電子書籍流通の現場
自分は某出版社で電子書籍の仕事を担当している。大きく分けて1️⃣書籍2️⃣復刻漫画3️⃣雑誌。その流通を見てみると、紙の本とは全く違って興味深い。企業秘密になると思うので数字は出せないが、傾向を語ってみたい。紙と電子書籍の最大の違いは値引。出版業界はリアル書店保護のために再販売価格維持制度を保っているが、むしろ自らの足を引っ張っているように見える。なぜならセールに値引きは必須である。値引きは読者需要向上の最大のモチベーションだから。また販売というか読み方の提案もサブスク型が主流となってきているので、電子書籍は需要の多様化も促している。新刊の商品力次第の紙の本より、電子書籍の方が売り方が戦略的に感じる。自分も取次時代に電子書籍の会社に出資して育成する立場に立ったことがあるが、今のメディアドゥやMBJなどの隆盛を見るにつけ『当時の取次は辛抱が足りなかったな』と斬鬼の念に絶えない。泣かず飛ばずだった電子書籍の繁栄は5年先にあったのだ。
1️⃣書籍。販路としては圧倒的にAmazon=Kindleが強い。出版社によって待遇が違うが、超大手出版社は直取引の場合と、それ以外は電子取次経由の場合がある。読まれ方もふつうに購入がメインだが、日替わりセールなどプッシュ型の販売で販促強化する。Kindle Unlimitedという期間読み放題もあって、通常販売と売れ線が全く違っていたりする。傾向としては徳間書店では文芸書よりもビジネス書系が強い印象。Kindle以外では大日本印刷グループのhonto 、楽天ブックス、ここのところメキメキと力をつけてきたDMMなどが続く。このジャンルは、まだまだ紙の本の方が電子書籍より強く、おそらく紙と電子書籍は10倍くらいの差がある。
2️⃣漫画の世界は、書籍とはプレイヤーが全く変わる。そして電子書籍界の稼ぎ頭で、紙の本を上回る。最も破壊力があるのは、NTTソルマーレの「コミックシーモア」でNTT西日本系の会社。Kindleはもちろん売れるが、それ以外にLINEマンガ、まんが王国、パピレス、BOOK LIVE(凸版印刷系)などの有力書店が続く。徳間書店特有の傾向かもしれないが、BL=Boys Loveの売れ行きがすごい。今の会社には強力なBLブランドがあり、コミックと文庫が電子書籍化されているが、徳間書店の利益を大きく支えるほどの貢献をしている。買われ方も独特で「バースデーセール」という作家の誕生月に値引フェアをするので、そこまで読者は購入を待っている。だからフェアによる既刊の売上比率がとても高い。
3️⃣雑誌の世界もプレイヤーが全く違う。ここでの主役はdマガジン。docomoが運営している雑誌の電子書店。私は入稿と売上集計をしているが、ものすごくよくできたシステム。操作していて、出来の良さに感嘆する。以前はdocomo加入者=dマガジン登録だったが、公正取引委員会指導で選択制になったので、以前ほどの勢いはなくなった。それでも雑誌編集部が紙媒体より電子版を優先するほど、出版社各社の利益に貢献している。続いてmagaport。こちらは富士山マガジンサービスと電通の合弁会社。dマガジンほどではないが、こちらもそれなりに完成したシステム。その他に楽天マガジンなどが続く。こちらも単純な販売だけでなく、だいたい3ヶ月間くらいで期間読み放題(やっている雑誌とそうでない雑誌がある)などのサービスが提供されている。