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【短文レビュー/邦画新作】『箱男』石井岳龍監督

トップ画像:(C)2024 The Box Man Film Partners

監督:石井岳龍/脚本:いながききよたか、石井岳龍/原作:安部公房
配給:ハピネットファントム・スタジオ/上映時間:120分/公開:2024年8月23日
出演:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、渋川清彦、中村優子、川瀬陽太

内省的に自己のアイデンティティとは何かを問い続けていた安部公房の小説の主人公も、ひとたび石井岳龍のフィルターを通せば、ひとつも悩みを持たない自己肯定感の塊になるのだ。この世界では箱男こそが上位存在であり、それゆえ誰しもが箱男に憧れ、箱男の座を巡って抗争を繰り広げている。いい大人による段ボール箱を被ったままのバトルは、バカバカしいことを本気の疾走感で繰り広げており、なぜか高揚してしまうから不思議だ。映画史に残すべきアクション格闘シーンだろう。

観客を巻き込む最後の仕掛けは、過去に何度も多くの映画人が似たようなことに挑戦しては散々な結果となっていたが、本作は稀有な成功例となっていた。『箱男』を映画化するのならば、たしかにこの反転は必要不可欠だ。この貴重な“体験”を享受するためにも、映画館での鑑賞がマストな作品である。


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