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個別株で狙う株主優待

ここでは個別株への投資メリットの一つとして株主優待を取り上げたいと思います。株主優待とはそもそもどんなものかからスタートし、そのメリットやデメリットについても書いていきます。



〇株主優待とは何か


株主優待とは、自社の株を購入してくれた株主に対して企業が自社の製品や割引券、オリジナルQUOカードなどの優待品を、配当とは別にくれる制度のことです。


株主優待には企業が表立ってサイトなどに公表しているものと、株主優待として公表してはいないけれども実質的に株主優待みたいな形で物品をくれるものが存在します。


株主優待の制度は日本独自のものではなく海外にも存在しますが、海外では日本ほど多くの企業が行っているわけではありません。


企業側が株主優待を行う目的としては、個人投資家に自社の株式を長期で保有し続けてほしいからです。そのためのちに触れますが、株主優待を貰うには一定数の株式を一定期間持っている必要があります。また別の目的として、株主優待を実施することを公表することで自社の知名度を上げたり、株価を上げようとする企業も存在します。


企業が株主優待を実施することは義務ではありません。そのため突然株主優待が廃止になるといった事態も十分に考えられます。特に最近では株主優待の対象外である海外投資家が増えたことで、不公平感をなくすために株主優待を廃止し、その分の費用を配当金に回すという企業も多く出てきました。


また企業が公表している株主優待の場合は廃止の際に案内がありますが、公表されていない株主優待については何も案内が無いまま突然終わったり、また復活したりします。



〇株主優待で気を付けること


1. 権利付き最終日


地味ですがめちゃくちゃ大切な内容です!絶対に覚えておいてください!


権利付き最終日とは、株主として配当金や株主優待などの権利を得るための確定日のことです。この日に株式を持っていないと、たとえそれまで長期にわたって株式を保有していても株主優待はもらえません!


権利付き最終日は基本的には月末の2営業日前になりますが、カレンダーによっていつになるかは異なりますのでネット証券などのサイトから確認することをおすすめします。


例えば日本では多くの企業が当てはまる3月決算の企業の場合、2025年のカレンダーで見た権利確定日は3月27日(木)になります。これは月末の3月31日が月曜日なので、そこから2営業日前として土日祝日を除いて算出した結果です。3月決算の企業の場合はこの日に株式を持っていないと配当金も株主優待も貰えません。くれぐれもご注意ください。


2. 対象となる保有株数


株主優待を得るためには一定数の株式を保有している必要があります。


例えば重電メーカーである[6504]富士電機の場合は全株主向けに自社オリジナルカレンダーを配布しているので1株の保有でも対象になります。


一方衛生品メーカーの[4912]ライオンの場合、1単元(100株)を保有している株主を対象に自社製品を送付しています。


さらにディズニーランドを運営している[4661]オリエンタルランドでは、保有株数に応じて株主優待の内容が変わってきます。500株保有の場合は1デーパスポートが3月に1枚、2,000株保有の場合は3月と9月に1枚ずつ、最大では12,000株保有の場合で、3月と9月に6枚ずつの1デーパスポートがもらえます。オリエンタルランドの株価は安い時でも3,000円台なので、1デーパスポートを株主優待で1枚でも貰おうとすると3,000円×500株=150万円以上の資金が必要になります。夢の国の株主優待は甘くないのです。


3. 対象となる保有年月


一部の企業においては株主優待の条件に株数だけでなく保有年月も入ってきます。

具体的には製紙メーカー最大手の[3861]王子ホールディングスの場合、1,000株以上を6か月以上継続保有していることが株主優待である自社製品を貰うための条件になってきます。


またビール大手の[2503]キリンホールディングスの場合、100株以上を1年以上保有することで500円相当の自社製品等がもらえます。キリンホールディングスの場合はさらに3年以上継続保有することで、100株保有者の場合は2,000円相当の自社製品等にグレードアップします。上で述べたように、企業は個人投資家に自社の株式を長期保有してもらいたいので、最近はこのように一定期間保有している株主を対象とした優待も増えてきています。


ちなみに[4661]オリエンタルランド(ディズニーランド)の場合、100株を3年以上(3月・9月の株主名簿に連続7回以上記載)保有した場合に9月のみ1デーパスポートを1枚貰うことができます。株を大量に買うお金がなければ時間をかけてくれという夢の国からのメッセージでした。



〇株主優待の内容はどこで見られる?


ところで株主優待の内容の情報はどういったところから取ったら良いのでしょうか。


代表的なものは以下の4つです。特に「ネット証券の銘柄画面」と「企業のホームページ」「投資関係のサイトやブログ」では基本的に無料で見られるので、そこで見るのがおすすめです。また「投資関係のサイトやブログ」「会社四季報」や「株主優待関係の雑誌」ではいろいろな企業の株主優待を網羅的に見ることができます。


1.     ネット証券の銘柄画面


SBI証券や楽天証券をはじめとするネット証券の画面で優待内容を知りたい銘柄名を検索すると、銘柄のタブの中に「株主優待」などの表記があり、そこに必要株数や必要保有期間などの情報が書いてあります。


2.     企業のホームページ


企業サイトのIR情報もしくは株式情報などのページに株主優待に関する情報が書かれています。もし見当たらない場合はgoogleなどで「[企業名] 株主優待」で検索すると出てくる場合があります。例えば「東京メトロ 株主優待」みたいな感じですね。


3.     投資関係のサイトやブログ


「みんかぶ」のような投資関係のサイトや「かすみちゃんの株主優待日記」をはじめとする株式関係のブログなどでも株主優待を扱っています。

またX(旧twitter)でも株主優待の時期になると、「○○社から株主優待を貰った~」といったツイートがよく出てきます。ブログでは株主優待の条件を書いたものは少ない代わりに具体的な優待内容を書いているものが多々あるので情報を補強するものとしておすすめです。

株主優待に関しては一部ですが私が運営しているブログでも取り扱っております。


4.     会社四季報


四半期ごとに東洋経済が出している「会社四季報」という分厚い書籍にも、後ろの方に上場企業で公表されている株主優待の情報が載っています。ただし本来は投資関連の企業情報をメインに取り扱っているもので、お値段も2,000円近くするので株主優待情報だけのために購入するのはもったいない気がします。


5.     株主優待関係の雑誌


日経ムックの「株主優待ハンドブック」やZAIなどの投資関連情報誌の特集で株主優待の内容を知ることができます。おすすめの優待などの情報もありますので、株主優待に興味がある場合は書店で覗いてみるのも良いかもしれません。


株主優待を行っている企業は非常に多くあるため、ある程度当たりをつけて探してみると良いでしょう。

例えばビールが欲しいのならビールを作っている[2503]キリンホールディングスや[2501]サッポロホールディングス、ティッシュペーパーが欲しければ[3861]王子ホールディングスや[3880]大王製紙、カラオケによく行くなら[2404]鉄人化ホールディングス(カラオケの鉄人)といった感じです。


あるいは普段使っているお店で考えるのも手段です。牛丼が無料で食べたいなら[9861]吉野家ホールディングス(吉野家)や[7550]ゼンショーホールディングス(すき家)、マクドナルドによく行くなら[2702]日本マクドナルドホールディングスなんてどうでしょうか。


また上で紹介した「みんかぶ」というサイトを使うと、人気の株主優待や具体的な優待内容に応じた銘柄を見ることができます。我々が普段馴染みのないB to B(Business to Business:企業間同士の取引のこと)の企業が行っている優待の中にも良いものがありますので、一度ご覧になってはいかがでしょうか。



〇NISAで株主優待を狙ってはいけない!


投資家の中にはNISA口座を使って株主優待株を購入する方も多くいます。


本人としては長期保有を前提とした株式保有だから、長期投資を前提としているNISA口座に入れるのが良いと考えているのかもしれません。


しかしその銘柄が4%以上の高配当利回り銘柄でもない限りは、NISA口座を使って株主優待株を保有することはお勧めいたしかねます。その理由はNISA口座が非課税口座であるからで、株主優待にはそもそも税金がかからないからです。


NISAのメリットというのは「税金がかからないこと」それに尽きます。そのためできれば税金がかかる取引、例えば高配当株などにNISA枠を充てた方が効率的なのです。

株主優待の中にはQUOカードをくれる会社も多くありますが、500円のQUOカードを貰っても「税金払え」とは言われません。

対して500円の配当金を貰うと、20.315%の税金がかかり、手元には400円も残りません。そのため株主優待狙いの株にNISA枠を使うのはもったいないのです。

〇株主優待株は損か得か


株主優待を目的とした投資は、そもそも得と言えるのでしょうか。例えば100万円を使って2千円分の優待を貰うより、3千円分の配当金を貰って優待と同じものを買った方が自由にものを選べて得なのではないでしょうか。


<株主優待のメリット>


1.貰うと嬉しい


「我、株主ぞ!」。労働者の立場だと働かされるだけだった企業から、資本家になった瞬間、三つ指ついて「お納めください」なんて優待されたらそれだけで偉くなった気分。あと単に贈り物をもらって嬉しいです。

2.家族とのコミュニケーションの機会が得られる


株主優待の中には商品カタログが送られてくるものや、複数の優待品から選べるものがあります。

私はビール大手の「キリンホールディングス」の株を持っていますが、同社は株主優待として、ビールのセットを含む複数の選択肢を用意してくれています。それを両親に見せることで、「今年は何を貰う?」なんて会話の種になっています。

例えば年頃の娘さんをお持ちのお父さんの場合、「日本マクドナルドホールディングス」の株主優待で商品のタダ券を貰い、娘さんに「これ、使わないからあげるよ。友達と行ってきな。」とか言って渡せば、娘さんと会話するきっかけになる訳です。

なお、間違えて吉野家のタダ券でも渡そうものなら父の威厳は地に落ちることが予想されますのでご注意ください。吉野家で若い女性って見たことない。

3.企業によっては株主様限定品が貰える


一部の企業は株主様向けに、一般には販売していない限定品を優待として配布しています。

具体的にはおもちゃ大手の[7867]タカラトミーは非売品のトミカやリカちゃん人形をくれます。

また建設機械大手の[6301]小松製作所は自社重機のオリジナルミニチュアがもらえます。
  
信用金庫の中央銀行でもある[8421]信金中央金庫もオリジナルグッズをくれるようです。

こうしたものは株主にならないと手に入らないものなので、株主優待を得る大きな動機になると思います。誰だ、ヤフオクで買えばいいとか言ったやつ?

※「信金中央金庫」は他社が100株で1単元なのに対し、1株で1単元です。


4.税金対策になる


ここから生々しい話に入ります。配当金には税金が掛かりますが、株主優待には税金は掛かりません。

なので例えば大手化学専門商社の[8098]稲畑産業など、QUOカード500円分を優待としてくれる会社がある場合、QUOカードには税金がかからないのでそのまま500円の価値のあるものになります。

一方配当金で500円を受け取った場合、税金が掛かって400円以下しか貰えません。この点で、株主優待の方が得をするケースがあるのです。


5.利回りが破格になる株がある


株主優待銘柄の利回りを計算する場合、「配当金+優待品の価格」で計算します。そうすると、たまに10%を超えるような利回りを叩き出す銘柄が出てきます。

具体的にはネット証券等大手金融グループ[8473]SBIホールディングス。株価2,729円に対し、配当金150円。これだけで利回り5.5%の高配当株ですが、株主優待として14,520円相当のサプリメント等自社商品もしくは2,000円相当の暗号通貨をくれます。

前者の場合、配当金と合わせて利回り10.8%、後者の場合、利回り6.2%となります。後者はともかく前者は結構破格です。


あるいは[9432]NTT(日本電信電話)」。株価約186円(2024年1月15日現在)ですが、5年以上継続保有で4,500円分のdポイントをくれます。配当金が5円なので、利回りは26.8%です。


また大手化学繊維メーカー[3405]クラレの場合、1株持っているだけで株主優待をくれます。1株1,066円で、オリジナルカレンダーが届きます。カレンダーの金額を1,000円とすれば、利回りは100%近くになります。2年目以降もくれるのでぼろ儲けです。



<株主優待のデメリット>


1.基本的に利回りが悪い


良い点の5.と矛盾するようですが、実際に破格の利回りを実現しているところなんてほんの一握りで、大体の株主優待銘柄は利回りが悪く、高配当株を持っていた方が得なんてのがザラです。


例えば優待券では有名な「日本マクドナルドHD」。株価4,970円で配当金は39円、株主優待はお食事券6枚で高いやつを頼んで1枚約800円、6枚で4,800円です。これを利回り換算すると、1.7%。


あるいは醤油大手の[2801]キッコーマン。株価8,580円で配当金61円、株主優待は1,000円相当の自社商品詰め合わせなので、利回り換算で0.82%となります。


私の持っている「キリンホールディングス」も、株価2,250円で配当金65円。株主優待は1,000円相当の自社商品。利回り換算で3.3%です。


最初にお断りした通り、ここで出している株価は2024年1月時点のように値上がりする前の数値です。


記事で使用している株価の時点では[2914]JT利回り6.35%、[1808]長谷工コーポレーション」5.04%、[8316]三井住友フィナンシャルグループ」5.25%と、5%以上の高利回り株が多く存在しています。税金があるとはいえ株主優待銘柄よりも、多くの現金が貰える銘柄が多いのです。


2.何が貰えるか分からない場合がある


これは福袋的な意味ではメリットになりうるのか……。いらないものを株主優待で貰ってもどうするよって話です。

例えば[6071]IBJ。結婚相談所等を経営している企業で、優待は結婚相談所入会料割引券と自社運営マッチングアプリ年会費半額券(当時)でした。婚活していない人にはちっとも嬉しくない優待ですね。

私は婚活中なので、半額券をヤフオクで100円で買いました。


ここまで極端でないにしても、自社商品詰め合わせの中にはいらないものもあるでしょう。処分に困ります。


ただヤフオクで売れるということを考えるとメリットなのかも?


3.使いどころが限られている株主優待が多い


自社製品を送ってくれる株主優待はいいのですが、自社サービスを提供してくれる株主優待は、店舗数が少ないことや店舗が近くにないことで、使い勝手が悪く、結局使わない…なんてことも多々あります。


例えば[9633]東京テアトル。映画のタダ券をくれるのですが、それが利用できる映画館が都内に5件しかありません。


あるいは[9020]東日本旅客鉄道(JR東日本)」。乗車割引券は使い道があって大変助かりますが、その他の優待券は個人的に中々使いどころがありませんでした。


[7638]NEW ART HOLDINGSも、軽井沢の美術館無料券はちょっと使う機会に乏しいでしょう。但し、ここの優待の一つであるジュエリーショップでの買い物割引については、店舗数が多いため使いやすいかと思います。


私もここの株を将来に備えて持っています。婚約指輪を優待で値切る次第。


優待自体は魅力的に見えても、本当に自分が使えるのかをよく確認してから株式を購入することをお勧めします。


4.優待廃止になる可能性がある


株主優待は海外に居る投資家は貰えません。日本株には海外投資家も多く投資をしているので、これは不公平だという意見が出ており、株主優待を廃止して、その分配当金を増やすといった施策を取る会社が増えてきています。JT、[8591]オリックス、[8306]三菱UFJフィナンシャル・グループなんかがそうです。

「オリックス」なんて、優待が良かったので保有していた人も多かったようで、優待廃止の発表時にはYahoo!の話題ワードに出てきたほどです。


また[9252]ラストワンマイルという会社が2023年から1株(3,500円程度)でAmazonギフト券1,000円分という株主優待をしていましたが、わずか1年後の2024年に「株主優待で知名度が十分に上がったから」という理由で廃止になりました。X(旧twitter)では「ふざけるな!」の声も多々ありました。私もその一人です。


配当金も業績によっては無くなる可能性がありますが、株主優待が個々の企業が行っているサービスの意味合いが強いのに対し、配当金は株主の権利の側面が強いことから、「今後配当金を一切出しません」なんてのはまず起こりえません。


株主優待には心理的なメリットも多々ありますが、「お得か?」と問われると必ずしもそうは言えないところがあります。心の満足や家族とのコミュニケーションはお金には代えられないものだと思いますので、株主優待を否定する気はありません。心の満足を取るか、実利を取るか、選択肢はありますから選択することも個別株の楽しみだと思ってください。


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このマガジンは資産運用・投資を全くやったことがない初心者を対象にしています。そもそも資産運用が必要なのかから始まり、資産運用の方法、証券会社の選択方法、そして資産運用に必要となる少数の基本的な用語などをまとめております。 市販の資産運用入門本では書いていないような基本的な内容から、あまり書かれることのない各証券会社の特徴、投資信託を購入した場合の資産の増加具合をシミュレーションした記事なども記載していますので、初心者はもちろんのこと、投資中級者にもお楽しみいただけると思います。

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