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「本棚の中で眠りたい」 始まりの旅

2019年2月、初めての一人旅は京都だった。
大阪に住んでいる私にとって京都はとても身近な存在であり、よく訪れていた場所でもある。だからそれは旅といえるほどの距離ではなかったかもしれない。

よく知っている電車に乗り、よく知っている駅で降り、よく知っている道を歩く。それはとても馴染み深く、日常の延長線のような2日間だった。それでも「全ての時間は自分のためだけにある。これは自分だけの旅なのだ」と考えるだけで、それは「特別な2日間」へと変わったのだった。

今回の一人旅のコンセプトは「本と出会う旅」にしようと決めていた。本をゆっくり読んだり、本屋を巡ったり、ブックカフェでその世界観に浸る旅だ。

その旅で選んだホテルは BOOK AND BED TOKYO 京都店 。「泊まれる本屋」をコンセプトとしたカプセルホテルだった。

この場所を選んだのには理由がある。以前よりこのホテルに興味があったことはもちろんだが、当時「丸善ジュンク堂に住んでみる」というリアル書店に泊まるイベントに憧れを持っていた。このイベントは当選倍率が高すぎて通る気がしないので、自分の手の届くところに出かけようと思ったのだ。

1人で予約して泊まることはもちろん初めてだったが、カプセルホテルに泊まることも初めてだ。チェックインする時点で既に緊張していたのを覚えている。

チェックインは16時からできた。早く本の世界に浸りたい私はチェックイン開始時刻にホテルの扉を叩いた。

BOOK AND BED TOKYO 京都店
始まりの扉

この扉を開くと本の世界が広がっている。いざ。

本好きには堪らない空間
本棚の中にベッドがある
見上げても本があるというハイセンス

そこには夢の空間が広がっていた。本好きなら誰でも一度は本棚で眠りたいと思ったことがあるのではないだろうか。その憧れを叶えてくれる唯一の場所のように感じた。チェックインが開始してすぐに行ったため、そこからしばらくは貸切状態だった。本棚の撮影会をしたり、ベットでゴロゴロしてみたり、トイレとシャワー室を確認したり、一人愉快に過ごした。

窓からは南座が見える

そしてメインの読書タイム!
本棚には小説があるのはもちろん、コミックやエッセイ、ビジネス書などさまざまなジャンルの本が並んでいた。

その中に当時私が激推ししていた「ドミトリーともきんす」が並んでいて感動した。この本が大好きで、書店員として働いていた時代には大展開を仕掛けたこともあるくらい。科学と哲学が合わさったような内容なので一見難しそうに見えるが、なぜだか読む人をグッと惹き込んでしまう不思議な雰囲気のコミックなのだ。

「ドミトリーともきんす」高野文子/中央公論新社

こちらはスコープから覗いた世界を切り取った写真集。

「スコープ少年の不思議な旅」巖谷國士、桑原明弘/風濤社

他にもビジネス書を読んでみたり、人の生き方や働き方にフォーカスした本を手当たり次第に読みまくった。

どっぷりと夜も更け、外の世界が静まる頃。本棚の中の世界が動き出す。

「真夜中の図書館」谷山浩子/ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス

このささやかなランプに照らされ、夜通し本を読むことができる空間。途中うたた寝なんかしたりして、起きたらまた本を読む。なんだか物語の世界に迷い込んだみたいだった。

朝方まで本を読み、眠い目を擦りながら朝を迎えた。とてもささやかな1日。でも、とても豊かな1日だった。

チェックアウトしてからは個性的な書店や図書館に立ち寄ったり、ブックカフェを巡ったりと、とにかく「本」を探して歩き回った。

立誠図書館
けいぶん社
ELEPHANT FACTORY COFFEE
ELEPHANT FACTORY COFFEE
カフェイチマルマルイチ
カフェイチマルマルイチ

人を気にせずにブックカフェでゆっくり本を読めることがこんなに幸せだったとは。好きな場所に好きなだけ滞在できる旅。なんて楽しいんだろう。

私はこれまで1人でホテルに泊まるなんて絶対無理だと思っていた。でも思っていた以上に楽しくて、全然孤独ではなかった。私の世界がぱーっと開けた瞬間だった。この旅をきっかけに、私は1人で本のある場所を巡るようになった。まさしく京都で過ごした2日間が今に繋がったというわけだ。これが私の始まりの旅である。

2023年現在、BOOK AND BED TOKYO 京都店は既になくなっている。いつか再訪できればと思っていたので残念でならない。

形あるものはいつかなくなる。だからこそ、その時に見たものや感じたことをしっかりと心に刻んでいきたいと思った。

これまでの旅のこと、これからの旅のこと。これから少しずつnoteに書き綴ります。

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