食より本の台湾四日間
台湾に行ったと人に言うと、いいなあどうだった?と聞かれる。すごく楽しかったし、やっぱり美味しかったよ〜と簡単に返答をしているけど、一番語りたいのは台湾でみた"本"のまわりについてだ。
旅に出る前に『本の未来を探す旅』台北編を買い、それを参考にしながら回る書店をリストアップしていた。全部読み込むことはしなかったのだけど、あるページで台湾の出版業界の問題について触れていた。そこには、書店が立て続けになくなっていく状況に危機を感じた政府が新しく書店を開業する人たちに援助をしている、という内容が書いてあった。そのおかげで新しく面白い書店は増えたが、それは根本的な問題の解決にはなっていないらしい。
そうだったのか〜と軽く理解した気で台湾の書店をぷらぷらと歩き回っていた。
台北市内の移動は基本的に電車だったのだけど、Wi-Fiがうまく繋がらずいつも手持ち無沙汰だった。文庫本を日本から持ってきていたので移動中読んでいたのだけど、なんとなく周りからの目線を感じる、というか浮いている…
なんか違和感あるなあと思って、その車両を見渡してみると誰も本を読んでいない。本当に誰も。
カフェにいる時や公園に行った時、バスに乗った時もなかなか読書をしている人に巡り合わなかった。おや?
ひたすら食べまくっていたけれど、その分台北市内を歩き回ってもいて、そこでも気になったことがあった。まちに長年あるような書店が見当たらない…いわゆるまちの本屋さん的な書店があまりない。その代わりに、誠品書店はいろんなところで目にした。esliteという商業施設がメインステーションの周りには大体あって、その中に誠品書店は入っていた。蔦屋書店を模倣しているから雰囲気も極似。雑誌はほぼ日本のもの。あれここは日本?と錯覚するほどだった。
こういった新しい書店ばかりでまちに根付いた書店があまりない。おやおや…?
ひとしきり行きたい書店を回って食べて食べて3日目。前会社の同僚(台湾人)と宜蘭(イーラン)という台北からバスで1時間ほど東に行ったところへ小旅行をした。その移動中、まちを歩いて疑問に感じたことをいろいろと聞いてみた。
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私「台湾の人ってあんまり本読まないの?電車の中で読んでたら、なんかすごい浮いたんだけど…」
友人「笑 あまり読まないと思う。電車では読まないね〜読むとしても試験前の切羽詰ってる時に単語帳読むくらいだもん。電車で本読んでる人いたら、うわ〜意識高い人だなあって思う笑」
私「え、なんか恥ずかしいな…若い子はまだわかるんだけど、お年の人も読んでなくてあれ?って思ったの!」
友人「台湾のおじいちゃんおばあちゃん世代は文字読めない人たくさんいるんだよ。中国語の教育をちゃんと受けれてない人たくさんいるから。だからだと思うな〜」
私「なるほど…カフェとか喫茶店とかでも本は読まないの?」
友人「うーん。読んでる人もいると思うけど少ない気はする。私の意見だけど、そういう人ってなんか洒落ついてるというか意識高い系に見えるというか。結構、台湾で本ってそんな感じかも。お洒落に、賢そうにみせるものみたいな」
私「まじか……」
友人「私が彼氏と付き合いたての時、本屋さんを待ち合わせの場所に指定されたことが何回かあったの。それも『本を読む人なんだ!素敵〜』みたいに思わせたいというか、そういう使い方を若い子たちはしている気がするなあ」
私「(言葉失う)…。それって意外と大きな問題かもしれないね。ある本で、台湾の古い書店が立て続けになくなっていると知ったんだけど、今の話聞いたらなるほどなと思った。実際新しく本に対して取り組む人たちがいる中で、Aちゃん(友人)みたいな考えを持つ人はそれ以上にたくさんいるんだろうね。だから、新しい書店の開業を政府がサポートしたところで、根本的な"読者層が少ない"っていう問題の解決にはなっていないってことなのかも。」
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…っていう会話をバスの中でしていたのだけど、驚いた。まちを歩いていて、変だなと思っていたけれど想像以上に台湾の本離れというか、習慣として読書が根付いてないのはショックだった。
日本は昔から本を読むということが当たり前のようにあったと思うし、実際電車やバスを見渡してみてもお年寄りの方は読書にふけっている人が多い。喫茶店などに行けば必ず本を読んでいる人がいるはずだ。
台湾の状況を断片的にでも知ると、日本の本離れと言われているのがまだ優しいものだとさえ思えてくる。
今のバイト先に来年度から台湾の大学に進学する2個下の子がいるのだけど、その子によると「台湾における出版の歴史はまだ浅いから文化として読書が根付いてないと思う」と言っていた。
たしかに今、台湾は出版ブームというか新しい流れが来ているのは間違いないが、それはあくまで"発信する側"の話に過ぎないのかもしれない。読み手側がまだ追いつけていない現状があるような気が私はしてしまった。
注意したいのは、あくまで個人の意見だと言うことだ。聞く人、聞き手によって感じ方はきっと全然違う。でも、私が4日間台湾に滞在ながら見て聞いたことからは、日本以上に台湾は本への関心が低く、固定概念のようなものが独特であった。
とは言っても、台湾の書店を回ってみたらかなり面白かった。
特に田園城市風格書店はわたし好みで、台北発マガジンのバックナンバーが豊富だし、陳列の仕方もかっこよかった。同じ階にはカフェがあるし、地下にはアートスペースのようなものがあり、いわるゆる今っぽい書店でもある。でも、ここはある程度歴史ある書店だからかなんか好きだな〜
ここで台湾の雑誌がめちゃくちゃかっこいいってことを声を大にして言いたい!デザインが枠に収まってなくて最高に面白い。ちゃんとした雑誌ではあるけれど、製本がかわっていたり、zineのような自由さもありながら完成度の高さも素晴らしいと思う。
また、日本の文化を発信する「秋刀魚」という雑誌は、その熱量に日本人として胸が熱くなった。日本人も知るべき日本特有の文化がびっしり調べ上げられているし、なのに可愛らしいデザインで読みやすい(読めないのだけど)。日本人としてありがたいなあって思った。友だちにガチャガチャオタクがいるので、これをあげることに。
食はもちろん本に関しても良いイメージを持って始まった台湾旅だったけれど、なかなか難しい現状がみえた。でも素晴らしいのは、政府が出版業界に危機感を持って実際に支援をしているということだと思う。日本の政治が出版業界にこうして手を伸ばすことは考えられないし、もしかしたらもはやその逆で苦しめられているのかもしれない。
友人から話は聞いていたけど、国、政治への関心が日本に比べたら台湾は圧倒的に強い。比にならないと思う。自分たちの一票で本当に世界が変わってしまうという危機感を感じる(私が滞在している期間が大統領選挙の真っ只だった)。
そんな話も含めて、台湾には未来があるなと強く感じたのだ。現状をもっともっと良くしようと、国、国民が戦っている動いているように見えた。出版業界からもそれが強く伝わってくる。
きっと台湾を食のみの観点で巡っていたら、上に書いたほとんどのことは微塵も感じなかったかもしれない。台湾の食べものは生活に寄り添っている。安くおいしくいつでも。あまりにも好都合で便利だ。
便利で好都合な旅。そんな旅ばかりしていた気がする。好都合になるための旅を。
楽しみに行っているのだからそれでいいのだけど、食以外の違う関心を持って旅をすることは、陰の部分が見えてくることもあって、それってとても大事なことだと気付かされた。
いいものだけを見に行く、想像していることだけをしに行く。そうではない旅を今回はすることができたみたいだ。
あれよあれよと24歳になってしまったけど、今回みたいな旅をこれから少しずつ重ねていきたい。ある程度、無計画な旅。
そして、旅はそこで生きてきた人がいてくれることによって、ぐんと面白さが増すのも最近ようやく知れたこと。
今回は、前の会社の同僚である二人が快く家に泊めてくれたり、休む時間を惜しんで台湾を案内してくれたから、こんなに楽しむことができた。心から感謝だ。
もっと本を読んで本を知る。その気持ちがより強くなった台湾旅。ありがとう〜!