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【エッセイ】対面
年配の男から回覧板の入った鞄を手渡される。彼は赤銅色の顔を輝かせまるで野球少年のように笑い、溌剌としている。軽い挨拶を交わすと、庭のイチイの樹形をじっと観察し踵を返して軽トラックに乗り込むので、私は、再び頭を下げて、部屋へ戻る。
適当に玄関前に置いておけばいいのに、地元住民は対面での受け渡しに何故かこだわりを持ってて、インターフォンを鳴らしたがる。新型コロナウイルスが猛威を振るうまでは流れに便乗して訪問先の家に上がり込んでお茶をする人もいたらしいのだが、正直そんな図太さが羨ましい。リレーで言うところの襷を繋ぐだけに留まらず、コミュニケーションのきっかけとして成立しているし、交流が深まることによって連帯感が生まれて、地域の中での孤立が自然と防がれる。のだが、無論それを面倒臭がり関わりを最低限に抑えたい方も一定数いるわけで、相手の考えを汲み取って行動してもらえたらな、とは、常々思う。