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その9 トランスクライブ Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化
今回からようやく図の左側に移行。⑥「ジャズ耳を作る」のハコから、トランスクライブです。日本では「コピー」と言われてますが、私の図では、音を書き起こすという意味での「トランスクライブ」と、それをさらう「コピー譜練習」は分けてあります(人がトランスクライブしたものを練習するということもあるので)
サックスそのものの練習の話ではないですが、やはり、一般的に「ジャズっぽい」演奏を目指すためには避けて通れない作業かとは思います。
9.1 トランスクライブとは何か
トランスクライブ(Transcribe)とは何か、例によってChat GPTさんに聞いてみた。まずは単語の意味から。
質問: Transcribeの意味を教えてください。
回答:
「Transcribe」という単語は、いくつかの意味があります。
1. 書き起こす、文字起こしする: 特に音声や映像の内容を聞き取り、文字として表現することを指します。たとえば、会議の録音を書き起こす、インタビューのテープを文字にする、音楽の楽譜を作成するなどが挙げられます。
2. 転写する、移す: ある形式やメディアから別の形式やメディアに情報を移すことを指すこともあります。たとえば、映像をテキストに転写する、手書きのメモをデジタルデータに転写する、コンピュータプログラムを別のプログラミング言語に転写するなどが該当します。
3. 変換する、変更する: 特定の情報やデータを別の形式や形態に変換することを指す場合もあります。たとえば、音声をテキストに変換する、楽曲を異なるキーに変換する、言語を翻訳するなどがこれにあたります。
これらの意味は文脈によって異なる場合がありますが、一般的には情報を移動させたり変換したりする行為を指す言葉として使用されます。
なるほど、音楽関係だと、文字(楽譜)起こし、形式変換あたりの意味で使うんだろうな。転調作業もトランスクライブで表現できるのかな。
折角なので、直球で聞いてみた。
質問: ジャズの即興演奏の学習におけるTranscribeの意味と、重要性について教えてください。
回答:
ジャズの即興演奏の学習における「Transcribe(トランスクライブ)」とは、録音されたジャズ演奏を聴いてそれを楽譜に起こすことを指します。具体的には、ジャズの演奏やソロを聴いてメロディ、フレーズ、リズムなどを細かく分析し、それを楽譜に書き起こす作業です。
Transcribeの重要性は以下の点にあります:
1. フレーズやスタイルの習得: Transcribeを行うことで、偉大なジャズミュージシャンの演奏スタイルやフレーズを直接学ぶことができます。彼らの演奏を詳細に分析することで、彼らの音楽的なアイデアや特徴を理解し、自身の演奏に取り入れることができます。
2. 聴覚の訓練: Transcribeは聴覚の訓練に役立ちます。音楽を聴きながら細かいニュアンスや音の関係性を把握する能力が向上し、より繊細な耳を持つことができます。
3. 音楽理論の理解: Transcribeを通じて、ジャズの演奏やソロを分析することで、音楽理論の理解が深まります。スケール、コード進行、ハーモニーの関係性など、音楽理論の実践的な知識を身につけることができます。
4. 即興演奏のスキル向上: Transcribeは即興演奏のスキル向上に大きく寄与します。他のミュージシャンのソロや即興演奏を分析し、それを自身の演奏に取り入れることで、即興演奏のアイデアやテクニックを拡大することができます。
5. ジャズの伝統の継承: Transcribeはジャズの伝統を継承する上で重要な要素です。過去の名演奏家の演奏をTranscribeすることで、ジャズの歴史やスタイルに触れ、伝統を尊重し継承することができます。
総じて、Transcribeはジャズの即興演奏の学習において、演奏技術や音楽的な感覚を磨くために重要な手段です。
完璧な回答ありがとうございます!今日はこれにて終了!解散!w
というわけにもいかないので、もう少しトランスクライブの具体的な意義、目的について考えてみよう。いまや蛇足気味だがw
9.2 何故「トランスクライブ」をするのか
私は、トランスクライブを「ジャズ耳をつくる」のハコに入れている。やはりトランスクライブの一番の目的は、Chat GPTさんの回答1にもあるように「フレーズやスタイルの習得」にあると考えるからだ。
やってみると分かるが、トランスクライブを行うためには、その対象となるソロと長時間向き合う必要がある。最近はサブスクの発達等もあり、どんな音楽ジャンルでも「聴き流し」で済ませる傾向が増加していると思うが、そんななか、2-3分のソロパートを何時間も掛けて何回も聴くだけでも、相当ジャズ耳の養成になると思うし、それを譜面化しようと思えばなおさらだ。実際、トランスクライブを多くやっていくと音楽の聴き方が変わってくるはずだと思う(それが自身と音楽との関係にとっていいことなのかは議論の余地があるが)。
改めて、最終的な目標・目的は「ソロを何回も聴いて楽譜に落とすことを通じて、ジャズ、あるいはジャズ奏者のちょっと特異な音使い/音楽的表現に慣れて、ジャズ耳を養成する→フレーズやスタイルを習得する」ことと考える。ちなみに、それを再現する、あるいは応用するためにはまた別の練習が必要になる(コピー譜練習、パターン練習等)。
9.3 何を「トランスクライブ」するのか
まあ、単純に言うと、自分の好きなソロ、あるいは好きじゃないんだけど謎めいたソロを楽譜に書き出すということだが、何をどこまでの解像度で楽譜にするかというのは色々なレベルがあるかもしれない。「フレーズ(音使い)」を書き出して、理論的な分析をできれば良いという向きもあろうかとは思うが、ちょっと勿体ないような気もする。
というわけで、トランスクライブの際、気にすべき項目を羅列してみる。
音の並び(いわゆるフレーズ)
アーティキュレーション(タンギングの有無、強さ、テヌート、スタッカート等)
リズムパターン(いわゆるシェイプ的なもの)
タイム感(前ノリ、後ノリ、ジャスト等)
八分音符の「跳ね」具合
音色(サブトーン、リアルトーン、グロートーン等)
音量(ピアノ、フォルテ、クレッシェンド、デクレッシェンド等)
装飾音(ベンド、運指による装飾)
ソロの構成・展開
と、ちょっと考えただけでもたくさん出て来る。これらをどこまで譜面化するか、は議論があるかもしれないが、譜面化しなくても、トランスクライブの際は上記のようなことも意識しておきたい。
とはいえ、実際やったことのない人はいわゆるオタマジャクシだけで精いっぱいだろうから、まずできることからやるのかな。
(補論1)ロックの「コピー」
改めて考えてみると、いわゆる、ロックの「コピーバンド」をやる人たちは、上記のような項目をほぼすべて「コピー」してそのまま演奏する。それも、ソロだけじゃなくて、一曲丸ごとだったりする。譜面を作らないことも多く、私から見ると全く信じられない神業である。どうやってやってるんだろうか。やっぱり100回ぐらい繰り返して聴いて、1000回ぐらい繰り返し練習するんだろうなあ。
(補論2)ソルフェージュの勧め
私は幼少の頃からピアノを弾かされたり、ブラバンにいたりしたので、楽譜の読み書きはあまり問題はなかった。しかし、そうでもなければ、いきなり譜面を書けと言われても難しいと思う。
そういう人は、まずはソルフェージュからやるのが良いのかもしれない。要は簡単な楽譜を見て音名付きで歌う、というやつだ。子供向きのものも含めて、いろいろな教則本が出ているので試してみる価値はあると思う。
あと、音は分かってもリズムが分からない、という人も多そうな気がする。前回の「シェイプ」の時に例に出したリズム譜読み練習などは、それを克服するのによいかもしれない。
とはいいつつ、やっぱりジャズの話なので、譜面にしたソロを楽器吹く前に唄ってみるというのが一番効率的だと思うんだけどね。それは「コピー練習」のときに改めて書いてみたい。
(補足3)装飾音について
伝統的なジャズをやるときはあまり気にしないのだが、サックスでフュージョン、っていうかスムーズジャズ的な音楽をやろうとする場合、装飾音をいかに再現するかが肝になると思う。っていうか、それだけでスムースジャズになるw というわけで、テーマでもアドリブでも、装飾音について正確に聴いて、できるだけ細かく譜面にしてみる、というのが上達の早道だと思う。やったことないけどw
ついでに。前からあちこちで言っているのだが、典型的なスムースジャズサックスにおける装飾音のつけ方、技法を汎用化・体系化して本にしたら売れると思うんだけどなあ。それをマスターすると、カエルの唄吹いてもスムースジャズになる、みたいなやつw リサーチしたわけではないので、もう存在するのかもしれませんが。
9.4 トランスクライブに関するTips
その他、トランスクライブに関して思いついたことをいくつか書いてみる。当然、すべて私見なので、ご了承ください。
(1) ソロ全部トランスクライブするか、 一部だけで良いのか
ソロを全コーラストランスクライブするべきなのか、一部だけでもやる価値はあるのかという議論がたまにある。結論からすると、まあどちらでも、なのだが、一度ぐらいは最初から最後までやってみると達成感があるかもしれないw 冗談はさておき、数コーラス分やってみると「あれ?このフレーズさっきも使ってたぞ」みたいな発見があるだろうし、全く同じではなくても似たような音使いが出てきたりして、トランスクライブの速度が上がるし、そこからアドリブの「肝」が理解できたりするかもしれない(前回書いたCのブルースのC#みたいなやつww)。
一方、クリスポッターのマスタークラス記事でも書いた通り「謎めいたフレーズ」あるいは「なんだか格好いいと思ったフレーズ」だけトランスクライブしてみるというのも当然ありだ。その場合は、理論的な分析をしてなぜ格好いいかというのを考えてみる、他のキーに移調してみる、など応用・発展させてみるのが面白そうだ。ちなみに、格好いい、はフレーズ(音列)だけではなくて、リズム(パターン)というのも十分理由になろう。
(2)楽譜にはどこまで書くか(解像度、装飾音符等々)
出来る限り正確を期すのは正しいのだが、時間も労力もかかるので、自分の都合と興味でできるところまでやる、という程度でいいと思う。性格もあるしね。商売で使うとか人に見せるとかではなければ、自分が分かっていればいいわけだし(私が昔書いた譜面なんか酷いもんだw)。
極端な例でいうと、かのSteve Grossman師匠のコピー練習は、デクスターやらロリンズやらのソロを譜面にしないで、とにかくレコードに合わせて吹いて、出来るようになったらレコード捨てていたwという若干真偽不明の話もあり、まあ、それはそれでありだろう。
さて、譜面化を前提としてみると、急に異常に速いフレーズが出てきて音やリズムがとれないということがある。その場合は、科学技術を駆使してテンポを遅くして頑張って譜面化する、という手もあるし、男らしく諦めるw、という手もある。最初と最後の音だけとりあえずとっておいて、あとは曲線でも書いておくとかね。まず耳を作るのが目的なので、解像度はそこまで追求しなくてもいいと思う。だったら、自分がトランスクライブできる部分で、音列以外に定性的に気付いたこと、例えば、ちょっと走っているように聴こえる、とか、力を抜いてる、とか、をメモしておくという方が役に立つかも。
ただし、上の方にも書いた通り「スムースジャズの装飾音符」はできるだけ解像度を上げて譜面にしておきたいですね。
(3)運指のトランスクライブはするのか
ロックギターのいわゆる「コピー譜」にはタブ譜がついていたりして、運指の正解が分かるようになっている。サックスはそこまで運指のバリエーションが無いので、あまり考える必要はないと思うが、替え指がある音、例えばシ♭とかは、いくつかの替え指からどれを選べばそのフレーズがスムースに吹けるか、みたいなことは考えてみるといいかもしれない。
あと、真ん中のレの音(ってわかりますかね)をオクターブキーを押す普通のフィンガリングじゃなくて、あえてオクターブキー推さずにサイドキーで演奏する、みたいなケースがある(音色を変えるのが目的だと思うが)。そこら辺も気が付いたらメモっておくとかはやっておいても罰は当たらないだろう。
(4)違う楽器のトランスクライブはするのか
マイクスターンあたりのフュージョンギタリストはよく「メーン!マイク(ブレッカー)のソロはよくコピーしてるよ!」みたいなことを言っているが、サックス吹きが他の楽器の演奏をコピーするのも多分ありなんだろう。
やるとすれば、やっぱり楽器の構造が全く違う(よってフレーズも変わってくる)ギターとかが面白いんじゃないかな。跳躍フレーズを中心にトランスクライブして、ドレミファからの脱却を行うというのはありかもしれない。
あとは、管楽器仲間でトランペットとかもいいかもしれませんな。トムハレルとかウディショウあたりはなんかパッと頭に浮かびますね。まあ、私の場合は、サックス吹きでさえあんまりできてないので、全く手が伸びませんがw
おまけ1:前回の答え合わせ
さて、前回(番外編3 シェイプ)で、私が「トランスクライブ」したリズムパターンのネタ元はなにか、というクイズを出しましたが、正解は
Sonny Rollins/Sonny moon for two (A night at the Village Vanguard)
の二コーラス目、三コーラス目でした。譜面、ちょっと間違えてるなw。
はじめのうちは「ド」と「ソ」だけ使ってご機嫌なスイング感を出してますね。楽器で吹くというより、こういうのをハナウタで真似してみると、ジャズっぽいリズムが身に付くんじゃないかと思ったりしました。
ちなみに応募者一名、正解一名でした(大物ミュージシャン!)
![](https://assets.st-note.com/img/1686816790851-KOYCd3vmRW.png?width=1200)
おまけ2:トランスクライブ私のお薦め
トランスクライブについては、基本的に自分の好きなもの、やりたいものをやればよいと思うが、やはりいきなりブレッカーとかコルトレーンの60年代とかクリスポッターとかは難しいだろう。
というわけで、もし私がこれからジャズテナーサックスを学ぶとして、どんなものからトランスクラブしていくか、という観点でいくつか選んでみた。完全に私の好み/考えなので、ご了解の上、参考にしていただければ幸いです。異常に偏ってるとは思いますがw
(1) デビュー直後のロリンズ
50年代前半のソニーロリンズですね。この頃は録音時間の関係で、コンパクトなソロが多いし、フレーズも典型的でわかりやすいのが良いかと思いますね。例としては下記With MJQからOn a Slow Boat To Chinaとか。あと、MilesのアルバムでBag's GrooveのOleoとかもいいかもしれない。
(2) 50年代のデクスターゴードン
デクスターは、ハードバップムーブメントの初期から活躍する正統派バッププレイヤーで、ロリンズやコルトレーンに影響を「与えた」人という評価もありますね。後年、どんどん癖が強くなっていきます(タイムとか)が、このころは分かりやすいフレーズを多用してよいです。八分音符はあくまでイーブン。
(3)とにかくハンクモブレー
ハンクモブレーは典型的なバップフレーズを実に分かりやすく吹く人ですよね。トランスクライブ初心者にはうってつけかと。このアルバム"Soul Station"には、他にもThis I Dig of Youみたいな分かりやすいコード進行のセッション必須曲があるので、ぜひ順番に取り組みたいものです。
(4)50年代コルトレーン
コルトレーンは、時期が遅くなるほど音数が多くなってトランスクライブが困難になるので、やっぱりマイルスとやっているここら辺から始めるのがいいのではないかと思うわけです。リーダー作もあるけど、やりやすいのはここら辺かな。ガチでモードやりたい人はImpressions一択だとは思うがw
(5)モダンテナーならボブミンツァー
最近の人、といってももうずいぶんなお歳だとは思いますが、ボブミンツァーは、良い音、分かりやすくて丁寧なフレージング、落ち着いたタイムが良いです。このアルバムはスタンダード集でもありますが、録音もバックも素晴らしいし。トランスクライブの題材としてはベストに近いかと。
(5)教祖様
いろいろなプレイヤーはいるが、やっぱり教祖様に憧れる、という奇特な方はやはりこのアルバムからトランスクライブするとよいと思われます。この曲は、最後にいきなりグロスマンフレーズ(その1)が出て来るのもよろしい。
(6)スムースジャズといえばグローバーワシントン
現在のスムースジャズ奏法の元祖はアルト→サンボーン(とさらに元祖のHank Crawford)、テナー→この方、グローバーワシントンJr.だと思うわけです。とにかくこの唄い方、もう少し言うと装飾音符とダイナミクスのつけ方はスムースジャズを目指す人は一度研究してみるべきでしょう。
(7)今、私がガチでトランスクライブするなら
やっぱり、50年代後半のロリンズみたいに吹きたいよね。このフレーズ、音、八分音符、タイム、遊び心、真面目にトランスクライブするんだったらこのアルバム(Newk's Time) 全曲だな。またはLive in Stockholm 1959かな。やらないけどw
おまけ3:私の演奏のトランスクライブ
先日セッションで私がHow High the Moonを演奏した動画がYou Tubeに上がっているのだが、それを聴いたテナーの小野塚さんがあっという間にトランスクライブしてくれた。凄いなあw なんか譜面になると凄く立派な演奏のような気がしてしまいますな。ほとんど何も考えてないんだがw 折角なのでここに記録しておきます。ありがとうございます!
![](https://assets.st-note.com/img/1686835911912-LQMZ32ysw2.png?width=1200)
なにやら異常に長くなりましたが、今回はここら辺で。
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