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Albträume löschen ~あなたの悪夢、消し去ります~

 ある女性は夢を見た。家族が一人残らずと地に還っていく様を。
 ある女性は夢を見た。夢と判断も出来ずに泣いた。

 窓辺からさす少量の光が、白く光る髪と頬に流れた雫で反射する。
「もう……こんな時間か」
 夏の朝四時、手に取った目覚まし時計はまだ鳴らない。しかし、机上に置かれたタブレットから通知の音が止まないことに気づき、彼女は無造作な髪のままタブレットを操作した。
「あなたの悪夢、取り除きます」などという安っぽい見出しとは裏腹に依頼者は溜まっていくばかり。「これこそ、我々にとって悪夢なのではないか」「これを始めてよかったのか」等と文句を言うことは、タブレットから垂れ出てくる通知が許さない。

 ようやく通知が止まった。部下の者に今日の依頼者の人数を送り、タブレットを手放した。一つ欠伸をし、鏡を見た。自分のみっともない姿を見て嫌気がさした。窓のほうに目を向けると灰色の髪が少し赤く染まった。

 夢桜 泉香は赤くなった髪をつき放つようにカーテンを閉め、涙跡を消す為、寝室を後にした。

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