世界回転ずし小学校
僕たち5年生三人は、朝、児童玄関で固まっていた。
サッカーのミッドフィルダー俊足男子、かっちゃんは口をあんぐりさせる。英語がぺらぺらでテストも100点以外見たことがない優等生女の子、朔ちゃんはまるで動かない。勉強も体育も中くらいの僕は驚いてしゃがみこんだ。
下駄箱が無くなり、とんでもなく大きなディスプレイがあったからだ。
そのディスプレイには、校長先生が忍者の格好をして映し出されていた。
「おお!かつとしさん、さくみさん、さとしさん、早く!来てヨ!」
来てヨ!と言われてもディスプレイに映し出された忍者校長先生に近づく勇気はない。
朔ちゃんが質問した。
「校長先生、質問があります。下駄箱はどうしたのですか、他の先生は?それからなんで忍者の格好なんですか」
さすが我らが朔ちゃん。
朔ちゃんとかっちゃんと僕は幼馴染。かっちゃんも僕もたぶん、朔ちゃんの事が好きだ。
「はっは!さすが朔美さん。素晴らしい」
「実は今日からこの小学校は、 『わーるど じょいん ばーちゃる えーあい なーちゃりんぐ えれめんたりー すくーる』になりました。」
何だかサッパリわからない。
朔ちゃんは声に出して言った。
「何だかサッパリわからない」
「とにかく、校舎に入って左に少し進んでね。それから、今日はみんな、バーチャルで好きな格好になれるから、今のうちにどんな格好になるか考えておいてね!校長先生は、に・ん・じゃ」
忍者、見りゃわかるよ。
そしたら、かっちゃんが言う。
「校長先生が言うんだから、へんてこな事にはならないさ、行こうぜ!校長忍者はへんてこだったけどさ」
ということで、僕たち3人はおそるおそる、校舎に入る。
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いつもの校舎と違う。かなり暗い。そして目の前にベルトコンベアのようなものが動いている。回転寿司にあるお寿司を運ぶベルトがものすごく大きくなったみたいな。
その時壁の大きなディスプレイがつき、またしても忍者校長先生が現れた。
それと同時に「ごいんごいん」という少し大きな音がした。
大きなお皿のようなものの上に、一人用の机と椅子。机の上にはパソコンのようなものがあり、他にたくさんボタンが並んでいる。
校長先生が
「さあ、これに乗って授業を受けてね!で、どんな格好がいいか考えたかな?」「今からバーチャルで好きな格好にみんな変身するからね!」
僕は散々迷って夏目漱石の「坊ちゃん」の「しろがすりとはかま」にした。
かっちゃんを見ると一番新しい「サッカー日本代表」のユニフォーム。
我らが朔ちゃんは・・・「ゾンビ」になっていた。朔ちゃん、ゾンビ映画が好きだって前に言ってたな・・。朔ちゃん、血まみれで青い顔している。
「かっちゃんさとしクン、ちょっと見てよ」
僕らを呼んで、ニコニコしている。いくら朔ちゃんでも、血まみれで呼ばれてニコニコされても、ちょっと、怖い。
3人それぞれお皿に乗る。するとお皿がごいんごいんと動きだす。まるで回転ずしのようだ。
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僕らを乗せたお皿はごいんごいんと進み、前に大きなスクリーンがある大きな教室に着く。そこにはたくさんのお皿があり、その上にたくさんの同じぐらいの年の子がいた。
びっくりした。
日本の子だけでなく、世界の色々な国の子どもたちがいる。僕のとなりのお皿にはフランスの男の子。斜め前にはタンザニアの女の子。なぜわかるかって、お皿に薄く国旗が書かれている。そして僕は国旗と歴史のマニアなんだ。
もっとびっくりした。
となりのお皿のフランスの男の子が日本語で話しかけてきたんだ。
「君はフランスまでどうやって来たの?」
僕は答える
「歩いて、というか、家から学校からだけど。日本語わかるの?」
「はぁ?おれはバリバリのフランス語しか喋ってないぜ」
彼はナポレオンの格好だ。
よくわかんなくなって周りを見渡す。みんなも首をかしげている。でもみんな日本語をしゃべっている。
その時「ぽっぽー」という音がしてスクリーンに何やら映し出された。
僕は直ぐにわかった。鳩先生だ。僕らの担任サトウ先生だ。鳩が好きで好きでしょうがない鳩先生。鳩のマスクをして授業したい、といつも言ってた鳩先生。
「こんにちは、私は鳩先生です」
朔ちゃんが爆笑している「鳩先生って、自分で言った!」。
「みんなびっくりしていると思います。いろいろ説明しますね。」
「まず、言葉。みんな自分の国の言葉を話していますが、相手にしっかり通じています。これは世界一の翻訳機がついているからです。ただ、残念ながら鳩とはまだ話せません、残念。ぽぅ。」
「それからみんなの体、ここにはありません。みんなの小学校から転送されています。世界一の技術で転送してるのでお互い触れます」
フランスから来た隣のナポレオンの帽子を触ってみた。本物だ。
ナポレオンも僕のはかまを触った。二人でニヤニヤする。
「はい、これから授業を始めますよ、今日の授業は相手に伝えることです」「自分が好きなことを調べて、相手にわかりやすく伝える。それだけです」
「発表する時間は1分!」
「目の前にあるパソコンで調べてもいいですよ!考える時間は15分!」
うわぁぁぁ、どうすればいいんだろう。みんな、何にするんだろう・・。
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15分はあっという間に過ぎた。
・かっちゃんはサッカー日本代表について。
・隣のフランス男子はもちろん、ナポレオンを。
・カナダの女の子はオーロラの美しさを。
発表が終わると、クラスのみんなが拍手する。その拍手の大きさで教室に花火が上がる。もちろんバーチャル花火だけど、とても綺麗だ。教室で花火って最高だ。
朔ちゃんは納豆を何回かき混ぜたら一番おいしいか、と、みんなにあまり理解されないものだったけど、朔ちゃんは楽しそうだ。
僕の番だ。僕は歴史が好きだ。それも人の話が好きなんだ。
ドキドキする。花火は上がるのだろうか。
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グーテンベルグは昔のドイツの人です。印刷機を発明しました。
しかし、お金使いがめちゃめちゃ荒くて、だらしなかったようです。
印刷機を開発するお金を借りたにも関わらず、今で言う2000万ぐらいを数年で無駄に使い果たしたそうです。それも2回も。何に使ったのかは今ではわからないそうです。
結局フストとシェーファーという、お金の事を考えられる人がグーテンベルグの印刷機を広めました。
そんな事があって、世界に「伝える」ための技術が伝わりました。
それまで本は手書きだったのです。1冊1冊手で書いていたのです。なので本は大変高価で限られた人にしか行き渡りませんでした。
僕はこのお話が大好きです。グーテンベルグはお金の計算が出来ない人ですが、印刷機を発明しました。お金の計算ができるフストとシェーファーが印刷機を完成させ広めました。
それぞれが得意な事をして「伝える」というとても素晴らしい技術を創って広めたのです。
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ものすごい拍手が起こり、すごい花火が上がった。右からも左からも上がった。鳩先生はポッポーとウロウロしている。
「さとしさん、素晴らしいです!ポッポー!!」
「さとしさんは、印刷機の発明やその素晴らしさ、また人には得手不得手があることを表現し、そして!それを伝えることが素晴らしく上手でした!ポッポー!」
「そして皆さんも本当に良い発表でした。これからも相手に伝えることを考えてくださいね、楽しかったです!次の授業は体育ですよ!ポッポー」
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体育はバスケットだ。
いつの間にか男女別、5人のチームに分かれていた。
僕たちのチームは、「アメリカ」のノア、「ジョージア」のアスラン、「インド」のアラディブ、「ロシア」のミハイル、そして「日本」の僕だ。
お皿から降りて、バスケットコートに立つ。
でも、心配なことがあった。ジョージアとロシアは最近戦争をしたんだ。
インドのアラディブに相談する。アラディブは気が付いていた。
ジョージアとロシアの事を。
「意外とね、あんまり気にしていないと思うよ。僕の国インドもパキスタンとかなり仲悪いけど、まあ、最近は国境でお祭りみたいなことしてるよ。」
引用元
NPO Pakistan Japan Jasmine Association
http://jasmine-friends.com/pakistan-info/life/wagah-pakistan
まことぴさん
https://twitter.com/makotopic/status/1287312143344259072/photo/4
アラディブは言う。
「たぶん大丈夫さ。国同士が仲悪くても、その人その人が仲悪い訳ではないと思うよ?」
「さとしは伝える事が上手だったじゃないか、このチームもさとしが上手く伝えれば上手くいくさ!」
そうかなぁ。なんか、アラディブに乗せられているようだけど。
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アラディブがみんなを集めて、自己紹介を始めた。アラディブは国の名前を言わないで、自分の名前だけを言う。それにつられてみんなも自分の名前だけを言う。
僕は思いついた。このチームのメンバーはたまたま北半球から来ている。言ってみよう。
「チーム名を決めようよ。で、僕から提案があるんだけど、いいかな」
「みんなが住んでいるところから、北極星は見えるかな?」
みんなはうんうんと頷く。
「どうかな、チーム北極星!」
アラディブが興奮して、おおお!と叫ぶ。それにつられてみんなも叫ぶ!アスランは「北極星!」と叫び続ける。ノアは凄い勢いでボール回し始めた。ミハイルはみんなの肩をそれぞれバシバシと叩く。伝えるというよりも思いつきとノリで言ってみたけど、何かが伝わって、一瞬で良いチームになっちゃった。
ゲームはミハイルがボールを廻し、アスランと僕がフォワード、ノアがシューティングガード、アラディブがセンター、みんなで走りまわる。
2回勝って1回負けた。でも、本当に楽しかった。
アスランが言う。
「これからは、北極星をみれば、僕らはいつでもチームメイトで仲間だよね!」
みんなでガッツリと握手した。随分長い事握手した。
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体育が終わり、またあの大きなお皿に乗って、みんなとはお別れだ。
格好もいつの間にか、登校したときの服に戻っていた。
お皿から下りたら、校長先生が出迎えてくれた。もう忍者の格好はしていない。「3人とも、どうだったかな、たのしんでくれたかな?」
朔ちゃんが聞く。
「今日は他のみんなはどうしたんですか?」
「今日、3人以外は休校です。本当は全校でこの試みに参加したいんだけど、まだ、技術的に無理なんですよ。だから、今回は各国で3人。日本は皆さん3人にお願いしました」
かっちゃんは日本代表だ!と騒ぐ。
校長先生の説明は続く。
「世界のスーパーコンピューターをつなぎました。それでも各国3人で2時間が限度。でもすぐに技術は追いつくでしょう。今、なかなか世界のみんなに会えないかもしれませんが、人類の知恵はあっという間に困難を乗り越えるでしょう。印刷技術と同じ様に。ね、さとしくん。」
朔ちゃんが僕をみてニコニコしている。
「それでは今日はこれで『わーるど じょいん ばーちゃる えーあい なーちゃりんぐ えれめんたりー すくーる』は終わりです。」
かっちゃんが言う。
「校長先生!それ、わけわかんない。俺さ、考えたんだけどさ、「世界回転ずし小学校」でいいんじゃね?」
「それだそれだ!!」朔ちゃんも僕も賛成だ。
校長先生はオロオロしているけど、もう決定にしちゃおう。
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あとがき
・世界史の鳩さんにご登場とnoteの内容一部使用を快諾頂きました。
(今回のnoteの内容は・・・、告げていません)
本当にありがとうございます。鳩先生(僕が勝手に呼んでいます)のnote、どれもこれもみな魅力的です。今回の創作はその一つからの発想です。
「グーテンベルクと天下一品」
※今回の私のnoteで誤りがありましたら、当方に責があります。ご連絡は当方までお願いします、ぽっぽー。
・インドのアラディブが紹介してくれたのは「インド/パキスタン ワガ国境セレモニー」です。
・感染症で世の中がしょんぼりとしているなか、子どもたちは意外とこの状況を受け入れ、楽しんでいる気がします。柔軟性が僕たちとは違うのですね。それでもその行動は制約されてしまっています。それもこのnoteを書くきっかけの一つです。
・トップ画像引用元
https://poromi-free.net/food-drink/sushi/12-01-190513-dish/
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