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ビズリーチ創業と成長の軌跡「突き抜けるまで問い続けろ」
ビズリーチ(現ビジョナル社)代表の南さんの学生時代から始まり、楽天イーグルス発足、ビズリーチ創業とその後の急成長までをかなり細かく描いた、とてもアツい本。めちゃくちゃ良かった…。
個人的には、楽天イーグルス発足時に先輩方から得た学び、そしてそれをもとにビズリーチの事業アイデアを着想し初期の立ち上げを進めていく様子がリアルに追体験でき、めちゃくちゃ面白くて学びが多かったです。
自分が今携わっている事業に当てはめるとこうだろうか?ウチの会社ならこうだろうか?など想像しながら読み進めていると、メモが止まらなくなりました。
加えて、南さんの仕事観や人生観みたいなところも多く垣間見えて、これまた非常に面白かったです。
印象に残った箇所を抜粋、コメントしていきます。
小澤は事業づくりにあたって、課題の「本質」を探ることにこだわった。 「いいか、うまくいっているビジネス、成功している事業には必ず理由がある。それが何か探り当てることから始めろ。徹底的に調べて掘り下げて、その本質を見つけ出せ」そのために小澤は「要素分解」という言葉を頻繁に使った。
小澤は自分の人脈を駆使して当事者に直接、話を聞きに行った。対象は球団関係者に留まらず、取引先の業者や広告主など、会える限りの人に会い、とにかく情報を集めていた。 「何が成功し、何がうまくいかないのか」 聞くポイントを絞り込み、ひたすら取材を重ねていく。 当時、会議以外の時間に、会社で小澤の姿を見かけることはほとんどなかった。。
小澤は何度もこう繰り返していた。 「大切なのは、課題の本質であるセンターピンを見抜くことだ」 ボウリングでは、並べられた 10 本のピンのうち、中央最前線にあるセンターピンを倒せば、ほかのピンも倒れやすくなる。 ビジネスも同じで、もっとも本質的な課題を解決すれば、状況は一気にひっくり返る。だからこそ徹底して情報を集め、要素を分解し、センターピンを探し当てる必要がある。
三木谷浩史、島田亨、小澤隆生。 スタイルこそ違うが、課題を探り当てる3人の行動原理を間近で学んだ南壮一郎は、ビズリーチの起業を通して、「問いを立てる」フレームワークをブラッシュアップしていく。
①自分の問題意識に引っかかる課題を見つける(トリガーを引く)
②課題を徹底的に調べて要素分解をし、本質を見極める(センターピンを見つける)
③本質的な課題解決の方法を考えて端的な言葉や数字で表現する(打ち出し角度を決める)
楽天イーグルス立ち上げで学んだこと:
・徹底した要素分解
・徹底した成功事例リサーチ
・センターピンを特定する
・課題解決の成果を数字で測る
・門外漢だからこそゲームのルールが変えられる
球団経営における課題のセンターピンが「球団と球場の一体経営」であったこと、居酒屋感覚でスタジアムに来てもらうよう工夫すべくディズニーランドをベンチマークしていた話などが面白かった。
日本でも、リンクトインに似たサービスを展開できないか。帰国した南は、その実現性を調査した。
なぜヘッドハンターは、人によってこうも紹介してくる仕事が違うのか——。しかも、ヘッドハンターたちは、狙いを定めたようにピンポイントで特定の会社を紹介してくる。 「色々な選択肢を提示してもらえること自体はうれしかった。だが本当にこれが僕のすべての選択肢なのかと疑問に思った」と南は振り返る。
人間の寿命が長くなる一方で、企業の寿命はますます短くなっていく。今後は日本のビジネスパーソンが一つの会社で一生勤め上げるのは、著しく難しくなる。日本の伝統的な雇用制度は変わらざるを得ない。転職市場は近い将来、さらに拡大する——。 その瞬間、南の中にピンとくるものがあった。
ビズリーチの着想は、海外事例、身近な疑問、マクロ環境から。
経営においても、竹内が南に与えた影響は大きい。創業以来、南は自分以外の取締役の過半数を、エンジニアやプロダクトマネジメントの経験のある人材が占めることを経営のルールとしている。インターネット企業なら、大きな意思決定の場に、エンジニアリングやプロダクト開発のことが分かる人間が関わるべきだと考えているからだ。
CTO竹内さんの影響は大きい。
竹内と永田がサービスやプロダクト開発を進めていく傍ら、南はヘッドハンターの営業に奔走していた。自然と、組織における役割が分かれていった。 「僕は営業の仕事をしたこともなければ、マーケティングにも詳しくない。システムをつくれるわけでもないし、プロダクト・マネジメントもできない。創業時から、自分の役割が何なのかを考えて行動していた」と南は語る。 そんな消去法で残ったのが、ヘッドハンターの開拓という仕事だった。
初期の役割分担。
「海外では主流になりつつあるサービスで、優秀な人材を採用できます」と訴えても、大抵はこう返された。「人材紹介会社にお願いしたら全部やってくれているのに、なんで、自分たちでやらないといけないの」——。 企業側の理解を得るには、相当の努力が必要だった。
企業向けサービスを拡大するための最大の課題は、「現状を変えたくない」という人間らしい意識をどのように変えるか、という問題に行き着く。
ヘッドハンター向けサービスは順調に立ち上がったものの、本丸である企業向けサービスは当初苦戦していた。「現状を変えたくない」は全てのtoBサービスに立ちはだかる壁…。
「勝ちぐせ」は、掲げた目標を絶対達成することで育むことができる。目標達成が当たり前の組織と、未達成でも仕方がないと考える組織では、天と地ほどに業績が違う。「達成していないことが格好悪いというカルチャーをいかに早くつくるかが大切」と多田は言う。 では、どうやってそんな組織文化をつくるのか。多田は「チームリーダーが目標達成に執着すること」と語る。
多田は信念として、3カ月連続で営業目標を未達にすることを許さない。仮に3カ月目が未達になりそうなら、目標を下げてでも達成にこだわる。売上金額が同じでも、それが達成か未達かで営業メンバーの受け止め方が変わると知っているからだ。 視点を変えれば、3カ月が限界だということでもある。それ以上未達が続くと、メンバーは水面下で転職先を探し始める。士気が下がり、行動量も増えないため、次の目標を達成できないという悪循環が始まっていく。
「営業にとって大切なのは顧客の本質的な課題解決であり、笑顔でその対価をいただくことができるかどうか。価値があることを正しく伝え、それを売り上げとしていただくこと。僕にとって売り上げは、顧客の感謝と期待の総和であり、企業人としての通信簿です。社会から必要とされているかは、顧客から売り上げを得られるかどうか。それができないということは、世の中に価値を提供していないということですからね」
企業向けサービスの停滞を打開していったのが営業統括の多田さん。本書には多田さんの営業哲学が多く語られてて、とても勉強になりました。
経営陣に多田が直訴してから数年後、忘れられない出来事が起きた。 「なぜ営業チームは死にもの狂いで目標を守っているのに、君たちは開発の納期を守れないんだ!」 2016年末期、予定していた納期を守れなかったプロダクトチームに対して、竹内の怒号が飛んだ。期末の朝礼に、プロダクト開発のリーダーたち 15 人が並んだ。そして、神妙な表情で営業チームに向けてこう詫びた。 「プロダクトの開発が間に合いません。今月、目標売上の達成のために今の僕たちにできることは、ここから応援するくらいしかありません。営業のみんなの力を信じています」 そう言い、全員で頭を下げた。
そんな情熱と執念が社内全体に根付いたことが、多田にとっては何よりもうれしかった。 「どんな課題も解決するサービスをつくるプロダクトチームと、どんなプロダクトも売れる営業組織。その両方が真の強さだ」 多田はビズリーチの強さを聞かれると、決まってそう表現する。
営業とプロダクトが一体となったときに事業は前進する。
ルクサ売却の発表後、南らはビズリーチのブレークスルーにつながる思い切った施策を検討し始めた。 社内での議論の末、有力な選択肢として残ったのがマス広告だった。企業向けのダイレクトリクルーティングを宣伝する方法をあらゆる側面から調べたが、結局、ホームラン級の打開策となる可能性があるのはテレビCMしかない、という結論に行き着いた。
企画から制作まで、費やした時間は3カ月。一般的なCM制作期間の3倍以上をかけたと、プロデューサーの永田は言う。 「ここまでトップが責任を持って関わったプロジェクトは自分の中でも前例がない。CMの成功は結果論であり、何が決定的な要因になるかは断言できないが、ビズリーチのCMに関しては、トップのコミットが成功に寄与したのは間違いない」
CMプロジェクトは南さん自ら指揮して鬼コミットしていた。結果ホームランヒットとなり企業向けサービスの躍進につながる。
グループ1400人規模の組織になった今でも、南は共に働く仲間を探すことを、自らに課している。ビズリーチを活用して自らスカウトメールを送り、週に何度も候補者と会うことを続けている。
「経営人材を一人採用できると、事業や組織が飛躍的に成長する。自分よりも優秀だと思う人を会社に迎え入れることが成長への近道。そうした人材を見つけて招き入れることが、経営者の一番の仕事だと思っている」 実際、これまでのビジョナルの成長も、南らが採用した人材が事業を牽引してきた。それが、「事業と人はセット」と繰り返すゆえんだ。
採用が競争力。この規模になっても自ら率先して採用活動しているのすごい…