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鏑木蓮「残心」

江戸川乱歩賞作家である鏑木蓮「残心」徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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 地元情報誌の記者・国吉冬美は、心酔するルポライターの杉作舜一が京都にきていることを知り心躍らせる。杉作は老老介護をテーマにしており、寝たきりで認知症を患う妻を介護する夫の取材に赴く。しかし妻は絞殺され、夫は首を吊って死んでいた。夫婦の死には何らかのメッセージが込められている、と杉作は調査を開始。そんな杉作のルポを手伝うことになった冬美。無理心中と誰もが思った顛末に、冬美は小さな矛盾を感じて追及してゆくうちに、心の中に大きな疑惑が育っていった。
 正義派のルポライター杉作舜一、誰もに尊敬される終末医の三雲彰。そんな華々しい活躍をしている立場の人々にも、何かの行き過ぎや深い苦悩がある。尊敬する男たちに憧憬する女性たちの、理想が崩れる苦悩が行間に浮き彫りにされる。ヒロインである冬美は、カメラアイという画像記憶能力を持ち、性善説の人生観を持つ元漫画家。そんな彼女が大人の世界の苦さを味わいながら、絵の描けるルポライターとして成長してゆく姿。そんな彼女の周りには、性善説人間だからこその、看護師の津川夏恵、同僚の三上葵など有能かつ友だち思いの女性の友人たちがいる。老老介護や終末医療という、人生百年時代の反動という重いテーマを下敷きにした、緊迫したミステリーであり、人間ドラマであり、ビルディングロマンスである。

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