八木書店の力と新たな役割
7年前に「大相撲錦絵」を刊行した。相撲博物館所蔵の相撲錦絵を高解像度にデジタルアーカイブして、その中から時代を代表する錦絵を、相撲博物館の学芸員の解説で一冊ものの豪華画集とした。銀座蔦屋書店のオリジナル商品として刊行した。インバウンドを意識したので、解説には英訳も付けた。値段を下げるため、徳間書店でも在庫を持って販売することになった。内容はともかく、なにしろ本体価格185千円の豪華本だったので、売るのに苦労した。個人で買って下さる人は稀だった。毎日のように古書店や骨董屋を回って販促した。しかし本物の錦絵(浮世絵)ではなく、画集だったので反応は鈍かった。そんな中で光明が見えたのが、大学図書館ルートだった。先ずは鶴見の西田書店が鶴見大学に売ってくれた。その次に道が見えたのが、八木書店であった。八木社長に相談したところ、販売を引き受けて下さった。販売結果を見て驚いた。日本の大学図書館だけでなく、欧米の大学図書館や博物館で実績が挙がっていた。その結果、徳間書店の在庫は今年になって完売した。根気強く長く売り続けてくれた八木書店のおかげだった。復刊ドットコムが、出版社として初めて刊行した本はデュマ「ダルタニャン物語(全11巻)だった。「三銃士」「鉄仮面」を含む物語全巻である。昔の本だったので、差別用語が多く、名作にも関わらず講談社が絶版にしていた。リクエストが多かったので、差別用語を添削した新編集で復刊した。当時はこれしか売る本がなかったので、コツコツと売って完売して重版に至った。あれもこれも出して売るという商売ももちろんあるが、一つの商品を大切に売るということがいかに大事かということが、復刊ドットコムでの「ダルタニャン物語」と、八木書店での「大相撲錦絵」販売に共通していた。
「大相撲錦絵」はこちら↓
https://store.tsite.jp/item-detail/humanities/12681.html
最後の販売報告書を受け取りに、お礼方々、八木書店にお伺いした。そこで販売担当部長と業界四方山話で大いに盛り上がった。ここで話題になったのは独立系書店の増加。チェーン店ではない個人書店や棚貸し書店が、昨今は林立している。八木書店は古書の販売、出版社事業に加えて、取次業も運営している。独立系書店の店主たちが八木書店に続々とやって来る。その数は年間100軒くらいに達するそうだ。そもそも個人出版社や個人書店の受け皿となっていたのはトランスビュー社だった。トランスビュー社の物的流通を補完するために、広告会社「とうこう・あい」が、書店・出版社間の受発注システム「BOOK CELLAR」を開発した。そこに2年前から八木書店が、続いてJRCも参加した。その結果、現在では独立系書店が480軒+共有書店マスターを持たない書店800軒+大手取次に番線と書店コードを持たない書店1,000軒+大手チェーン書店200軒=延1,000軒の加盟に達した。一方で出版社は600社が参加している。直販路線出版社だったミシマ社も「一冊!取引所」を、他の出版社や書店に開放している。
「BOOK CELLAR」はこちら↓
https://www.bookcellar.jp
出版業界は明らかに変貌している。これまでの商業出版の世界から、限りなくボランティアの世界に近い独立系書店と出版社の動き。今や取次は、儲けるためというより、公的奉仕な存在なのであるから。だからこそ赤字が出ても続けてくれている。その欠損を減らすためにも、「BOOK CELLAR」を出版社や書店は、是非とも利用して頂きたい。新しい波には、新しい器が必要。
永江朗氏のエコノミスト寄稿↓
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230606/se1/00m/020/015000c
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