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百人一首百人百様 45番

哀れとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに 
なりぬべきかな
現代意訳
(あなたに見捨てられた) わたしを哀れだと同情を向けてくれそうな人も、今はいるようには思えません。
(このままあなたを恋しながら)
自分の身がむなしく消えていく日を、
どうすることもできず、ただ待っているだけの私なのです。

ある日、見知らぬ女性が僕に手紙を差し出してくる。
差し出すその手が小刻みに震えている。
訝しい思いで、手紙を受け取ってみたが、
[哀れとも いふべき人は 思ほえで 
身のいたづらに なりぬべきかな]
と、何やら解らない事が書いてある。
どうやら和歌の様だが僕には何も馴染みが無い。
僕に手紙を渡せた事に満足したのか、
彼女は逃げる様に僕から離れて行った。
いったい彼女の名前は何て言うのか?
解らぬまま、僕は関心も持たずに
日々を過ごして行った。

そんなある日、僕を付け狙うかの様な感覚に陥いる。
…誰だろう?僕を見つめている!ストーカーか?…
との想いが湧いたが、僕などストーカーしても
何の得にもならないだろうと、高を括っていた。

しかし、明らかに誰かが僕を観察している。
もしかして、あの奴らか?
それともあの手紙をくれた彼女か?
彼女の手紙をもう一度読み返してみるが
やはり意味が解らない。
調べてみて驚いた。この和歌の意訳はこうだ。
[私を哀れだと同情を向けてくれそうな人も、
今はいるようには思えません。
自分の身がむなしく消えていく日を
どうすることもできず、
ただ待っているだけの私なのです。]
これって、僕に対する恨み節なのか?
いったい僕が彼女に何をしたと言うのか?
全く知らない彼女が僕の事を好きになり
勝手な思いを僕にぶつけて来るのか?

あの彼女は僕のストーカーか!?
僕はその日から不安な気持ちに苛まれていた。
外出する事も控え、密かに息を潜めるかの様な生活だった。


「また貴方、いたずらして。そんな事しちゃダメでしょ。
貴方は縁結びの神様なんだから、ちゃんと紅い糸を結んであげないと。」
と、叱っているのは弁天様だ。
叱られているのは、縁結びの神様。
神様と言っても心は悪魔と同じで、いたずらが大好きだ。
彼の仕事は、男女に紅い糸を結ぶ事。
だけどすんなりと結ばれたのでは観ている方は
面白く無い。
一方だけ結んで、片方は結ばず指の近くにぶら下げて置く。
そうすると、片想いの誕生だ。
今回も片想いのカップルを誕生させた。
紅い糸を結ばれた女性は、
居ても立っても居られない。
結ばれない相手を想い続けるだけ。
恋に苦しむカップルを見て楽しむ
縁結びの神であった。

「早くあの男の指に紅い糸を結んであげなさいよ。
可哀想じゃ無いのあの女性が」
と、声を荒たげる弁天様。
弁天様は普段は美人なのだが、
怒ると鬼の形相に変わる事は、
神界では有名な話し。

脅された縁結びの神は、
素早く男の指に紅い糸を結びに行く。


恐れ慄いていた男だったが、
紅い糸が結ばれた時から
彼女に対する不安は無くなった。
不思議な事だがストーカーされていても、
怯える事は無くなった。
それよりもその女性が気になって仕方が無い。
もらった手紙には住所も名前も書いて無いのだ。
あの時わずかな時間だけ顔を見たのだが、
はっきりとは覚えていない。
可愛い娘の様に感じたが、定かでは無い。
彼女の事を思いながら、
会う事もなく月日が過ぎて行く。

「ちゃんと紅い糸、結んだの?結んであったら
すぐに二人は出会うはずよ。手抜きしてない?」
と、また弁天様に叱られているのは縁結びの神。
「手抜きなんかして無いよ」
と、言い訳しているが、自信がないのか
もう一度確かめに下界に降りる縁結びの神。

男の元に行くが、紅い糸はしっかりと結ばれている。
安堵する縁結びの神。
…可笑しいな!何故女性と結ばれないんだ?…
と、思った縁結びの神は、女性の所に訪れる。
「可笑しい、彼女左の小指に紅い糸をしっかりと
結んだはずだ。だが紅い糸が見当たらない。」
想い悩む縁結びの神
「一度指に結んだ紅い糸は絶対に切れる事は
無いのに、何故無いのか?」
縁結び神は彼女の身辺を隈なく探したが何も出てこない。

その時、縁結び神は遠くにいる彼の呟きを聞く。
「なんで、僕には恋人も嫁も来ないのだろうか?
僕には運命の紅い糸などないんだ」
と、投げやりな言葉だった。
「きっと僕なんか、待っていても同情してくれる人など
居ないんだ!」
と悲しげに響く。
「そんな事ないよ。紅い糸さえ見つかれば君も
良縁で結ばれるよ。」
と、言ってみても神の声は人間には届かない。
ふと見ると、彼女の左の小指が無い。
「あの左手の小指に結んだ紅い糸が、
小指と一緒に切り落とされたんだ!
いったい誰が切り落としたんだ」

大声で絶叫する縁結びの神。
だけどその声は人間には全く聞こえず届かない。
彼女が指を切り落としたのは、
不注意からであった。
彼女は美容師、毎日髪をカットしている。
その時、誤って彼女の左の小指を切り落としてしまう。
紅い糸も何処かに行ってしまった。

彼は今日も寂しく歌を詠む。
覚えたばかりの和歌を。

「哀れとも いふべき人は 思ほえで
身のいたづらに なりぬべきかな」

悲しい和歌です。
でも、希望を持って生きていきましょう。
山口百恵も言ってますよ
🎵ああ、日本の何処かに私を待ってる人がいる

そう、何処かにあなたを待っている人が必ず居ますよ!

知らんけど。


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