はじめての政治哲学 「正しさ」をめぐる23の問い 第2章 10 第三の道
税金が安いのに、福祉が手厚いバラ色の社会
こんな社会あるのか?
→実はすでにヨーロッパで実践されてきた。
第三の道
戦後、西欧の先進諸国では、社会民主主義と新自由主義(ネオ・リベラリズム)という二つの大きな政治思想が支配的な位置を占めてきた。
社会民主主義
社会生活や経済生活への広範な国家の関与を認めようとする立場。
イギリスの労働党やドイツの社会民主党に代表される古典的左派がこれにあたる。
新自由主義
政府の役割をできるだけ小さくし、市場原理に委ねようとする立場。
イギリスのマーガレット・サッチャー首相やアメリカのロナルド・レーガン大統領に代表される新保守主義。→社会民主主義的な福祉国家の行き過ぎを批判し、平等よりも効率を重視すべきと訴えた。
第三の道
トニー・ブレア首相のイギリス労働党(ニューレイバー)。彼らは格差や大量の失業をもたらしたサッチャリズムの市場至上主義を批判すると同時に、自分たちはこれまでの古い社会民主主義とは違うと主張し、ヨーロッパ中に中道左派旋風を巻き起こした。→つまり、効率と公正を両立する「第三の道」がある。
思想的バックボーン
イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズ(1938〜)の理論。
従来の社会民主主義が単線的に社会主義に行き着くものとして、限界を迎えている
そのオルターナティブとして台頭している新自由主義には、経済発展に限界はないとする前提があり、そこに大きな矛盾がある
そこで、社会民主主義の刷新を試みたのが、「第三の道」。
ギデンズの理論
当時の社会民主主義政党を取り巻く5つの問題状況
グローバリゼーションの意味するもの
新しい個人主義とは何か
左派と右派の区別は意味を失ったのか
政治家は将来設計を担いうるのか
環境配慮型の近代化
第三の道の政治が目指すところ
「グローバリゼーション、個人生活の変貌、自然と人間との関わり等々、わたしたちが直面する大きな変化の中で、市民一人ひとりが自ら道を切り開いていく営みを支援することにほかならない」
第三の道実現のための、10項目にわたる総合政治プログラム
ラディカルな中道
新しい民主主義国家(敵不在の国家)
アクティブな市民社会
民主的家族
新しい混合経済
包含としての平等
ポジティブ・ウェルフェア
社会投資国家
コスモポリタン国家
コスモポリタン民主主義
→従来の社会民主主義に比して市場原理を重視。また、担い手としての市民社会の活力に期待を寄せている。
社会民主主義との違い
効率を追求することによって競争力ある経済を維持し、それによって公正な社会を実現しようとしている点。
また、その際の担い手として、国家だけでなくギデンズが第三セクターと呼ぶボランティアやコミュニティに多くが委ねられている点。
日本の新たな「第三の道」
日本はイギリスのような自由放任主義的な市場経済も経験しておらず、また完璧な福祉国家も経験していないため、市場主義改革と福祉改革を同時に推進することが必要であるうえに可能である。
市場主義改革
経済社会の活性化を妨げているムラ社会的特性を変えていくためには、競争原理の導入が不可欠
そのうえで、新自由主義のようにそれを無差別に導入するのではなく、選択的かつ多層的に行うべき
21世紀の新しい社会モデルである「低炭素産業社会」を実現するため、技術開発を目的とした活動の自由度を高めることを提案
とりわけ規制の多い、電気、通信、情報などの分野における規制緩和の検討が必要
福祉改革
古典派社会民主主義がもたらした「非効率」「活力低下」「財政危機」といった問題を克服するために、ヨーロッパの失敗を糧にすべき。
そのためには、受益者負担の原則を重視し、直接給付ではなく人的投資を主体としたポジティブ・ウェルフェアを採用するべき。
受益者負担
国家および地方公共団体が,その公共施設などの利用によって利益を受ける個人または一定地域の住民に,施設の建設・維持費の一部を負担させること。
ポスト第三の道
ヨーロッパでのポスト第三の道
従来の社会民主主義と新自由主義の乗り換えという点において、第三の道と基本的に変わっていないが、より広い文脈でとらえ直されようとしている。
「市民社会民主主義」
改革を目指すヨーロッパ社会民主主義の挑戦をよりポジティブに表現したもの。
それは抽象的な理想論に終始するものでは決してなく、
「社会的包摂政策」
「アクティベーション政策」
「シティズンシップ教育政策」
といった新しい公共政策を内在した、極めて実践的な思想である。