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百人一首百人百色 第14番➕追伸


河原左大臣(14番) 『古今集』恋四・724
陸奥(みちのく)の しのぶもぢずり 誰(たれ)ゆゑに
乱れそめにし われならなくに

現代語訳

陸奥で織られる「しのぶもじずり」の摺り衣の模様のように、乱れる私の心。いったい誰のせいでしょう。私のせいではないのに(あなたのせいですよ)。

…あぁこんな事があるのだろうか?
この僕が恋に落ちるなんて…
僕は子供の頃から、
友達もできず好きな女の子も
出来ない少年だった。
高校生の時は、学校と塾通いで1日を費やした。
同級生達は、高校生活を満喫し楽しげに男女交際している。僕はそれを冷めた横目で見ていた。
僕には崇高な目標があった。
両親の願う大学に合格する事が
僕の最大の親孝行だと信じていた。
そして僕は念願の大学に合格する。
だが、ここで終わった訳では無い。
しっかり勉学して希望する会社に就職しなければ、
目的達成とは言えない。
僕の目指す会社は、父が重役を務める一流の製薬会社。
その為には、僕は多くの資格を取らないといけない。
大学生の時も僕は勉学に明け暮れた。
まるで孤独を愛するかの様に、
人と関わるのがわずらしかった。
恋などもっての他だった。
と言うよりも、僕は女性からはモテない。
だから、女性には興味も持たない、関心も示さない
と、僕は心に決めていた。

そんな僕の目の前に、可憐な娘が現れる。
その娘はデパートで化粧品を販売している娘である。
お客が女性相手である為、僕は遠くで彼女を見てるだけ。

可愛い仕草。細やか動き。あどけない笑顔。
質素な服装。どれ一つとっても僕は彼女に魅了された。
化粧品を販売しているのに、
彼女は派手な化粧も施さず、
僕の理想の女性だった。
彼女に話しかけることもできずに、
悶々と暮らす日々。
でも、彼女を遠くから見ているだけで僕は幸せだった。
そんなある日突然両親から
僕の出生の秘密を告げられる。
僕は養子だった。
生まれて直ぐに養子に出された。
本当の両親はもうこの世には居ない。
悲しい現実ではあるが、僕にとっては
今の状況に変化は無い。
ただ、僕の兄弟がいると言われた。
それは、僕にとって大きな関心事となる。

その様な心の変化がある中で僕の安らぎは
彼女を見つめることだけだった。
仕事終わりに立ち寄るデパート。

だが、僕の幸せも長くは続かない。
突然見知らぬ60歳ぐらいの男から、こえを掛けられる。
肥ではなく声である。
男は、僕の腕を掴み問答無用に
デパートの中にある喫茶店に僕を連れ込んだ。
男の後ろには体格の良い若い男が
サングラスとマスクを掛けている。
僕は恐怖を感じた。
いったいこの男達は何者?
反社の人か?それとも警察か?
動揺を隠せぬ僕に老人が身分を明かしてくれる。
彼らは探偵事務所の者だった。
老人が言う
「彼女から、ストーカーの被害が出ている。
金輪際辞めるなら、警察には届けない。
辞めるか?」

…僕がストーカー。セクハラしていた?…
驚きの余り言葉も出ない。
出るのは涙だけ。
憧れのあの娘にセクハラをしていた!
僕はノックアウトを喫したボクサーの様に
立ち上がる事は出来なかった。
…もう、諦めよう。これが最初で最後の恋かも知れない…
僕の脳裏に浮かぶのは、あの和歌だった。

[陸奥(みちのく)の しのぶもぢずり 誰(たれ)ゆゑに
乱れそめにし われならなくに]

高校生の時に覚えた百人一首
僕には関係ないと思っていた和歌が
今鮮明に心に蘇る。
僕の心を乱すのは、純情可憐なあの娘。
もう、手の届かない僕の理想の女性。
ストーカー、セクハラと言われたら
もう会うことも、見つめる事も出来ない。
悲しい日々を僕は過ごした。

それから二か月が過ぎたある日
新たな事実が発覚する。
僕と探偵事務所に勤める彼とは、
一卵性双生児だったのだ。
彼とは、老人の後ろにいたサングラスと
マスクをした若い男のこと。
僕たちは二人は双子の兄弟だった。
そしてまた新たな事実が、判明する。
僕たちは二卵性双生児で
もう一人いると判ったのだ。
それは女の人だった。
そして、見つけた女性は、僕が憧れたあの娘。
あの純情可憐な娘。
僕たちは兄妹だった。

今、私たち三人は仲の良い兄妹。
特に彼女とは仲良くさせてもらってます。
もう、僕はセクハラとも言われない。
ストーカーとも言われない、本当に仲の良い兄妹。

でも、初めて好きになった娘が妹だなんて。
その事を想うと、僕の心に冷たい風が吹き抜ける。
複雑な想いは絶える事は無い。
僕の乱れる心を癒してくれるのは、
いったい誰なのでしょうか?
現れてくれるのでしょうか?

追伸
私の小説「三つ子の魂百までも」からの追加小説

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