矢月秀作「紅い塔」
矢月秀作「紅い塔」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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自ら望んだわけでもないのに、日本政府と財界が裏から公認した殺し屋組織「レッドホーク」の頭首となった工藤雅彦。平素は大分県の漁村で、同じ稼業だった妻の亜香里と共に水産加工に勤しんでいる。そんな亜香里のお腹に子供が宿った。しかしそこで本丸からお呼びがかかる。工藤が首領であることに異を唱えるグループの声が高まってきたとのこと。それを鎮めるために富山県山奥にあるトレーニングセンターの最上階から1階まで、全7グループの各5人ユニットを倒して脱出することで、工藤の実力を知らしめるとのこと。殺し合いもありな馬鹿げたゲームだが、亜香里と子供を守るために工藤は申し出を受ける。
素手で闘う小松崎グループ、ナイフを得意とする藤田グループなどの殺し屋グループたち。いずれも高い戦闘意欲と専門的技術を持っている。グループの中での結束も強い。工藤とグループ戦士たちの闘いは血飛沫をあげる華麗なる舞踏会。そう映画「マトリックス」を観ている気分だ。それだけではない。長老格の相談役会との駆け引きも必要だ。人が3人以上集まれば、組織ができて、必ず勢力争いが起きる。個性が強いカードが集まっているだけに、組織をどうまとめてゆくか、工藤の手腕が問われる。圧倒的な実力を見せつけるか、飴と鞭をどう使い分けるか、敵味方をどうやって見分けるか、膿を出すにはどうすればいいか。この小説はハードバイオレンスでありながら、組織マネジメントのビジネス書だ。読んだ後で溜息をつきたくなるような意外なエンディングに虚をつかれる。