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ユニーク輪唱(410字の小説)➕追伸


彼はユニークな人間。
だが彼は自分の能力を恐れていた。
これを人前で晒したならば、
人は彼を偏見の眼差しで見るであろう。
変人扱いされるかも知れない、という恐怖を感じていたからだ

私が彼と出会ったのは1カ月前の事。
彼は失業し生きる希望も無くしていた。
落ちぶれくたびれかけていた彼を、
私は道の隅で見かけた。
うずくまり、目の輝きもなく私を見つめてくる。
まるで、捨て猫の様な彼であった。
私は彼を抱き起こし、手にあったパンを与えた。
彼は、人の目を憚る事もなく無心で食べている。
食べ終え少し落ち着きを取り戻した彼は、
私にこの様な事を言った

「パンを頂いたお礼に私の特技をお見せします」

と言い、突然歌を歌い出した。
カエルの合唱である。
この歌は輪唱の曲として有名だ。
聞いていると、一人なのに輪唱で歌っている。
初めて聴いた一人での輪唱。
彼のユニークな能力を私はテレビ番組で紹介した。
彼は一躍売れっ子芸人となった。

新たな芸人を発掘するのが私の仕事だ。

追伸

自分ではコンプレックスに感じていても、
すごい能力なのかも知れません。
彼も最初からこの能力に自信を持っていれば、
失業者なることは無かったかも知れない。
彼は死を覚悟していたから、最後にユニーク芸を披露したのか?
また、芸人を発掘する人と巡り会えたのも、一つの縁ですね。
人生の転機はいつ起こるか解らない、
天気と同じで急に変わるかも知れませんね。


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