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【エッセイ】もし、と私は考える
強風により常磐線のダイヤ乱れが発生し長らく電車に乗っていた。全身が痛かった。領収書を束ねた封筒を事業所に持って行くために仕事終わりに仙台に向かったのだ。降りてからは、遅れを取り戻そうと普段駅から徒歩で歩く距離を地下鉄で移動した。そこで丁度、ガラス扉に伊坂幸太郎著『楽園の楽園』の発売を知らせる広告が貼られていたのに気付き、久々に新作が読めると興奮し、用事を済ませたのち近くの書店に寄った。目的の小説本を手に取ってレジに立つと、書店員が、こちらの商品はサイン本がございますが交換致しますか、と訊ねた。見落としていたせいで手間をかける申し訳なさもあったが、結局、ご厚意に甘えた。陳列棚から小走りで戻る店員を目で追いながら、もし、と私は考える。理不尽な天候に振り回されなければ新刊案内を知らず、親切心にも触れることなく真っ直ぐ帰宅しただろう。偶然と人の行動が絶妙に絡み合ったおかげで幸運を掴めた一日でした。