生い立ち~くらいとこ~
``くらいとこ,,の説明をするにはあたしの育った家がどんな家だったのかの説明が必要になってくる。
そして``くらいとこ,,がどんな部屋で、どうあたしが地獄に堕ちていったのか、今回はお話したいと思います。
・あたしの実家
あたしの実家は関西のベッドタウン的な場所にあり、町のなかには新興住宅地がたくさんあるけれどその中で昔からある古い村の中にあった。
村の中を歩くといろんな人に声をかけられ、悪いことがすぐに広まりそうな、そんな小さな村の中の旧家があたしの実家だった。
門戸は格子戸になっていて、そこから20mほどあるくと玄関にたどり着く。
そこまでにトイレやお風呂があって、少し離れたところには離れや物置き小屋もあり、祖父が手入れをしている庭には毎年きれいな大きい菊が咲いた。
玄関もひろくて段差が高く、大きな石の段を上らなければあがれないほどで、上がって左側には昔呉服問屋を営んでた名残りで「店の間」という部屋があった。
反対方向には応接間。父と村のおじさんが囲碁をする部屋だったから、すこしたばこのヤニ臭い大人のにおいがした。
1階には座敷、居間、納戸、台所とあり、それぞれが広くて襖だけで仕切られているために、襖をはずせば法事も余裕でできる広さがあった。
2階には実際なん部屋あったのかしらなかった。2階に上がる階段は二つあったけれど、どちらも上を見上げると吸い込まれそうな暗さがあったため、寝室以外には上がったことがなかった。
そんな階段を上がってすぐの場所にあったのが``くらいとこ,,だった。
・くらいとこ
階段から上がると真っ黒な重い引き戸があった。
その部屋は土壁でカビ臭く、裸電球がひとつぶら下がっているだけで、もちろん子どもには届きっこなかった。
なかなか想像できないかもしれないけれど、古い家の蔵がそのまま小さくなって家の2階にあるような感じといえばわかるだろうか。いらない骨董品のようなものや火鉢、何が入っているのかわからない箱が壁にある棚にずらりと並べてあった。
大声で泣いたり姉にはむかったりすると、母が小脇にあたしを抱え階段をのぼり、その部屋のど真ん中へおろされる。そして追いかけるあたしを手や足で払いながら母は扉を閉めてしまうのだ。
少しでも光がはいるのならば目がなれて中の様子も見えたのだけど、``くらいとこ,,はそんな光もはいらず、目はなれることがなかった。
目があいているのか、それともとじているのか分からなくなって数時間もすると泣くことよりも暗闇のなかであたしは眠ってしまうことが多かった。
その時間は本当はそんなに長いものではなかったのかもしれない。
けれど母はあたしがその部屋で泣き止むまで、ほぼ眠ってしまうまで出してくれはしなかった。
あたしの記憶の中には、あのカビ臭いニオイと真っ暗な闇のなかで出れないながらに何周も壁を伝って出口を探したことが、今でも鮮明に残っている。
・離人症
あたしが``くらいとこ,,に何度も入れられていた結果、小学校の低学年のうちからあたしは不思議な体験をするようになった。
自分の目で見ているのにものが遠くに見える。
当時はそう表現するしか語彙力がなかった。
母はそんなあたしを眼科へ連れていき、異常がないとわかると嘘をつくなとそれ以上目のことについては信じてくれなくなってしまった。
ものが遠くに見えるというより、自分という体を借りてあたしの心が中から物事を見ている感じ。体を借りているから見るものだけでなく手足なども操縦しているように感じるから大きなロボット(例えばガンダムのような)を操縦席から外をみて動かしているような感覚だった。
手が襖一枚くらいの大きさに感じて、手を握ると不器用な感じにむくんだ手で握るような、足は大男になって地面を歩いてるような、そんな感じは辛いときや疲れたとき、悲しいときなどにたびたび起こった。
あたしは現在でもそれをコントロールしながら生活しているので当時の様子をこのように説明できるようになった。
けれど当時はだれにも信じてもらえず助けてもらえなかったため、これが「離人症」という解離性障害の一種だと知ったのはずっと未来の大人になってからの話となる。
おそらく``くらいとこ,,で体験した恐怖からのがれるためにあたしは、体と心を切り離してどうにか自分を保っていたんだと思う。
夜蝶観音