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可笑しなお菓子(5)ユニシロシリーズ


次の朝、老婆の松原千恵子は爽快に目ざめていた。
老人は朝起きるのが早い。
若い松原千恵子を起こさない様に
静かに読書をしている。
老婆はなんだか今日は体が軽く
心もウキウキしている事に気がついた。
…何故だろう?こんな気分は初めてだ。…
と、不思議に感じながら本を一心に読む老婆。
考えてみると、老婆の人生と言ってもまだ誕生したばかりである。
松原千恵子のクローン人間として誕生したのであるが、
赤ちゃんで産まれて来ずに、最初から老婆で産まれて来たのだ。

あの魔法瓶の不確かさがその様な老婆を誕生させたのだ。

そんな事はさて置き、老婆の気持ちを明るくさせたのは、
あの可笑しなお菓子を食べた事によるものだった。

老婆は自然と歌を口ずさむ。
それは、古い昭和の歌謡曲であった。

その歌声に起こされたのか、若い松原千恵子が目覚める。
「何を歌っているの?」
と、いぶしげに聞く若い松原千恵子。
鼻歌する老婆を初めて見たからだ。

「起こしちゃったかい」
と、しなびた声の老婆。
「なんだか、楽しいそうね。おばあちゃん。いつもと違うね」
と、まだ眠いのか、目を擦りながら言う。

「今日はなんだか、楽しい気分なのよ。身体も軽いし」
と、しなびた声を弾ませる。

「えっ、楽しい気分なの?おばあちゃん。」
と、いつも冷静な松原千恵子が興奮気味に声を出した。

「何だか判らないけど、気分がいいの」
と、嬉しそう。
「もしかして、お菓子を食べたからかな!」
と、お菓子の効果をアピールする若い松原千恵子。

「そうかも知れないね」

「だとすると、このお菓子は効果があるんだわ!
やった、[可笑しなお菓子]が完成した」
と、感情をあらわにする若い松原千恵子。

「これを売り出そう。気分を楽しくさせる[可笑しなお菓子]として
販売しよう。きっと売れるはずよ」

喜ぶ松原千恵子は可笑しなお菓子を量産するのを決意した。
だが、材料が無い。小麦と玉子は直ぐに手に入るが、
マジックキノコはそう簡単には手に入らない。
また、魔法使いの叔母さんにお願いするしかない。

そんな訳で、若い松原千恵子は、
魔法使いの叔母さんを尋ねて
行くのであった。
続く

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