大石圭「裏アカ」
大石圭「裏アカ」(徳間文庫)。栃木県から青雲の志を持って、アパレル業界に飛び込んだ伊藤真知子。大手アパレル企業から、新興チェーン「アストランティア」に引き抜かれ、バイヤーに抜擢された。しかし挑戦的な企画は、大量の不良在庫を残し、バイヤーから下ろされる。不貞腐れた真知子は、twitterに顔を隠した自らのヌードをMARCHの名で匿名投稿し、膨大な「いいね」に自らの存在意義を確かめる。彼女の肢体に興奮したフォロワーから、逢瀬を求められる。そのうちの1人「ゆーと」と会って、その日のうちに性行為に至り、真知子の方が夢中になる。しかしあっさりと捨てられた真知子は、その後から狂ったようにフォロワーの男たちに夜毎抱かれる。そんな中で、後任のバイヤーが結果を出せず、再び真知子に脚光が当たり始める。新しいブランドを百貨店と立ち上げるプロジェクトの中、真知子は先方に思わぬ人物を見つける。
この作品は映画公開が予定されている「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」のノベライズである。著者は数多くの著作を刊行し、ノベライズも手がけている。徳間文庫では、女性のプライドや心理を描いたエロチック・サスペンス作家と呼ばれている。人生の絶頂から転げ落ちた美しく才能のある女性が、希望を失った時に行った代償行為。それが自らの裸身を晒してまで得た、歪んだ称賛の嵐。タイトルの「裏アカ」は、表のアカウントとは別途に用意された架空のアカウント=裏アカウントである。再び人生の機運に乗った彼女だが、エンディング手前に大団円が待ち構えている。次々と襲ってくる人生の逆境苦境に、のたうちまわる真知子。その姿を、真知子自身はみっともないと感じているかもしれない。しかし汚辱屈辱に塗れながら、這ってでも進もうとする彼女の姿を応援したくなるのは、私だけではないだろう。
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