孫の話「困難を乗り越え夢を追う」宗浩(孫)
祖母の回顧録のタイトルを『咬牙築夢錄(訳注:歯を食いしばって夢を築いた記録)』にしてはどうかと提案したことがあります。
祖母の記憶の中で、戦後復興前の混乱の時代に故郷を離れ、祖父との生活をゼロからスタートさせともに歯を食いしばりながら幾つもの試練に立ち向かったこと。物質的に苦しい生活の中でも高貴な精神で生活を築き上げ、隣人と仲良くし、自分が正直で誠実であったことは、私たち孫に何ものにも代え難いお手本を示してくれたからです。
回顧録では祖父母の強さや慈愛の精神に触れたことで、人の心の美しさや善良さは外部からの圧力で奪うことはできないのだと理解することができました。
寡黙な祖父を思い出し、言語化されないいくばくかの感情も、それもまた「咬牙築夢」の過程だったように思います。祖父とおしゃべりしていた時、台湾から中国大陸への里帰りが認められた(※)ことについて「おじいちゃんは嬉しい?」と尋ねたことがありました。祖父は「嬉しい? 何も嬉しくないよ。両親がもういないのに、何が嬉しいことがあるものか」と答えました。その短い言葉を思い出す度、涙を堪えられなくなります。
祖父母が経験した数々の雨風を数十年後の私たちが理解するのは、どれほど難しいことでしょう。「少小離家老大回,鄉音無改鬢毛催(訳注:故郷を離れた少年が老人になってから戻った時には、故郷の言葉は変わっていないのに自らの髪は薄くなっている)」という言葉でも表現しきれません。
祖母の回顧録は人生の信念とパワーを継承し、私たちに別の時空へ挑戦する愛や勇気を与える宝物であると思います。順調な時にはそれを惜しみ感謝し、逆光にあっては歯を食いしばって夢を築こうと思います。祖父母のように。
孫・宗浩
民国101年の春、指南山にて
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