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可笑しなお菓子パート2(2)(ユニシロシリーズ)


店に入って行くと、にこやかに出て来たのは
あの店主だった。
以前もこの男が僕に対応してきた。
その時の女性店員は無愛想に僕を見つめていた。
だが、今回は違った。
彼女は愛想よく僕を見つめてくれている。
あの噂は本当だったみたいだ。
僕は店主に構わずに女性店員の元に向かう。
と言っても小さな店で、
5歩も歩けば彼女の元に行ける。
にこやかに微笑んでいる彼女は
以前とは違い別人だった。
…恋人でも出来たのかな?…
と、僕は何故か嫉妬心を抱いてしまう。

「いらっしゃいませ。何か御入り用ですか?」
と、声も明るい。
「別に欲しい物はないのですが」
と、つい本心を語ってしまった。
「そうですか、それは残念です。今回こちらで
発売されました、[可笑しなお菓子]ですが
これは評判が良い商品です。このお菓子を食べると
面白い事が起こり楽しくなりますよ」

と、にこやか言うが、嘘くさい話だ。
「でも、前回のお菓子は不味かったですよ」
と、僕は皮肉を込めて力強く言った。
「そうですか。味覚はそれぞれ違うので、何とも言えませんが、美味しくなかったですか。申し訳ありません。
でも、今回のは美味しいですよ。
私が作ったので、間違いないです」
と、言葉に感情がこもっている。
表情も明るいし、鉄仮面の面影は何処にも無い。
「このお菓子ですが、どの様に可笑しくなるのですか?」

「それは、人それぞれ違いますが、私は気分が良くなりました。いつもウキウキしています」
なるほど、気分良く話しているのは良く解る。

「私も気分良くなれますかね?」
「なれると思いますよ。絶対になれます。」
と言って僕の手を両手で掴んでくる。

僕はその[可笑しなお菓子]を彼女を信じて買う事を決めた。
僕の頭に浮かんでくるのは、
…あの娘、何故あんなに明るくなったの?
不思議である。
それに魔法に掛かったかの様に、また買ってしまった。
かなり高価なお菓子だったが、彼女の笑顔と手の温もりに
惑わせれたのかな。
騙されたかも知れない…と、
後悔の念を抱きながら、僕は帰宅の途についた。

アパートドアを開け、独り暮らしの僕の
部屋は温もりも無い、いつもの部屋である。

早速買ったばかりの[可笑しなお菓子]を取り出し、
箱の蓋を取ると、チョコレート色のクッキーが(直径5cmぐらい)一枚だけ入っていた。
…これで2000円もするのか?ぼったくりだ!…
と、怒りの感情が湧いてくる。
パッケージには、『食べ過ぎに注意して下さい』
と、書いてあるが
…これ一枚ぐらい食べて食べ過ぎと言うのか!…
と、さらに怒りの炎が燃えたぎった。

「これで、前みたいに不味かったら文句を言いに行くぞ」
と、誰に言ったのかわからない独り言を
言いながら、僕はお菓子を食べてみる。

「うん、意外と美味しい。だけど少なすぎる!
もっと食べたい!可笑しな事ってなんだ?全然起こらないぞ!」
と、騙された気分であったが、翌日憧れのあの娘に
突然告白された。夢を見ているのかと思ったが
現実だった。
可笑しな事が本当に起こった。
独りぼっちだった僕に、念願の恋人ができた。
僕はまさに夢心地だ!

これって偶然それとも、
あの[可笑しなお菓子]食べたからなのか?

定かでは無いが、お菓子を買った2000円の分は
元を取り戻したと、感じていた。
毎日、ウキウキの気分で過ごす僕だった。


だが1か月後、彼女から別れを告げれた。

何故だ⁉️
[可笑しなお菓子]の効力が切れたのか⁉️

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