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【映画館の旅・和歌山県vol.1】「シネマ203」は"隠れ家風"の映画館だった
2023/12/28(木)
夜22時半、バスタ新宿。大阪行きの夜行バスへ乗り込む。数日前に救急外来でのたうち回っていたやつが大丈夫かという感じだが、自分の座席にお婆さんが座っていたくらいで、特にトラブルは無い。意外と寝れた。
2023/12/29(金)
渋滞もあったらしく予定より遅れて7時45分ごろに大阪に到着。紀州路快速で和歌山駅へ。和歌山駅に着いたら、そこから和歌山市駅まで歩く。と、これが30分くらいかかった。駅前の地図だと近そうだったのに。割とヘトヘトになって駅前のプロントで小休止したのち、近くの和歌山城まで行き『ドラクエウォーク』のお土産をゲットしつつ時間を潰す。
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さて、この旅の一番の目的である「シネマ203」という映画館は、駅からほど近い「ぶらくり丁」というアーケード商店街の中にある。印象としてはシャッター通りだが、そこそこ人は歩いていた。まあ、年末年始で休業していた店も多かったかもしれない。人の出入りが目立っていたのは場外馬券売場(東京大賞典の日だった)。隣がガラス張りのデイセンターで、ご老人がボールを投げたりしている横で馬券を売っていて、なんかカオスだった。
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映画館「シネマ203」は、ビルとビルの隙間を入った奥にある外階段を登った2階の1室という、もしこれが呑み屋やバーだったら「知る人ぞ知る」みたいなところにある。まさに、"隠れ家風"の映画館。正直、初見では入るのに割と勇気がいる。
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映画館の名前にある「203」というのは部屋番号で、アパートの1室を映画館にしているという感覚で間違っていない。室内は10畳くらいで、20席のロッキングチェアが並んでいる。天井のプロジェクターで壁のスクリーンに映す形式。まあ、身も蓋もないことを言ってしまえば、ホームシアターである。ただし、かつて千葉市にあった「駒鳥シアター」とは違い、上映中はちゃんと室内が真っ暗になる。
中に入ると受付スタッフの方から「予約してますか?」と聞かれる。「していないです」と答えると「本日は混み合ってますが、よろしいですか」とのこと。どうやら予約してくる客が多いらしい。確かに映画館のWebサイトには予約の案内があったが、専用フォームがあるわけでなく、電話やメールでの受付。電話で映画館を予約するの、最近では珍しい。以前は「下北沢トリウッド」が電話予約だったか。今はどうだろう。
それにしても、これから上映するのはフィンランドの建築家アルヴァ・アアルトのドキュメンタリーである。アアルトには失礼ながら、一般的にメジャーな人物でもないし、予約客で満席になる作品だろうか。と思っていたが、本当に満席に近かった。いや、20席しかないからだけど。ここは和歌山県に久しぶりに誕生した唯一のミニシアターであり、上映する作品なら何だって観るというスタンスの客も少なくないと思われる。どこの場所にも「特定の映画館のファン」は存在する。
大人1700円で全席自由だが、予約していないのに早く来ただけで良い席に座るのも申し訳ないので、端っこを確保。夜行バス明けのうえ30分以上歩いた後なので、ロッキングチェアに座るだけで眠くなってくる。この手のドキュメンタリーは往々にして退屈なのもあり、白状すると数分ほど寝落ちしました。一級建築士としては宜しくない態度である。
もっともドキュメンタリー映画『アアルト』は、アルヴァ・アアルトの建築そのものについてよりも、いかに彼が人たらしのコミュ強で、それゆえ仕事の依頼が途切れなかったのだという内容だった。あとは奥さんの存在がいかに大切だったかというベタなやつ。特に建築に興味ない人には、そういうほうがウケるのかなあ。
↓ 「シネマ203」公式サイト
さて、和歌山県の映画館事情は特殊である。47都道府県で一番変かもしれない。シネコンが全部で5カ所。うちひとつがイオンシネマで、あとの4つはジストシネマという他県の者には聞きなじみのない名前のシネコンだ。このジストシネマ、母体が大阪に本社を置く予備校経営の企業なので、謎は深まるばかり。和歌山県で上映される映画は、このジストシネマに牛耳られている。
そんな寡占状態で硬直した映画館事情の和歌山に、突如誕生した「シネマ203」が風穴を開けるのかもしれない。いや、そこまでの重荷を期待するのも申し訳ないのは重々承知の上だけど。映画館がシネコンしかない県は他にもあるが、地域による文化の不均衡を少しでも是正するためにも、シネコンではないミニシアター系の小さな映画館はもっと作られるべきではある。アパートの1室(みたいな場所)でも映画館は可能であると「シネマ203」は示したわけだし。蛇足ながら、ちょっと気になったのは、ここ消防法はどうクリアしているんだろう。小さい映画館を作ろうとすると、よく消防法がネックとなるので。2方向避難あった?
さて、映画も終わり昼食を取りたいのだが、午後3時の地方都市の商店街で、しかも年末休業も多い時期となると、食べ物屋を探すのも一苦労。まずチェーン店がないし。地域密着型と思われる喫茶店が空いていたので入ってピザトーストを注文。顔馴染みであろう店員と地元客との内輪な世間話をなんとなく聞きつつ隅っこでひとりコーヒーを飲む居心地の悪いシチュは嫌いではない。
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ホテルのチェックインまで時間があるので、黒川紀章設計の和歌山近代美術館に寄ってみる。といっても長期休館中だったので、外観だけ観察。外に中銀のカプセルが置いてあった。
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まだ時間があったので、駅ビルと一体化している蔦屋書店に初潜入。新聞と雑誌を読んだだけだが、快適さでは群を抜いているし、勉強スペースも広いし、世間で言われるほど否定的ではない。まあ、図書館本来の機能がどこまでちゃんとしているかによるけれど。駅前にあるサードスペースとしては充分じゃないかなあ。
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そんなこんなで夜になったので、駅からすぐのビジネスホテルにチェックイン。宿泊料金の割にはハズレか(年末だから値段が上がっていたのかもしれない)。なぜか浴槽が濡れており、怖くて使うのやめた。
(後編へ続く、つもり)