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わからない、怖い、何もしてもらってない

「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」という本を読んだ。

たまたま本屋で見かけて、ちょっと面白そうだなと思って手に取ってみたのだが、読んでみたら思っていた以上にインパクトのある本だった。

このタイトルを見た瞬間、「これって私のせいですか」という疑問に対して、「いや、どう考えてもあなたのせいでしょう」と最初から思っていたのだが、それでも一応読んでみようと思った。自分とは異なる考えを持つ人の意見に興味があったからだ。

しかし、実際に読み進めてみると、その内容はなかなか衝撃的だった。

まず、著者が国会議員にアポイントを取って「この社会についての疑問」を質問しに行くわけだが、最初の訪問から完全にノープラン、準備ゼロ。何も勉強せず、何も質問を用意せず、「私は何もわからない、ただ世の中がおかしい」ということを言いに、わざわざ国会議員のところに行く。

国会議員も、まさかノープランで来るとは思っていなかったようで、何も具体的な質問がこないので困惑してしまう。なので、最低限はこの本を読んできて、と課題図書? を指定して初回が終わる。

この冒頭を読んで、正直アホかと言いたくなる気持ちを抱いたが、こういうところから話が始まっていくのだ。

「現政府の財政について」「安倍政権について」「社会保障について」「原発について」等々、いま社会で話題になっているテーマを、「何も知らない著者」が、体当たりで国会議員にぶつけ、その質疑の様子を本にした作品。

インタビュー先の議員は立憲民主党の小川淳也議員なのだが、はっきりいって失礼極まりない著者の来訪に対し、誠心誠意をもって答えていく。理由としては、「こういう人にわかりやすく政治を説明し、議論することが、自分の義務だし、テーマである」ということで、挑戦してくれているのだ。

Amazonの文庫版のレビューと、もともとのソフトカバーのレビューで、評価がかなり異なる。文庫版のレビューは結構辛辣で、ソフトカバーのほうはそれなりに評価されている。

辛辣な意見としては、たとえば以下のような感じ。

思考能力が皆無で、自分の無計画な人生は棚上げし、国が悪い、政治が悪い、私は悪くないという中年女性が政治家に話を聞く本。

もしかすると最後まで読むと印象が変わるのかもしれないが、あまりにも他責、無思考、無責任な著者の言い分に辟易し、半分ほどでギブアップした。

https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R30A8MMSDXS6YW/ref=cm_cr_dp_d_rvw_ttl?ie=UTF8&ASIN=4022621028

「これって私のせいですか?」という問いに象徴されるように、著者の生き方そのものが、かなりの無責任さ、他責思考を感じさせる。もちろん、ただ著者個人を批判しても仕方がないのだが(意味がないし)、この本をきっかけに「政治とはなんぞや?」というものを考えさせられた。

多くの人は政治にあまり関心がないかもしれない。もちろん、関心がある人も多くいるだろうが、大多数の日本人はあまり関心がない。

一方で、とても政治に関心がある人々もいるのだが、そういう人たちは生活に困窮している立場の人々かもしれない。「社会保障が不十分」「政治家が悪い」「政治家がなんとかしろ」といった声もよく聞くが、その感覚が僕にはあまり理解できない。

例えばコロナ禍の際に、「政府のコロナ対策が不十分だ、もっとなんとかしろ」と思ったことはない。コロナ禍というのはパンデミックであり、政治家や公務員だって被害者だ。

むしろ、官僚たちが夜遅くまで働き、有識者が意見を主張し、矢面に立って批判される姿を見れば、「もしかしたら本当のベストではないかもしれないが、現状を考慮したうえでのベストを積み重ねてくれているんだろうな」と思っていた。

しかし、この本の著者には不満があったらしい。生活が困窮していたからだ。その意味では、僕は恵まれていたから政治家に恨みを持たなかったのか? と考えたが、それだけではないように感じる。

結局、政治というのは分配の問題にすぎない。「資源はみんなが生み出したもの」であり、それをどう分け合うかを決めているに過ぎない。こういったことに文句を言う人は、おそらくどんな立場になっても文句を言うのだろう。

例えば著者がお金持ちだったとしたら、税金が高くなることに対して「こんなに税金を取られるのは理不尽だ」とか言い出すのだろうな、と思った。歳出の多さに対して、「何かしてもらいましたっけ?」と書かれているのを見て、僕は「アホか」と思った。

社会に参加しているという自覚がないのだろうか。なぜ自分のために社会が存在していると思えるのだろうか? でも、こういう考え方の人が実際にいるということを知るのは、確かに勉強になったかもしれない。

本のレビューでも書かれているとおり、いろんな側面で切り取ることができるのだが、僕はこういうタイプの人々を理解するためのキーワードは「わからない、怖い、何もしてもらっていない」だと思った。

原発が怖い、だからゼロにすべき。そう主張するのはいいのだが、じゃあいまの生活はどうするんですか? と。原発がダメなら、当然火力発電に頼らなければならないわけだけれど、それでいいんですか? と。そういったところまで考えて議論をしなければならないのだけど、「わからない、怖い、何もしてもらっていない」では何も前に進まない。

そういう人をいちいち相手にしていられないので、強引に進めると「独裁的だ」と騒ぎ出す。結局、民主主義国家ってどこかで「臨界点」を迎えるんだろうな、と思った。日本に限らず、どの国を見ても「ここが理想社会だな」と思えるところがないので。

ひとつ言えることは、「社会とは、みんなが参加してつくるもの」ということだろう。決して、不満を一方的に主張することではないと思う。


あなたは、世の中が悪いのは政治のせいだと思いますか? 



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やひろ
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