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すべての「仕事人」のために

私は現在の職業は何か? と尋ねられれば、「カウンセラー」と答える。
しかし、多くの方がイメージする「カウンセラー」とは一線を画しているタイプの「カウンセラー」である。

私のクライアントの多くは企業だったり、官公庁の場合もある。
個人ではなく、その組織や部署が抱える、主に人間的な問題を、その組織の内部に入り込んで洗い出し、報告するだけで終わることもあれば、その問題の解決に向けて援助を行うこともある。

業務内容の例を挙げれば、例えば新たな企画を始める場合に、どのような人選を行うのが良いか、や、雇用されている側がその企業について、業務内容や待遇等で不満に感じていることはないか、などと言うことを、カウンセラーであること(あるいは会社側の回し者であること)を悟られないようにしながら一緒に業務に携わり、評価をして報告する、というようなものだ。

あまり後味が良くない仕事としては、リストラリストの作成や産業スパイの洗い出し、横領や背任の証拠集め、などと言ったものもある。

勘違いして欲しくはないが、例えばA社の依頼でB社に赴く、というような、いわゆる産業スパイ的な仕事は受けていない。実際のところ、そういう使い方をしたがる企業も多いのだが、そういう依頼は電話やメールで問い合わせがあった時点でお断りすることにしている。

私は、自分が経営者だったこともあるし、アルバイトから役員まで、およそすべての役職経験もあるため、それぞれの階層が抱える一般的な悩みや問題などは広く把握しているつもりだ。

そして、一人ひとりのそういった悩みや問題が、組織全体の生産性を落としたり、業績の伸び悩みや離職者の増加といったようなことに繋がることも重々承知している。

逆に言えば、生産性の低下や業績の伸び悩み、といったような事柄の原因のほとんどが「人にある」と言っても過言ではないだろう。
もちろん、リーマンショックやロシアのウクライナ侵攻など、外的要因が影響を及ぼすこともあるが、そういうピンチの時でも乗り切れる企業というのは、大企業や零細企業の区別なく「人」の力によるものが大きいと考えている。

武田信玄公がその昔、「人は石垣、人は城」とこれぞ金言というような言葉を遺したとされているが、まさにその通りだ、と強く感じている。

そういう意味でも、私の仕事は、より多くの企業で勤めている「仕事人」だが自分で「仕事人」ということに気付いていない人々に、「仕事人としての気付き」を与えることだと考えている。

だからこそ、「カウンセラー」という職名に「こだわり」を持ちたいのだ。
お気づきかも知れないが、私の仕事は時にコンサルタントだったり、調査員だったり、よりふさわしいと思われる職名を、いくつか簡単に思い起こすことができるようなものばかりである。

だが、私がやりたいのはそれだけではなく、その先にある、「企業にとっての個人」と「個人にとっての企業」についての考え方、見方を変えてもらい、より働きやすくやりがいのある仕事が与えられ、与えられた仕事に結果が出せる「人間」を育てる、いうことだ。

育てる、というには時間が足りないことの方が多いが、少なくても「仕事人」としての芽が出るくらいまでは労使双方に関りを持つように心掛けてはいるつもりだ。

だから、業務期間終了後、時間を空けて行うフォローで「ここがこう変わった」という話を聞くのが楽しみでもあり、不安でもある。
私という人間が、その組織や個人に与えた影響が、良い物で、良い方向に変わっていてくれれば、といつもいつも祈るような気持ちだ。

ごく最近のことであるが、以前に依頼を受けた物流系の大企業から、
「一緒に初任管理者研修を受けた人間が配置された部署での、新卒採用の離職率が、他の部署の離職率を大きく下回った。」
と連絡があった。

私は、「同じく初任管理者として研修を受ける同僚」として、2週間、研修所で泊まり込みで研修を受け、その間に研修だけでは足りない要素の補完と管理者としての適性を数値化する、という業務を受けていたのだが、その間に、特に「人間味と生産性」に主眼をおいて、日常会話やディスカッションなどを通じてステルスカウンセリングを行っていた。

結果、一緒に研修した25名が配置された部署では、新卒採用の離職率がその他の部署の10分の1以下、それ以外の採用についても5分の1以下だった、ということだった。

先方企業の人事担当の部長から直々に感謝の連絡を受けたのだが、こういうことがあると、まさに「カウンセラー冥利に尽きる」の一言である。

もちろん、いつもいつもこんなに如実な結果が現れる訳ではないし、知らずにカウンセリングを受けていた25名の素質があればこその、一つの奇跡のようなものだが、それでもやはり嬉しいものは嬉しいし、世に隠れながらでも仕事をした甲斐があったと思うのである。

ほんとなら、身分を明かして25名全員とハイタッチしたいところだが、そういうわけにもいかない。
その夜は、一人でちょっと高い酒を飲みながら、25名一人ひとりのことを思い浮かべてニヤついて過ごした。

そして、これからはこういう経験を元に、もっと前の段階、大学や高校の、これから「仕事人」となるべき人材の多くに、好影響を与えることができればいいな、と考えている。

今はそのために、キャリアコンサルタントのより上位の資格を得たいと勉強中である。

最後に、私も尊敬して止まない、スティーブ・ジョブズの言葉を添えて、終稿としたい。

『すばらしい仕事をする唯一の方法は、自分のやっていることを好きになることだ。
まだそれを見つけていないのなら、探し続けなければならない。
心の問題のすべてがそうであるように、答えを見つけたときには、自然とわかるはずだ。』

#わたしのキャリア

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