台湾のフードデザイナーが提案する、台湾伝統工藝「い草編み」のテーブルウェア
「Yaeko、このイベント行かない?」おしゃれで知的な敏腕台湾人エディターEricくんが誘ってくれたのは、台湾のフードデザイナーが、台湾伝統工藝「い草編み」をうつわやカトラリーに活かす提案の発表会。
日本とはまた違う、台湾の伝統工藝「い草編み」
い草といえば、日本では畳表の原料として有名ですよね。あの香りがたまらなく好きで、私も東京で一人暮らししていた頃にはい草のラグを買ってみたりしていました。そして、日本一のい草の産地がなんと父の出身地である熊本(畳表の生産量は国産の約9割)ということで、ますます身近に感じてしまいます。
日本では畳表に使われることが多いい草ですが、台湾ではちょっと違うんです。台湾にも自宅などに和室を作る際、畳を使う習慣はありますが、それはあくまで日本式のもの。台湾式だと帽子やござ、生活雑貨などの日用品に使われています。
台湾にもい草の産地はいくつかありますが、台湾を代表するい草の産地として300年近く栄えた苗栗では、海外の安価な生産地に取って代わられ、衰退しつつある伝統産業を守ろうと、2009年に「台湾藺草学会」が結成され、ブランド「臺灣手藺 Tshioh Rushcraft」の運営、い草編みの教科書の発行や各種展示会の開催など、精力的に活動されています。
台湾のフードデザイナーによる「い草編み」テーブルウェアの提案を、台中のレストランでお披露目
そんな台湾藺草学会が、台湾で初めてのフードデザイン書籍『食物設計』の共同著者としても知られるフードデザイナーの黃若潔(Jochieh Huang)さん、2023年度『台湾ミシュランガイド』に入選し、グリーンレストランとしても知られる台中のレストラン「TU PANG 地坊餐廳」のシェフ張皓福さんとコラボレーション。
そのお披露目会「藺 食筵Rush Rush Diner」が行われたのでした。
台湾は本当にこの「跨領域(Cross-domain)」が非常に上手ですよね。そして、こうした動きを支持するベテランの存在も鍵を握っていると思います。
い草編みのBell Jar(ベル・ジャー)
なんとも可愛らしい形をした、い草編みのベル・ジャー。かなり細かく編み込まれているので、お料理の香りを逃さない効果があるそうです。小さな穴が1箇所だけ空いているので、そこから水蒸気を逃し、お料理の食感を損なわないようになっているところはさすがでした。
い草編みのカバーが掛けられた酒・茶杯
このぐい呑み(と表現していいのか?)の説明をしてくださったフードデザイナーのJochiehさんは、「伝統工藝はテクノロジーと掛け合わせても良いはず」と話されていました。「100%伝統工藝だけで作るんだ、というこだわりを貫く職人精神も素晴らしいけれど、それだけでは突破できない領域がある」と。
このぐい呑みの持ち手部分にはい草編みのカバーが掛けられていますが、3Dプリンタでそのカバーを繋ぐボタンのようなパーツを作っています。それにより、異なるレストランごとのニーズに少ロットでも対応できるのだそう。
い草編み模様を型押しした、メインディッシュプレート
台湾の伝統的ない草編みには、独特のモチーフがいくつかあります。それは主に農業の豊作を祈るものだったりしますが、Jochiehさんはその模様を3Dプリンタで出力し、型押ししてメインディッシュプレートを創作。
「日本のラーメンは、食べ終わるとお椀の底に『ありがとう』と書いてあったりするでしょう? そんな感じです」とユーモアたっぷりに笑うJochiehさん。
張皓福シェフのアイディアも素晴らしく、「せっかくの美しい網目模様を活かしたくて、濃い色のソースをかけるのは半分だけにしました」とのこと。い草で燻製させた鴨肉の隣に置いてあるのは、い草同様、茎の中が空洞になっている空芯菜。そしてその空芯菜を、さらにい草で縛るという素敵な心遣いを見せてくれました。
”い草編みのテーブルウェア”
香り、味覚、そして食卓の会話…さまざまな五感を刺激するい草編みのテーブルウェアは、伝統工藝の発展という意味でも、サステナブルという観点でも、レストランやバーなどに、広く支持されていって欲しいと思いました。
関連リンク
フードデザイナーの黃若潔(Jochieh Huang)さん
台中のグリーンレストラン「TU PANG 地坊餐廳」
私をイベントに誘ってくれたエディターEricくんの事務所「Studio Weng 翁氏工作室」(アートや文学、カルチャー系の執筆やPRがお得意)