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【番外編】クリス・ポッターのパターン練習 Jazz Sax:アドリブ練習の目的別構造化 

 15年ぐらい前は、今でいうYou Tubeの代わりに海賊盤サイトというのがあって、ライブやクリニックの隠し録り音源がおいてあった。これはその頃、テナーのクリス・ポッター(以下クリポタ)がトロントの大学でクリニックを行ったテープというのを聴いて、そこで喋ったことをまとめたもの。いわゆるパターン練習について語っています。

B2.1 導入

 このクリニック、まずは40分に及ぶクリポタの講義から開始。ガキの頃何聴いてたとか、人前で演奏を始めたのはいつだとか、スティーリーダンに入った経緯だとか(ミンガスビッグバンドをウォルターベッカーが見に来てスカウトされたらしい)、その後誰とやっただとか、ポールモチアン(モーシャンて発音してた)のバンドの話だとか、それはそれで面白いっす。

 で、次に、例によって圧倒のソロパフォーマンス。今回はInvitationですが、完全に気が狂っている(笑)

B2.2 アイディアの発展

(1) パターンの「Transpose(移調)」

 さて、そのあとの質問コーナーが本題。「アイディアをいかに自然に発展させてソロにしていくのか、そのために何をやればいいのか」みたいな質問で、まあ確かにあのソロを聴いたらそういう質問が出てきてもおかしくない。

 で、クリポタがいろいろ喋るわけだが、要は「移調(Transpose)」の訓練をするといい。みたいなことを言ってる。もともとクリポタはアルトとテナーとピアノを弾けるらしく、それぞれの楽器をやる時いちいち移調の必要に迫られたとか。

 具体的な練習としては、とりあえず適当な「アイディア」を一つ決めてみる。なんでもいいけど例えばと言って吹いたのがこんなの。

【EX1】

EX1

 メジャーコードのアルペジオですな。この譜例では半音ずつ上がってるけど、これを例えば全音、短三度づつ、長三度づつ、みたいに好き放題移調して吹けるようにするそうな。
 上の例では五連で面倒なので一音省いてこんな感じ。

【EX2】 これは半音ですな

EX2

【EX3】 全音で上がる

EX3

【EX4】 長3度で上がる

EX4

 まあ、ここまではよくある練習法ですかね。さらに四度とか増四度とか五度とか、あるいは下がってみるとか、上がったり下がったりするとか、いろいろバリエーションはありそう。

(2) パターンの「変形」

 で、面白いなと思ったのは、タダの上方シーケンスじゃつまらないから、ためしに順番を変えてみる、みたいな練習。

【EX5】 EX4の4音パターンの出てくる順番を適当に変えたもの(これは実際に吹いたものじゃなくて私が適当に作ったもの)。こうやってみると、クリポタのソロの中で出てきそうな強力に変なフレーズになっちゃう。

EX5

【EX6】 4音パターンを変化させて新しいパターンを作る。これはピアノで事例を弾いてました。

EX6

 これ、あまり理論的にどうのこうのでなく、ピアノで弾いてみて格好いいからとりあえずやってみよう、みたいな感じの説明に聞こえる。

B2.3 どうやって「アドリブ」に活用するか

 さて、この手の練習をするのはいいんだけど、どうやってソロに使っていくかという問題は当然あるわけで、そこら辺はクリス・ポッターも自ら問題提起をしつつも回答をはっきりと述べていない(と思う)。本来であれば、いわゆるアベイラブル何とかとか、裏なんとかとか、分析的に行きたいところなんだろうが、私の感想として、理論的なことはあまり考えないでとにかくパターン思いつき→移調練習を積み重ねるのがいいんじゃないかなあと思うわけです。クリポタ自身も(理論は当然知ってるわけだが)、あまり分析的に練習していないような印象を受けました。

 つまり、パターン→移調の練習で「耳」と「指」を鍛えておくのではないかと。で、本番では、適当に思いついた練習済みパターンをとりあえず吹いてみて(どのパターンを選ぶかについてはコード見て思いついても、伴奏聴いて思いついてもなんでもよい)、次にその場でそのパターンを適当に移調させたりしてアドリブを発展させていくというか。たとえば、長三度で動いとけば、細かいことはともかくとして、まあ大まかにトーナリティを逸脱することはなさそうだとか、逸脱しても戻ればいいや、とかその程度のアイディアで演奏しているような気がします。

アドリブなんてのは理論的にコードに「あてる」のが目的ではなくて、自分の吹きたい(あるいは聴きたい)ものを吹くのが目的なのだから、こういう機械的な練習を通じて、「ナニが格好良いか」「ナニを吹きたいか」というセンスと再現能力を身につけておくってことですかね。EX6なんてのは、理論的にどうのこうのではなく「試しにちょっと変えてみました」程度で考えてるみたいだけど、実際吹いてみるとなんか格好良いからねえ。

 クリポタのソロ聴いていると、この人、この手の練習をまさに朝から晩まで飽きもせず、ひたすらやってるんだろうなあ、って思った次第であります。
(2009/5/5のMixi投稿より再掲)

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