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【短文レビュー/邦画新作】『劇映画 孤独のグルメ』松重豊監督・・・主演俳優の抱えている『孤独のグルメ』への破壊願望は本物なのかもしれない

トップ画像:(C)2025「劇映画 孤独のグルメ」製作委員会

監督&脚本:松重豊/原作:久住昌之、谷口ジロー
配給:東宝/上映時間:110分/公開:2025年1月10日
出演:松重豊、内田有紀、磯村勇斗、村田雄浩、ユ・ジェミョン、塩見三省、杏、オダギリジョー

主演俳優が監督と脚本も務めているという、テレビドラマの劇場版としては異例のスタイルをどう捉えるべきなのか。一本調子なのに破綻している脚本からは、常々このドラマシリーズを辞めたいと愚痴っている主演俳優が本気で潰しにかかってきたと読み取ってしまうが。パリに住む老人から、子供の頃に好きだった汁をもう一度飲みたいと頼まれる。何かの魚と、貝と、たぶん椎茸と、豚骨っぽいものが出汁に使われていたと、ざっくりにも程がある老人の記憶だけを頼りにアテもなく探し回る主人公。シャレにならないトラブルに巻き込まつつ、出会った食材を「これに違いない」と決めつけていく。依頼者の老人に確かめることもせず無根拠に判断しているわけで、一体何をしているのか。材料を持ち寄り、無関係のラーメン店の店主に出汁を作らせて、「何かが違うんだよなあ」と正解を知らない部外者だけで悩み出すに至っては、この人たち全員バカなんじゃないかと。

もちろん、『孤独のグルメ』の肝は物語ではなく、主人公が脳内で一人語りしながら食事をするシーンにある。たしかに、大柄の中年男性が背中を丸めてただ箸を進めている絵面そのものに可笑しみはあるし、自分の世界に没入している主人公の意識と、周囲にいる他者の意識とのぶつかり合いに奇妙な緊張感が発生しているのも興味深い。これらはドラマシリーズの魅力であり、スクリーンの大画面によって更に際立っているといえよう。ただ、この緊張感ある食事シーンは、最初の2回くらいである。なぜならその次は孤島でのサバイバル飯という特殊すぎる状況だし、さらにそのあとの食事シーンはいずれも「孤独」ではないからだ。物語のせいで他者との交流が発生し、ゆえに食事中でも主人公を孤独にできず、結果として『孤独のグルメ』のコンセプトは粉々にされてしまっている。やはり主演俳優の抱えている『孤独のグルメ』への破壊願望は本物なのかもしれない。

途中で『孤高のグルメ』という自己パロディ的なテレビドラマが登場し、撮影された店に放送後は長蛇の列ができるという物語の展開からすれば一切不要なエピソードを挟んでいるのも、痛烈な自己批判のようである。あるいは、その劇中ドラマの主演の役として呼び出した某俳優に、俺の後継者になれと押し付けているようでもある。本当に辞めたいんだなあ、松重豊。

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