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【短文レビュー/邦画新作アニメ】『きみの色』山田尚子監督

トップ画像:(C)2024「きみの色」製作委員会

監督:山田尚子/脚本:吉田玲子
配給:東宝/上映時間:100分/公開:2024年 8月30日
出演:鈴川紗由、髙石あかり、木戸大聖、やす子、悠木碧、寿美菜子、戸田恵子、新垣結衣


映画館泣かせの作品かもしれない。ボクが本作を観た都内の某シネコンでは、最後のライブシーンで楽器による音が大きく割れていたため、ほとんど歌詞を聞き取れなかった。「おとなしい性格で小さい声の人がロックを歌う」なんていう難しいシーンには、映画館の音調整にも相当のこだわりを要求されるのであろう。まあ、新宿ピカデリーなら仕方ないか。

とても微小で内的な悩みを持つ登場人物たちが、あくまで自分の気持ちを整理するためにバンドを組む話。解決すべきものが小さい以上、音楽の力も相応に小さいままで、(映画館の事情は別にしても)演奏シーンにそれほどのカタルシスは訪れない。しかし恐ろしいのは画そのもので、たとえば手の指も一本づつ丁寧に書いているし、しかもちゃんと自然に動かしている。絵柄がファンシー寄りだから目立たないが、狂気を帯びた作家的こだわりが、たしかに存在している。新房昭之や最近の新海誠もそうだが、川村元気は「アニメ監督には好き勝手にやらせよう」という方針にしたのだろうか。

寮の備わっているキリスト系の高校とか、船で簡単に行ける離島とか、長崎をモデルとしているゆえギリギリありえそうな舞台装置が、独特の世界観の構築に役立っている。ロケーションの勝利かもしれない。

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