雪国の暖かく明るい光
豪雪地帯の山間部。その冬を思い浮かべてほしいのです。
2m近くの積雪に囲まれる生活。
おのずと家から出る機会が少なくなります。
今では車社会ということもあり、昔に比べて外出できる状況があるとしても、なかなか外に出る機会は少なくなります。
今回のコロナ禍で自宅に籠らなければならない方も多かったでしょう。
雪国の冬はそこまでではないにせよ、毎年少し近い状況があります。
でもそのような冬にもこのような光景があるのです。
近隣の子どもたちがきゃあきゃあ言いながら遊ぶ。小さな子は麓で雪合戦や雪だるま。小学校1年生や2年生、リフトに乗れるようになって初級者コース。3年生ぐらいになるといきなり上級者コースに突っ込んで、降りられなくて泣いちゃう。それを何とかしようとするお父さん。こんな時に子どもがスキーでお父さんがボードというのが裏目に結局何ともならずに近くの上級者のおっさんが手を貸す。
「なんだ?おめさん、長田屋(これ屋号ね)のあんにゃでねか、なに、こんがところ連れて来てっ」
お父さん、しょんぼり。
※当方新潟在住20年ですが、千葉出身なのでこの方言が正しいかどうか、知りません。
察しましたか。スキー場ですよ、スキー場。
それも大きなスキー場でなくていいのです。
小さな「ロコスキー場」。
北信越の第3日曜日は「スキーこどもの日」として小学生リフト代無料です。
上記のきゃあきゃあわいわいが150%増しとなります。子どもだらけ子どもまみれのスキー場。
※小出スキー場Facebookより
この光景が楽しくないと思うお方は松之山の婿投げに紛れて投げられてしまうがよい。
※ 新潟県十日町市松之山 ポータルサイト松之山ドットコムより
すみません、昂りました。
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そのような「冬」を支えている方が大勢います。その中の一人、新潟県魚沼市、旧小出町にある上村医院の上村医師。
魚沼市は「堀之内町」「小出町」「湯之谷村」「広神村」「守門村」「入広瀬村」の6つの自治体が合併して出来た自治体です。その魚沼市は合併により各市町村が保有していた5箇所のスキー場を市が管理することとなりました。
無理です。財政が豊かな地方自治体、なかなかありません。その中で5つのスキー場を一自治体が経営するのは、無理です。
結果、市はスキー場を閉鎖とすることとしたのです。
(余談ですが、この合併、なかなか興味深い現象がおきまして、合併当初、旧6ヶ町村議員がそのまま市議員に就任する「在任特例」で市議会議員が96名もいらした。市議会の議員が96名。96名。最終的には議会が自主解散され26人になったそうです)
スキー場がなくなると、地域住民が家に引きこもる方が多くなる。子どもたちが体を動かす場も減る。高齢化が進む地域全体の健康寿命が損なわれる恐れがあるのです。
そこで上村伯人医師はこう述べます。
「小出スキー場は歴史のあるスキー場。多くの子どもたちの教育の場所でもありました。私たちの使命は次の世代にこのスキー場を残すことである」
駒見スポーツ少年団Facebookより
その後「小出スキー場を支援する会」が設立され、その後組織は「特定非営利活動法人 スノーパーク小出」となり上村医師が理事長となり、スキー場は存続されることとなりました。
この団体がその後地域の健康増進にどれだけ寄与する行動をしているか。簡単にあげても、
・魚沼市内、近隣地域の小中高校のスキー授業、スポーツ少年団等の青少年育成の活動の場として活用を展開
・「中高齢者向けの健康増進プログラム」を開催、延べ400人近い中高齢者の健康増進に寄与
・小出公民館と共催で「里山トレッキング」を実施
・中高齢者対象スキー教室「脱!冬ごもり教室」を開催
いいでしょ。
そして、小出スキー場といえばこの動画。彼も小出スキー場に育てられたのでしょう。
おばたのお兄さん、凄いうまいです。スキーを多少なりともしている方はわかると思いますが、うまい。
そしてこの動画も貼らないわけには。
我が息子。小出スキー場、小学校1年生の頃です。近くの女の子に良いところを見せようとして転びます。女の子の前で調子の乗るのは誰に似たのでしょう。
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小出スキー場のような取り組みがあるスキー場は稀有で幸運な例です。
地方の小さなロコスキー場が危機を迎えています。
全国のスキー場の倒産は2000年以降、50件を数えます。
大きな理由は小雪。標高が低いとこほど雪は積もらない。
つぶれたスキー場の標高をざっくりと見ると、100mから600m。
本州で積雪に関しては安泰の志賀高原は1300mから2300m。そこから考えると標高が低いスキー場が小雪の影響をまともに受けるのが想像できると思います。
小雪ということは営業期間が短くなる。12月中旬から4月上旬まで営業できたのが1月から2月のみということもありえます。
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もう一つが利益を生む構造が厳しいこと。
同じ魚沼市の大原スキー場。
リフト2本ですが、新潟福島の県境に近い奥地であることから積雪が多く、雪質も新潟の雪とは思えぬくらい軽い雪が降ります。
(新潟中越地方のスキー場は標高が低いことから、雪質が重いです)
おまけに食堂ではSNSで大原スキー場をいいね!すればコーヒー飲み放題。
何杯飲んだか。
小出スキー場で「いい雪」が降る時には、大原スキー場では極上の軽い雪になります。そして降雪量が多いことから魚沼市のスキー場でも一番営業シーズンが長いです。
しかし少し古いデータですが、このような数字があります。
大原スキー場
◆利用者動向
・毎年1万人前後で推移している。(過去8年平均10,284人)
・各種スキー大会が多く開催されている。
これを見ると、おお、と思うのですが。
◆経営状況
・直近3年間は1,600万から2,100万の赤字が続いている。
残念ながら2018~2019シーズンを最後に営業終了となってしまいました。
しかし、ロコスキー場が利益を生むための仕組み、いろいろあります。
例えば北海道小樽市の「スノークルーズ・オーンズ」。
リフトは大原スキー場と同じ2本ですが、
「スポーツジムに行くより安いかも。オーンズにて健康増進」という施策を打ちます。シーズン券は気軽に来てほしいという理由から価格を1/3へ。
結果、来場者数は4倍増の1800人以上。周囲には飲食店やレンタルの利用も増え、総売上は5割増。
しかし、スノークルーズ・オーンズは立地が良いのです。
大都市札幌(約200万人)から最短20分、小樽(約10万人)からも近い。
CMも打てる!(これを貼りたいがためにオーンズを紹介・・)
魚沼市の人口は約3万5千人。大都市長岡市は25万人。その長岡市から大原スキー場は約1時間。厳しい状況であったことは確かです。
20201/26 営業されていない大原スキー場です。この時期大変な雪不足で、周りのスキー場は雪が全くなかったのですが、大原スキー場だけはありました。でも営業していない。
魚沼市で一番大きなスキー場は須原スキー場です。先ほど紹介した平成21年12月魚沼市営スキー場再編計画書ではこのスキー場に集約される案もあったようです。
経営の内情はわかりませんが、このスキー場も現状厳しい状況と思われます。耐用年数を超えた設備、そして昨シーズンの記録的な雪不足。
これは2020/1/26、例年ならハイシーズン、山盛りの雪があるはずです。もちろん営業は出来ません。
しかし、このスキー場、何とか残したい。理由の一つにスノーボーダーが増えている。ということは若者の比率が高まっている。
それだけじゃない。
レストハウスの看板。なんでしょうか、このlove&peaceもしくはヒッピー的な雰囲気。
そしてスキー場としてはロコスキー場の規模ではなく、高速リフトがあります。スキー場の規模感を語るときに「高速リフト」があるかどうかが一つの目安なのです。名の知れた大規模スキー場ではなく、ロコスキー場にこのような高速リフトがあるのは珍しいです。
少し古びた感がある4人乗り高速リフト。フードが付いているので雪の日も子どもたちが寒がることがありません、あ、大人もですが。
お酒がリフトの背面広告に!
これは地元の酒造会社玉川酒造さんの玉風味。うまいに決まっております。お酒が飲めない方は甘酒を。めちゃめちゃ美味しい。
子どもたちだけではありません。高齢者もたくさんおります。
82歳の男性、もうおじいちゃんです。その方がほぼ毎日いらっしゃる。
にこやかでリフト一緒になると必ずお喋りします。
「近くの~から来ているんだ」
3回お聞きしました。
80代になってもスキーしたいのですが、何を心がければいいですか?
「やめないこと」
「周りの皆が、そんな年でスキーなんて。怪我したらどうするんだと言う」
「やめた周りの者は、みんなボケた」
深い。
そしてこのスキー場、地域の方々の支えもあります。その一つがコブ作り。
コブは、様々なスキーヤーが何度も同じところを滑ってできる凹凸です。このコブが滑れて上級者といわれます。
しかし須原スキー場は中級者が入れるちょうどよいコブができにくいのです。
そこで60代の「若手」サークルの方々がちょうどよい場所に短いポールを立てて同じところを何回も滑りコブを作ってくれるのです。
その方々とリフトでご一緒した際に
「今日はあそこにコブ作りました。ぜひ滑ってくださいね!」
私まだ、下手でコブは入れないのですよ。
「60前に慣れておいたほうがいいですよ」
で、コブに入った妻の画像です。
また、この須原スキー場のスキー学校はレベルが高いと評判なのです。技術選という耳慣れない大会があるのですが、要はスキーが上手日本一を決める大会です。その全国大会にこのスキースクールの先生方が何人も出場しています。
この写真、スキー学校のポスターを撮影してるガラスに映る影、わかりますでしょうか。私です。なんとスキー学校の先生とウェアの配色がお・な・じ。トイレに入ると、若い先生から「おはようございます!」と挨拶されてしまう・・。
滑っていると先生と間違えられる。こんなに下手くそな先生はいないのに。私のおかげで須原スキー学校を貶めている気分になります。早く別の色のウェア買いたい・・・。
レストハウスのカレーは絶品です。スキー場の食事、正直高くてまずい。致し方ないので、はずれがないカレーを、と他のスキー場では考えるのですが、ここは昭和の美味しいカレーをさらに集約した感のあるカレーです。
そして、ここで地域のお金がぐるぐる廻っています。子どもたちがスキー場のシーズン券を買い、お母さんが食堂でパート。地域の中で4回お金が回ればその地域は豊かになると言われています。まさにその様相。
おまけに、デートスポットでもあります。ぐぬぬぬ。
コースの説明を全くしていませんでした。
フード付き高速リフトの直下はかなりハードな尾根コースです。どこのスキー場も尾根コースは狭くて急なのですが、須原の尾根コースも中々ハードです。それでは初中級者はつまんないスキー場では、と思われるかもしれません。
高速リフトを降りたら、コースがいくつかあります。
一つは中急斜面がメイン。
もう一つが迂回コース。
さらにスーパー迂回コース。
など、初めての方でも小学生低学年でも対応!
帰りはどうするのか。あの急で狭い尾根コースは滑れない・・・。
リフトでお帰りください。下りも乗れる高速リフト。
尾根コース(ジャイアントコースという名前)です。写っているのはスキー学校のK先生。この写真でもなかなかの急斜面ということがわかりますよね。
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魚沼市にあるこの須原スキー場が大原スキー場についで営業停止に追い込まれると、この地域の冬の暖かい光が一つ消えてしまう気がするのです。
私はこの地域に居住していません。しかし、自然環境がより厳しいこの地域にお金を落とすことで、雪国の暖かい明るい光をともす、小さいながらもその薪になれば、と思うのです。
20200628