「助ける人ではなく助かる街」 やどかりハウス 街の人インタビューvol.1 上田映劇 原悟さん
街に(助かる場)が開かれる意味
犀の角から徒歩5分。やどかりハウスの宿泊者もたびたび利用している上田映劇。いつのまにかやどかりハウスの人たちと接点が多くなっていた映劇のスタッフ原悟さんにインタビューしました。そこには「街」の可能性や助かる文化作りへのヒントがありました。
話し手:上田映劇 原悟さん
聞き手:元島生
現実が目の前に現れた
Hさんがやどかりハウス利用者だと知ったのは、知り合った後でした。自分は若いお客さんを大事にしたい想いがあり、普段から若いお客さんには極力話かけるようにしています。Hさんもよく見かける子で、話しかけたら映画がとても好きなことが伝わってきて、それでよく話しをするようになりました。ふと寄ってくれて「最近のおすすめありますか?」と声をかけてくれるようになりました。そんな関係性ができてくる中で、実は複雑な事情がありやどかりハウスに滞在しているということを知りました。
やどかりハウスのことは知ってはいたし、いいことをやっているのだろうなーということは何となくあったけど、実際にそこを使っている人と接することで、どれだけ重要な場なのかが実感として感じられました。「そこがあってほんとによかったね~」と心から思いました。
これまでは困窮している人がいるとか、緊急の逃げる場を必要としている人がいるというのは東京など都市の話であり映画の中の話という感覚がありました。それが突如目の前に現れた。彼女と知り合う中で、実感としてやどかりハウスの重要性を体験させてもらい、それが場作りネットとのイベントにつながりました。
アンテナができた
やどかりハウスの重要さを自分なりに理解する中で、映画館にできることは何かを考えるようになりました。映画館が社会を変えるためにできることは、SOSを出せる場が身近にあるということや助けてくれる人がいる事を、情報として多くの人に知ってもらうことなではないかと思いました。知っているか知っていないかで全く違うだろうなと。「私はダニエルブレイク」はまさにそうしたテーマだし、この映画に合わせて、やどかリハウスなどの情報を出来るだけ広く知ってもらうイベントができないかと元島さんに声をかけたという流れでした。
これまでは人にやどかりハウスを紹介しようという発想にはならなかったと思いますし、そもそも困っている子に対するアンテナが動かなかったと思います。身近に居ると思っていないから。今後はきっと紹介すると思いますし、そういう子に対してアンテナが働くと思うし、自分にも何かできることがあるかもしれないと考えると思います。
街がきっかけで出会う
Aさんとの出会いも面白かったですね。たまたま映劇でメロディグリーン(タバコ、レコード、古着の店)が話題に上がっていた時にAさんが居て、話しに入ってきて。話しているうちにAさんがメロディグリーンの店主に犀の角を紹介されてやどかりハウスに繋がったということも知りました。でもそれ以上にサブカルの話で盛り上がって(笑)
音楽や映画や本などの僕の話が面白かったみたいで、興奮して自分の好きなものも語ってくれました。それからたびたび顔を出してくれるようになり、ずいぶん長いこと話したこともありました。
共感できることがある
自分も実は大学時代に全部ダメになったことがあって、不登校みたいな状態でした。それまでは野球さえやっていれば市民権があるようなことだったけど、いざ大学に出てみたら何をやればいいのか全く分からなくなって、何もやれなくなった。でも街で出会う人達に面白い世界を教えてもらって、だんだんそれが自分の世界になっていった。Aさんもとても辛いものを抱えながら生きていることは伝わってくるし、くそみたいな世の中だけどこの音楽があることで救われる、みたいな気持ちはとても共感できる。自分もそうやって救われていくうちに、気がついたら映画の仕事についていたので。あと家族のことで自分も悩んだ経験があるので、そこも実感として分かる部分がある。映画の中でも世界的に家族のことは描かれることが多くなっていて大きなテーマになっている。やどかりハウスの人達と関わる中で自分もこのテーマについても考えさせられます。
街の可能性
やどかりハウスや映劇でやっている「うえだこどもシネマクラブ」(インタビューvol2参照)もそうだけど、街に話せる場が開かれていくのはとてもいいことだと思います。昨年元島さんにも出演してもらった「モロッコ、彼女たちの朝」のトークイベントの時に話にあった「支援する側、される側ではない出会い方が大切だ」という話も、実際にやどかりハウスの子たちと関わる中で実感としてよく分かるようになりました。
人は結局出会いが大切で、誰かにとって誰かの存在が重要になる。「この人に出会ったおかげで」という経験は誰しもあると思います。そういう出会いに人は救われていくし、人生を切り開いていくのだと思います。そしてその可能性が満ちている場所が「街」というものではないかと思います。
自分の経験からも思いますが、たぶん逃げ場を必要としている人とか困っている人は、やどかりハウスなど安心な逃げ場があって一旦落ち着ければ、あとは自分で考えるんだと思うんですよね。まだ怖いと感じているならそれは出ない方がいいということだろうし、外に出るべきタイミングはきっと自分で分かるんじゃないかなと。だからこそ、街の中に休めたり逃げたりできる場がちゃんとあるということは大切なことなんじゃないかと思います。支援対象者として囲うのではなく。同じ街に集う人間として出会って、関われる場が必要なんだろうと思います。
上田の街はコンパクトだしちょっと歩けば話せる場がたくさんあるし、逃げ込める場が実はたくさんある。そこにこれからの街の大きな可能性を感じています。
聞き手所感 「助ける人ではなく助かる街」
やどかりハウスは「街の中に助かる場を作る」という事を一番の目的として始めました。「支援者」と呼ばれる人が誰かを助けるのではなく、人々の生活の中にこそ「助かる場や文化」が醸成されるよう促すことこそが支援者の役割だろうと考えてきました。しかし、それも驕っていた考え方だと原さんの話を聴いて感じました。助け合いは自然と起こり、街の意義を理解している人達が、こうして日々豊かさを作っているのだと知りました。意味を付けすぎず、起こっていることを大切に掴んでいきたいと思いました。
また原さん自身が街の価値というものを「救われる出会いが起こる場」だと感じていること。そしてコロナをきっかけに、または困りごとを抱えた人達との出会いのなかでそれがちゃんと言葉になっていることに感銘を受けました。誰もが困窮したり災害にあったり生きることが難しくなる可能性のある世の中で、街というものの価値が再構築されていくのではないかと感じています。
NPO法人場作りネット 元島生
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?