ジャンルを飛び越えるとき
現代ほどジャンル定義に意味のない時代はないと思う。いちおう、作品を販売するときのジャンルとして、物語ならミステリー・SF・ドラマなどがあり、音楽なら、ロック・ポップス・クラシックなどのジャンルが存在している。横方向のジャンルだけではなく、たとえば小説では、大衆文学・純文学・ライトノベル・時代小説みたいに縦方向? にもジャンルがあり、文字通り縦横無尽だ。もはやジャンル定義に意味はあるのか、とすら思える。
ジャンルは横断するのが面白い。最近の物語で、ミステリーの手法を全く取り入れていない作品は珍しいだろう。「先がどうなるかわからない」から物語は楽しめるのだが、ミステリーの手法を使うと、より効果的に演出できる。しかし、いくらミステリーの手法を取り入れているからといって、すべてがミステリーとなるわけではない。
最近、学生時代によく聞いていたピンク・フロイドというバンドをよく聞いている。これはプログレッシブ・ロックと呼ばれるジャンルの音楽だ。これは宣伝のときの宣伝文句? として誕生したジャンル名なのだが、要するに、「ただのロックではないぞ」と。
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ピンク・フロイドの音楽は従来のロックという括りではとてもおさめられない。まだパソコンが存在しない時代に、音楽とは全く関係ない雑音や、人の声や、レジスターの音を入れてみたり。ギターを主体にしたロックだったかと思えば、管楽器が出てくるシンフォニーが奏でられたり。要するに「なんでもあり」なのだが、それを包括する概念として「プログレッシブ・ロック」という言葉が新たに誕生した、と。
僕も音楽をつくったりしているが、自分の作っている音楽が定義できない。音楽でいうと、最初は電子音あり、ピアノあり、電子ドラムありの構成の音楽を作っていたので、「ポストロック」というジャンルを自称していた。そして、実際に楽曲を紹介するときも「ポストロックです」と紹介していたのだが、だんだん作風が変化してきて、電子音なしの弦楽器主体の音楽をつくるようになって、それでも昔からの流れで「ポストロックです」と名乗っていたら、新規のリスナーから「どのあたりがポストロックなんですか?」という鋭くも純粋な質問が飛んできて、「確かに、ロック要素がない!」と気付いて、それ以降ポストロックを名乗るのをやめたことがある。いまは、ジャンル不詳ということでやっている。本当にわからないから、まあいいんだけど。
ジャンルを飛び越えるというのは面白い。ジャンルは縦断して楽しむもの、といえる。こないだ映画になったクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」も、ロックでありつつ、オペラ要素を入れるという斬新な試みによって伝説的な楽曲となった。最初はロックファンからもオペラファンからも白い目で見られたことだろうが、いまではあれがひとつの伝説となっている。
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ジャンルなんて、せいぜいそれを売る人が便宜的に設けたひとつの「売り方」にすぎない。クリエイターは、ジャンルのことなど気にすることなく、自分の好きな手法、好きなモチーフを縦断的に詰め込んで、作品を作っていけばいいのでは、と。
あと、いま僕が書いているこれも、いちおう「エッセイ」「日記」ということでやってるのだけれど、冷静に考えるとエッセイでも日記でもないんだよな。そういうのも、本当に瑣末な話。少なくとも僕には関係ないし、読者にも関係ない。(執筆時間12分47秒)