこえて影響を与える」作品はありますか?

「今までで一番影響を受けた本はなんですか?」という問いがある。これは定期的に聞かれる機会があるのだが、答えるのがなかなか難しい。しかし、ときどき聞かれる質問ではある。僕は読書が趣味なので(たぶん)、それなりに本を読んでいる。

10年ほど前から、読んだ本は読書メーターというWebサービスに記録している。記録されている本だけで1000冊を超えるが、これまでの累計では数千冊は読んでいるだろう。

しかし、「どの本が自分に一番影響を与えたか」と言われると、どうにもピンとこないのである。あえて言うなら、これまで読んだ本すべてからちょっとずつ影響されて、いまの自分ができている、という感じだろうか。

と思っていたのだが、考えてみると、ひとつだけ例外があった。それは、灰谷健次郎の「太陽の子」である。

この作品は間違いなくもっとも自分に影響を与えているし、万人におすすめできる不屈の名作だ、と思う。奥さんは読んだことがないというので、ぜひ読んでほしいと思い、少し前に文庫本で購入した。

「今まで読んだ本の中で一冊だけ」と言うのなら、この作品を挙げるだろう。僕の人生でいうとだいぶ序盤、小学生のときに読んだ本なので、ついリストから外してしまっていた。

本作は1970年代に出版された、灰谷健二郎の児童文学である。児童文学とはいっても、子どもでも読めるように書かれているというだけで、分量は300ページ以上あるし、内容も決して子どもだましなものではない。

舞台は戦後数十年が経った神戸。「てだのふあ・おきなわ亭」という沖縄料理店を営む両親のもとで育った女の子・ふうちゃんが主人公である。あるとき、沖縄出身のお父さんが精神の病気にかかってしまい、その原因を探っていくうちに、戦争のことや、自分の周囲の人々の温かさに触れていく話だ。これを読んでいる人にもぜひ読んでほしいので、内容の詳細はあえて語らないことにする。

この作品は、僕の中では「完全作品」というジャンルに属する。僕の中の定義では、「名作である」というのが前提条件で、作品の中にいろいろな年代の人々が存在し、自分が成長するとともにそれぞれの人に感情移入できるようになっていく作品のことを指す。

僕がこの本を読んだときは小学生だったので、当然小学生の主人公であるふうちゃんに感情移入したのだが、いまでは大人サイドの気持ちになって見ることができる。

自分の成長とともに作品を見る目が変化していき、作品がもつ別のテーマにも気づけるようになる。何度読んでも、何年読んでも色褪せない。それほどの名作というのはそうそうあるものではない。

奥さんも読了したら感動していた。そして、「自分が子どものときにこの本を読んでいたらよかったのに」と言っていた。確かに、そう感じることもあるだろう。が、ふとそのとき気づいたのだが、いま、その感受性があるということは、もはや子どものときに読んだも同然ではないか、と思った。

読んでも響かない人は、子どものときに読んでも響かないだろう。いまの自分が子どもの状態になって、その作品から影響を受けた、ということではないだろうか。すばらしい文学は過去の自分にさえ影響を与えるのでは? となんとなく思ったのだが、確かにそれはすごい考えだと思った。

「完全作品」とは、さまざまな年代、さまざまな立場の人間が登場し、読み返すたび、時間が経つたびにいろんな人に感情移入できるだけでなく、「過去の自分」にさえ影響を与えることができる、と。確かにそれは普通の小説ではなかなかなしえないことだろう。

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やひろ
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