見出し画像

「かかわりしろのある映画館へ」   インタビューを通しての対話①上田映劇長岡支配人、もぎりのやぎちゃん


2025年 1月 8日 (水)
話し手 もぎりのやぎちゃん、長岡俊平支配人             聴き手 池田志乃ぶさん、秋山紅葉


上田映劇との縁

上田映劇は、海野町商店街の一つ裏通りにある大正時代に建てられた今年で108歳になる映画館だ。
映画ファンをうならせる名作から、知る人ぞ知る小さな国の映画まで、NPO法人上田映劇のスタッフとボランティアや学生などが支えている、街の大事な文化財とも言っていい素晴らしい文化施設だ。

のきしたややどかりハウスに集う人たちもまた、心を休める場として上田映劇に通う。映画を観て内面を見つめ直したり、日常から離れて一時静かな時間を過ごしたり、時には映画を観なくてもスタッフと音楽やファッションの話をしに行ったり、昼寝をさせてもらったり。日々、かかわり合っている。

また、上田映劇では、2020年4月から「うえだ子どもシネマクラブ」という学校に行かない子どもたちが集う場を開いている。月に2度、無料で映画を観たり、フリースクールの若者たちがカフェを開いて対話をしたり、子どもたちの自由な居場所にもなっている。

昨年度に続き、今年度も〈のきした仕事事業〉で仕事を提供してくれた上田映劇の支配人の長岡俊平さんともぎりのやぎちゃんに、受け入れてみてどうだったか、そして、最近の映劇について考えていることを聴いてみた。

よく顔を合わせる二人だけれど、やどかりやのきした、そしてこの街をどう眺めているかの話は普段なかなかできないでいたので、おたがいに大事なことを確かめ合ういい時間になった。(秋山)

受け入れた経緯

昨年も同様の事業でトイレ掃除に数か月入ってもらった方がいて、とても助かった。今年は、映劇としてもかかわってくれる人を増やしたいなと思っていたタイミングだったのでやってもらう仕事について考えを巡らせた。

1つめは、映画のチラシのハンコ押し(いつから上映されるかのハンコを押す)。シネマクラブの子どもたちがやってくれることもあるけれど、ちょうどいいタイミングでハンコ押しを待つチラシが、うずたかく机に積まれていた。

2つめは、ハンコ押しのように誰かがやらなきゃいけないこと+α(プラスアルファ)、クリエイティブなことにもチャレンジしたいと思い、おすすめ映画について映劇スタッフにインタビューして、その内容をSNS(Instagramなど)に投稿する文章の作成を依頼した。

黙々と作業するハンコ押しとたくさんコミュニケーションをとるインタビューはまるで静と動。ハンコ押しに男性が二人、インタビューに女性が二人ずつ来たのは、偶然かもしれないけれどなんだか不思議だった。男性が来たのが意外に思えた。やどかりハウスからの紹介だから、女性が来ることをイメージしていたのだと思う。(やぎちゃん)


受け入れてみて

「(映劇に)来てくれる人はみんなお客さん」という考えがどうしてもあって、「お客さん」にかかわってもらう、手伝ってもらうということがなかなかできないでいる。
そういう意味では、お客さんとして出会うだけじゃないかかわりしろが生まれたように思う。受け入れる側としては、仕事をしてもらっているのに、自分たちで対価を払えないことのもどかしさがどうしてもある。自身の体験からも自分の力で生きていけるんだというのを掴むためにお金を稼ぐことはとても重要だったから。(やぎちゃん)

また、実際にインタビューを受けてみると、それは映画を観ていないインタビュアーにどう伝えたらその先の人にも伝わるのか言葉を探し考えながら話す作業だった。話しながら“伝えること”についての自分の課題も感じる機会になった。来てくれる人の中にはインタビューの経験がある人もない人もいるけれど、話を聴く前に映画の情報などを調べたり、聴きたいことを自分の中で深めてきてもらえるといいかもしれないと感じた。(長岡支配人)

今後の展開

マインドとしてはマネタイズしたい。言葉で言うとチープになるが、仕事をすることで自己肯定感、自己有用感を持つということはあるけれど、やはり仕事をしてもらう上では対価を払えるようになりたい。
そこに行きつくにはどうしたらを考えたい。ひとまず、今は資金がないけれど、のきした仕事事業が終わった後もつながりは継続していきたい。
3回トイレ掃除をしたら1回分の映画観賞券を引き換えるというようなインセンティブを映劇としても付けられたらと考えている。(やぎちゃん)

街の文化施設としての課題

今は、どれだけ自己開示できるかが課題。それには、錆びついた扉に油をさす必要がある。開示した先にかかわりしろがあるのだと思う。やどかりハウスがそうしたように。

一方で、かっこつけたいというのもある。文化施設だし、開かないでいる方がかっこよくなれる。誰の扉を開けられるか。変化に伴うストレスをのみこんででも変わらないといけないと思う

お客さんに不安を与えたくない、映劇のために映画を観に来るんじゃなくて、純粋に映画を好きで来てほしい。でも、NPO法人上田映劇は、劇場の“保存と活用”を謳っている。映画を観る場所として開くだけじゃなくて、劇場という建物を守っていく意識作りもまたわたしたちの仕事であり、そこへのかかわりしろも広げていきたい。きっと映画好きとはまた違う出会いもあるはず。(やぎちゃん)

おわりの雑談

話している中で、仕事をしに来る人の生きづらさの背景は特に何も伝えていなかったことに気づいたので、そのあたりはどうだったかを聞いてみた。

映劇だから信頼してくれてるのかなと思った。映劇もまた場作りネットのことを信頼していて、大丈夫そうな人を送り込んでいるのだろうと思っていた。そんな反応が返ってきた。

こういったわたしたち(映劇、場作り)の信頼をベースにした関係性に触れてもらうということもまた、仕事をしに来た人になにかを感じさせる大事な要素かもしれない。

支援という枠組みで仕事につなげるとき、往々にして支援者は事業主に配慮を求め個々の特性を情報共有しようとする。理解を求める。

しかし、そんなことをするよりも、そこで「出くわした人が、それぞれの仕事をする」というシンプルな出会いで十分だった。そこでは合理的配慮というものをわざわざ用意する必要がない自然な人間同士のやりとりが生まれていた。(秋山)



(この事業は、内閣府の「地域における孤独・孤立対策に関するNPO等の取組モデル調査」の助成金を活用して取り組みです。)


いいなと思ったら応援しよう!