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【短文レビュー/邦画新作】『あの人が消えた』水野格監督(※ 軽くネタバレあり)・・・これぞ田中圭の正しい使い方ではないか

トップ画像:(C)2024「あの人が消えた」製作委員会

監督&脚本:水野格
配給:TOHO NEXT/上映時間:104分/公開日:2024年9月20日
出演:高橋文哉、北香那、坂井真紀、袴田吉彦、菊地凛子、中村倫也、染谷将太、田中圭

マンションを舞台としたミステリーで、出演者が2人ほど被っているために、予告を見た時点ではドラマ『あなたの番です。』を連想した。で、実際に鑑賞してみたところ、まあとにかく田中圭の磁場が強い。別に作品自体は『あなたの番です。』と似ているわけではないが、ただ田中圭がいるだけで同じもののように脳が勘違いしてしまう。実は田中圭の演技って非常にアクが強いので、気をつけて起用しないと作品が「田中圭ワールド」になってしまう。かなり取扱注意の人なのである。

本作『あの人が消えた』は全体で3部構成になっているが、もう先に言ってしまうと、この3つがそれぞれ別のジャンルなのだ。といっても、前半はサメに襲われるアニマルパニックで、後半はサメに立ち向かうアクション活劇になるとか、そんなレベルではない。重々しいサスペンスから軽妙なコメディのように、もはやリアリティラインから激変する。切り替わるポイントではメジャー映画のパロディを丁重に組み混んでいるのを含め、完全に構造で遊んでいるのである。

これけっこう危険で、「『ブラッシュアップライフ』の監督だから」として映画館に来た人はともかく、予告の雰囲気などから「重々しいサスペンス映画だから」という理由で来た人を、まず裏切るのが前提となっている。映画に裏切りは必須とはいえ、目当てではないものを騙された形で強制的に観させられている客を満足させるのは、並大抵のことではない。第2部は、コント的なコメディとしてのクオリティは保たれているけれど、しかし好き嫌いがはっきり分かれるからなあ。

ジャンルが切り替わるとともに作品の世界観も、それとともに役者の演技プランもまた何度も変化する本作。だが、田中圭だけが田中圭のままずっと変わらず存在している。そりゃあ、田中圭はジャンルに合わせて演技プランを変化させるなんてできないのだから、当然ではあるが。世界観もリアリティラインも関係なく、つまらないギャグを言ってひとり勝手にテンションの上がっているお調子者・田中圭がそこにいることで、個々のジャンルはかろうじて繋げられているのである。これぞ、田中圭の正しい使い方ではないか。

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