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Albträume löschen~あなたの悪夢、消し去ります~

 気付けば彼女は暗闇の中を歩いていた。疲れはない、いつも満ちていない腹の感覚も特にない。初めて見た景色の筈なのに、何処へ向かえばいいのか知っている。この不思議な感覚に彼女は恐怖を覚えていた。

 足が止まったのも真っ暗闇の中であった。
「どこ……ここはどこなの……?」
 口に出した瞬間目の前で無数の紅い光が眼を刺した。眼をすぼめると今度は耳元でキシキシと鉄が軋む音がした。眼を開けると錻の鼠が目の前を埋めていた。

 ようやく目の前が元に戻ると足首に違和感があった。恐る恐る足元に目を落とす。人の顔をしていない、でも、確かにもう一人の彼女がそこにはいた。
「あぁ……ぅ……あ……」
 食物を乞う音が脳を木霊する。
 恐怖から、彼女の肺も喉も機能しなかった。
 もう一人の彼女が手を伸ばし、足首を弱い力で、でもしっかりと掴んできた。
 彼女は思わずそれを蹴り上げた。
 宙を舞ったそれは、地面に叩きつけられ、息の根が止まった。

 彼女は恐怖の渦に巻き込まれたのだ──。

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