Steve Grossman研究-70-80年代のスタイル変遷を検証する―その2:エルビンバンドで修業、そして初リーダー作発表 ‘71-’74年
マイルスバンド後のグロスマン:エルビンバンドへ
マイルスバンドをクビになった(って決めつけちゃいかんか)後のグロスマンの動向であるが、しばらくしてエルビンに拾われることになる。ちょっと探してみたら結構完璧なエルビンのディスコグラフィー発見。すごいなあ、こういうの作る人って。
http://ja.jazzdisco.org/elvin-jones/discography/
このディスコグラフィーによると、初めてエルビンとレコーディングしたのは1971/12/16、リーブマン、ジョーファレルなどエルビンおなじ みのメンバーに加えて、バリトンのペッパーアダムスや増尾好秋さん!まで入ったTentetで、”Merry-Go-Round”というレコードになって いる。もしかすると昔テープ持ってたかもしれないなあ。まあ、おそらくこの頃からエルビンバンドのメンバーとなったのではないかと思われる。というわけ で、1970年後半-71年前半の活動は謎のままだ。なにやってたんだろう。まあ、よく考えるとまだ二十歳とかだからそこら辺で遊んでたのか(笑)。
録音としては翌年7月に”Mr.Jones”をやはりOctetという大編成でスタジオ録音しており、そして1972/9/9には、リーブマン とのコード楽器レスカルテットであのジャズテナーサックス史に残る不朽の名盤”Live at the Lighthouse” をライブ録音している。エルビンのバンドにはその後1974年くらいまで断続的に参加しているようだ。
これはいわゆる"Lighthouse Band"の貴重な映像記録。グロスマン若い。大学生みたいって20歳そこそこだからその通りだわな。一曲目のエルビンとのデュオから飛ばしまくり。当時から完成されちゃっているのがよくわかる映像。八分音符が気持ち良い。
初リーダーアルバム録音
さて、明けて1973年には、初リーダー作”Some Shapes to Come”を録音している。データを調べようと思ったら、実はこのアルバム持っていないことが判明した(笑)。おかしいなあ、ビニール盤も見当たらないん だが。やっぱり持ってなかったのかしら。しょうがないからさっきアマゾンに発注してみました(その後、やっぱり家に会ったことが判明。二枚持ち)。とりあえず、All Music Guideによれば録音は1973/9/4-6ということで、ライトハウスから約1年後ですね。このリーダー作、ベースはジーンパーラで、これはエルビンバンドつながり。ドラムはドンアライアスで、ジーンパーラも含め、要はそのあとのストーンアライアンスコネクションができたってことですな。この3人に、 ジェフベックでブレーク前(でもすでにマハビシュヌで有名だったのかな)のヤンハマーが参加したカルテットで、極めて暴力的な電化ジャズを演奏するという コンセプトのアルバム。
なんか、このアルバムが典型的だけど、ストーンアライアンスにしても、この後何枚か出るグロスマンのリーダーあるいは準リーダーのアルバムって 妙に音が加工されてしかも歪んでるんだよねえ。本当はもっといい音してるはずなのに、録音技術が稚拙なのか、グロスマンの音がけた違いに大きいのか、当時 の流行でわざとやってるのか・・・よくわからないけど、ここら辺の録音とマイルス諸作のせいで一般リスナーからは「電化ジャズマン」イメージがついちゃっ たのかもしれない。
この頃のグロスマンのスタイル
さて、この当時のプレイスタイルは、ライトハウスのプレイに代表されるいわゆる初期グロスマンスタイル確立ということでいいんだろう。ドスの効 いた音でコルトレーン系のクロマチック+跳躍フレーズを吹きまくるってやつですね。おそらくエルビンに鍛えられたんだろうが、八分音符はデビュー当時に比 べて、よりメリハリが付いているような気がする。
ライトハウスのレコーディングで残っている曲はやはりモードっぽい曲が多い。しかし、想像ではあるが、このバンド、ライブでは結構スタンダード とかもやってたんじゃないかなあ。例えば下に書いたMr.Thunderというアルバムでは、Genovaというしっとりしたバラードを結構ストレートに 吹いてたりするし(音源あり)、以前はよくセッションで演奏されてたAntiguaとかでちらっとバップっぽいフレーズが聴けたりもする。もともとこういうプレイができる人だったのか、この時期に勉強したんだかよくわからないが、バッパーグロスマンの萌芽はこの時期の録音に既に見られるといっていいかもしれない。
この時期の重要アルバム
ライトハウスおよび初リーダー作は当然凄いのだが、今回のバッパーグロスマンのルーツを探るという趣旨からはずれるので置いといて、ちょっと変なアルバムを2枚ほど。
Unicorn/中村照夫
73年、リーダー作を録音する直前に、もう1枚変なアルバムに参加している。日本からNYに移住してNYジャズシーンの「ドン」になったと言われている中村照夫というベーシストの”Unicorn”というアルバム。日本のThree Blind Mice制作です。私はビニール盤で持っているが、今調べたらCDも売ってるみたいですな。録音は73年の5月と6月。
基本は下手なボーカルが入った変なジャズロックなのだが、なぜか突然コルトレーンのSome Other Bluesとグロスマン作のNew Moonが入っている。New Moonはこれが初出かな。Some Other Bluesはイントロとエンディングにアルムザーン(ドラム)の雄叫びが入っており爆笑(12'51"から)。演奏自体は普通にコルトレーン系グロスマンですね。音は結構普通に録れている。最後にラテンジャズみたいな曲があって、テーマは哀愁漂うコード進行なのだが、ソロは一発になってしまう。残念。
中村照夫一派とは80年ごろまで断続的に演奏しているようで、実はグロスマン70年代の活動のカギを握る重要人物といえるかもしれない。リーダー作のストーンアライアンス一派と合わせて、グロスマン70年代活動の基盤はすでにこの時期にできているのかな。
Mr. Thunder/Elvin Jones
上記ディスコグラフィーによると1974/9/29にスウェーデンで録音されたアルバム。凄くいい加減なジャケットが爆笑なのだが内容は非常に落ち着いて聴かせる名盤と思います。ローランドプリンス(g)とパーカッションが入って、ピアノのいないクインテット編成(要はグロスマンワンホー ン)。スウェーデン録音ということは、この時期このバンドで欧州ツアーをやってたかと想像される。
このアルバムは、いわゆるワンホーンジャズの王道を行くような楽曲構成で、カリプソリズムあり、バラードあり、Three Cards Mollyのようなエルビン-グロスマン十八番のモードモノあり、三拍子のNew Moonも入ってたりして楽しめる。録音や楽曲構成のせいもあるんだろうが、グロスマンの音も、80年代のバップバリバリ時代の太くてツヤがある音に近い。フレーズ的には95%ぐらいコルトレーン系ではあるが、上記した通りAntiguaあたりではバップ王道フレーズがちらっと出てきたりとなかなか味わい深い。そういえば、学生時代この曲のソロコピーした覚えが。グロスマンスタイルとしてはもうすでに相当なレベルで確立しており、改めて聞いてみる と、90年代の演奏といわれても「お、結構気合入ってるな」ぐらいで、あまり驚かないような音+構成かもしれない。
このアルバムは全曲版が見つからないので、上でも書いたローランドプリンス作のバラードGenevaのリンクを。まさにテナーの王道、コルトレーンとロリンズの中間をいくような物凄くいい音。普通にテーマ吹くだけで「参りました」とひれ伏してしまう。
もう一曲。マイナーのミディアムフォービート。音、十六分音符、フラジオ等々、80~90年代のマイケルブレッカーがエルビンとやっていると言われても疑問に思わないかもしれない。
というわけで、続きはまた。