設備管理SaaSを支える3人が語る、MENTENA事業の秘話【インタビュー前編】
こんにちは、note編集部の鈴木です。
当社は2024年7月に八千代エンジニヤリングの子会社として設立されました。創業60年以上の建設コンサルティング会社の民間向け事業の第一弾としてMENTENAをリリースしてから早4年。
今回はこのMENTENA事業のキーパーソン3人にお集まりいただき、お話を伺いました。
この前編ではそれぞれがMENTENA事業に関わることになったきっかけや、子会社立ち上げ、設備管理SaaSについて語っていただきます。
事業開発や製造業向けSaaSに興味・関心がある方はぜひご覧ください。
社内で立ち上がった民間向けSaaSプロジェクト
ーみなさん、本日はどうぞよろしくお願いします。八千代ソリューションズ、そしてMENTENAについてざっくばらんに語っていただければと思います。
それではまず、山口さんから自己紹介をお願いします。そもそも当社に入社した理由は何だったんでしょうか。
山口さん
MENTENA事業の責任者をしています。
私はもともと大学で土木を専攻しており、3次元CADを土木分野で活用する研究を行う研究室に所属していました。企業の方と共同研究も行っていたため、3次元に取り組んでいる企業について相談したところ、八千代エンジニヤリングの社名を聞き、インターンに来たことが入社のきっかけです。
ーMENTENA事業に関わることになった経緯を教えてください。
山口さん
国交省が管轄する一級河川の維持管理システムを開発・運営する業務を担当した際、システムを全国展開して多くの方に価値提供することの楽しさや現場の方たちが実際に運用して定着するところまで伴走することの重要さを感じました。
北海道から九州まで9つの整備局が統一したシステムを使うために、国交省や競合他社、財団などさまざまなステークホルダーと協力し、改善と運用を行いました。途中、オンプレからクラウド化した時は大変でした。
吉田さん
その維持管理システムはすべての一級河川を管理しているのですか?
山口さん
はい!北海道から九州まで約88,000kmの河川で使用されています。
皆
すごい!
吉田さん
ということは、全国の一級河川で使用される維持管理システムの開発・運用ノウハウがMENTENAに活かされているということですね?
山口さん
そうです!
この経験もあって、キャリアの後半は自社サービスをやってみたいと思っていた。
そんな時に社内で民間向けSaaSプロジェクトの計画があることを知り手を挙げました。
ーなるほど、いいタイミングでチャンスがやってきたのですね!
では、次は吉田さん、自己紹介をお願いします。
吉田さん
2023年2月に入社しました。
私は、マーケティングのスペシャリストとして働いていきたいと考えていて、転職の条件が決まっていました。
本社機能が日本にあること、BtoBマーケティングであること、新しい投資事業で1→10や10→100をやっている企業で、マーケターを探している会社を探していて、条件に合う企業は限られているのでのんびりと時間をかけて面談などを続けていました。
完璧じゃないことも転職理由?
吉田さん
八千代エンジニヤリングに決めた理由は、実はMENTENAがきっかけで。
建設コンサルタントなのに製造業向けの何かを売っていると聞いたのと、はっきりいってしまうと会社ホームページ見た時に製造業向けに改善する余地もあるし、自分が貢献できると思ったという感じですね。
ーちなみに当時どういうホームページだったんですか?
吉田さん
官公庁向けに広いサービスを展開している構造になっているから、製造業のお客さんが見ても自分が必要なページにたどり着くまでが遠かった。
4クリックは必要だったかな。
山口さん
なるほど!完璧じゃないことも転職理由になるんですね。
吉田さん
なるなる!だって完璧だったら自分が役に立たないからね。
ー面白い視点ですが、たしかにそうですね。
では最後に岩片さんの自己紹介をお願いします。ご入社は今年ですよね。
岩片さん
はい、2024年8月に入社しました。そろそろ3カ月ですね。
私はお二人に比べると専門性をもつ方向よりはいろいろな職種を経験してここまで来ました。
新卒では製造業向けの設計支援ソフトの営業と顧客サポートを経験して、その後にいわゆるSEに転向し、さらにその後バックオフィス向けのSaaSで自社開発を経験しました。前職ではもともとイチ開発メンバーだったのですが、徐々にプロダクト全体を見た管理業務やエンジニア以外との調整業務が増えていき、いつの間にかプロダクトマネージャーということになっていました(笑)。
「この市場を狩りつくす」「トップを目指す」サービス
岩片さん
八千代エンジニヤリングを選んだ理由は吉田さんと似ていて、自分が役に立てるところが多そうだなと感じたからです。
転職軸としては、これまでやってきたBtoBでの1→10や10→100のフェーズの経験を役立てられることが主でした。、BtoCの業界はあまり関心がなく、幅広いユーザーにハイスピードで価値を提供するよりも、もっと狭い層に突き刺さるものをじっくり作っていく場所を求めていました。
あとは、自分たちの製品でナンバーワンを一緒に目指せる会社であることを重視していました。カジュアル面談で吉田さんが「この市場を狩りつくす」「トップを目指す」と言ったことに惹かれたのを覚えています。もちろんカジュアル面談で山口さんとお話してみて、この人となら一緒に頑張れるなと感じられたことも大きいので、そこのマッチングもすごく大事だと思っています。
山口さん
そうだよね!
吉田さん
実際に面接をした時に、入った後にどのように仕事をやっていこうかって、お互いに会話できているかが大事ですよね。
岩片さんの面接では、カスタマーサクセスや開発の立ち上げの時にもし予算がない状況でも、どうやって乗り切るかとかかなりリアルな話をした記憶があります。
岩片さん
そうですね、なつかしいです。
内製化も進める必要があるなかで、どうやっていくのかなどお話ししましたよね。
吉田さん
そうそう。採用する側からしたら入社してからどのような働き方をしてくれるのかイメージして合否を判断するからね、面接でリアルな話をできたことはすごくよかった。
山口さん
そうですね、じっくり話してミスマッチが起こらないようにしていきたいね。
岩片さん
吉田さんのお話にもありましたが、求人を見たときに改善の余地だらけで、開発者が応募するわけない状況だと正直思いました!
他社だとエンジニア採用の定番があって、どういう開発言語やツールを使っているか、どういう開発体制を組んでいるかとか書いてあるんですが、MENTENAについてはHPを隅々まで調べても情報が出てこなかったので、これは掘り出し物なのかなと前向きに考えたし、役に立てると思ったんですよね。
山口さん
前向きだなー、隙があったということですね。
岩片さん
そうですね、余白がたくさんあったということですね。
意思決定スピードの課題から八千代ソリューションズの立ち上げへ
ー続いて、2024年7月に八千代ソリューションズを立ち上げた理由や、なぜこのタイミングだったのか、について教えてください。
山口さん
タイミングとしては、MENTENA事業が100社を超えて一定の受注もできるようになって、いろいろなものの投資ややらなければならない事の粒度が大きくなってきたことや、投資する金額が大きくなり事業部予算のなかで比率が大きくなるほど、意思決定のスピードが遅くなっていくのを感じてました。
吉田さんから「今後、広告宣伝費もさらに倍々に増えて数億円の規模になっていくんですよ」という話があって長期の試算を見てもらったときに、経営層も子会社で進めていった方がよいという判断になったことが大きかったかな。
その他に、八千代エンジニヤリングがやっている建設コンサルタントに最適化された仕組みがあります。SaaS事業をやっているMENTENAはやり方・勘所・評価体制も含めあらゆることが違うので、規則や評価体制や採用についても自分たちに合ったやり方に変えていける子会社にすることで、事業をもっと大きくしていけると考えました。
ーいつ頃から子会社の話を進めていたんですか?
山口さん
去年(2023年)の秋ごろからかな。
吉田さん
半年間で立ち上げたということになるよね。
ー半年間で立ち上げたというのは、一般的に考えても早いんですか?
山口さん
八千代エンジニヤリングとしては早い!
吉田さん
官公庁向けの仕事を60年以上、総合建設コンサルタントとしてやってきて、かなりルール化されているから、半年間で登記まで進めたというのは相当なスピード。
大変だったよね。
山口さん
大変でしたね。
でも、いろんな人が助けてくれました。ありがたいな。
「顧客の一番のパートナーであり続ける」
ー子会社のミッション・ビジョン・バリューについては、皆で考えたんですか?
山口さん
MENTENA事業のお客さんは、製造業のエンジニアがお客さまで、すごく真面目に仕事に取り組んでいる方ばかり。お金がどうというよりも納得感がある説明をすれば決断ができるお客さまが多い印象を持ってる。
じゃあ、そういったお客さまにどういう姿勢が必要かというと、一つひとつ誠実に対応することが1番良好な関係を築く方法だと思っています。
これは事業が始まったときから違和感なくあって、どちらが上という事ではなくお客さまと対等な立場で今の設備管理における保全という領域をどうやって一緒に良くしていくかということが事業の中心になってくると思っていて、重要だと思ってる。
ー製造業についてですけど、設備管理のなかの保全という、どちらかというと日の当たりにくい分野に着目した理由というのはどうしてですか?
元々そこに社会課題があると感じたからですか?
山口さん
そこは悩ましいところなんだけど。
八千代の強みの「社会インフラの維持管理領域」を長年担当してきて、そこが会社として強化していきたいテーマだったという大前提がありました。メンテナンスが社会のなかのどのような場所で活用されているか、社会インフラ以外で同じようなことをやっていて課題がないかということを探索していくなかで、製造業やビルメンテナンスでやっているということがわかって。
0→1で市場を作るところからではなく、すでに市場があり、かつ海外に先行事例があるものを日本市場に合わせるような事業の立ち上げ方をしました。
岩片さん
開発当初はアメリカのUpKeepなどを参考にしたと聞きました。
SaaS業界ではよく「アメリカは日本より10年進んでいる」と言われますが、先行事例があるといっても容易ではなかったと思います。アメリカにあるものをすべてそのまま持ってこれるわけではないので、日本の現場の仕組みやビジネス環境に合わせたローカライズは大変だったんじゃないでしょうか。
山口さん
そうですね。
日本プラントメンテナンス協会が提唱しているTPM(Total Productive Maintenance)などのセオリーはキャッチアップしています。ただ、日本のものづくりは「カイゼン」と呼ばれる現場最適化が常に行われているため、顧客の要望を継続的に取り入れて改良を重ねています。
ー設備管理において保全がどうして必要なのか、そういったところもお聞きしたいです。
山口さん
設備管理、なかでも保全は製造インフラ全体を支えるものだと思うんですよね。
設備だけじゃなく建物なども含めて、いかに安定した経済活動を実現することが出来るかが重要な領域だと思っています。設備管理がうまくまわれば、その上で動く生産とか物流とか、サプライチェーン全体が安定して稼働できると考えています。
それは製造業だけではなく、ビルのメンテナンスなど経済活動のあらゆるところで、設備管理というのはすごく重要だと思っています。
日本全国にある約4万事業所がわれわれのターゲット
吉田さん
設備管理や保全とSaaSって、さっきアメリカから来た話をしてたんですけど、なんとなくマーケター感覚だと、結びつきにくいと思っていて。
お金の面だけ見ても投資がそんなにまわらないし、そこで事業を起こして成長スピードが早いかというとそうでもないので、他にお金を使った方がいいんじゃないのってなりそうだなって。
転職を考えた時も「へーっ」て思ったんだけど、何で設備管理を選んだの?
山口さん
市場規模自体は就業人口や商品単価などから大まかに試算できるんですが、実際に顧客に提案していくと設備管理システムへのニーズは「あったらいいな」という薄いもので、事業開始当初は実は後悔してました!
ーなるほど、ではそのあたりは専門家からお伺いした方がいいかもしれませんね。
市場とか開発の仕方について、吉田さんと岩片さんにお聞きしたいです。
まず、市場についてはいかがですか?特性についても教えてください。
吉田さん
日本の事業所の数って、統計で出す計算式が変わっていくからデータ上は増えたり減ったりしているのね。ただ、実質的には統廃合であったりとか、労働人口の減少で事業所の数が減っているのは間違いなくて。
全部の事業所でいうと約17万事業所あるうち、日本全国で約4万事業所ぐらいが、設備管理、特に保全に関わっている我々のターゲット。この領域に、一生懸命DXを推進していくという感じです。
やっぱり日本のなかで製造業って一大GDP貢献産業なので、1つの事業で100億作るには十分な市場規模ですね。
岩片さん
市場特性というか、提供開始のタイミングはかなり良かったんじゃないかと思っています。
チームや工場全体にツールが浸透しないと意味がないんですが、まだまだITに抵抗感がある方はいるし、やっぱり上の年齢層の方ほどそれが多いんです。
MENTENAがリリースされたのは団塊の世代やその少し下の世代の方々が引退するぐらいの時期で、担い手不足などが悲観的に言われていましたが、IT化を推し進めるにはある意味いいタイミングだったんじゃないかと思います。
山口さん
建設業・製造業って、レガシーな領域が残ってますからね。
SaaSという方式はこれからもっと自然になっていく
ーMENTENAは、開発者目線でいうとどういう評価ができますか?
もっというと、MENTENAはSaaSですが、そもそもこれが一番新しい方式なんですかね?
岩片さん
SaaSにはいろいろな側面がありますが「インターネット経由で自社開発サービスを提供し、課金を行う」というビジネスモデルに関しては今のところ代わりになるものはなさそうですね。
日本でSaaSが広まりだしたのは2010年前後、iPhone(4や4S)が大ヒットしたのと同じころにセールスフォースなどが知られるようになりました。
そこから15年ほど経つ間にインターネットは社会インフラと呼べるものにまで進化し、SaaSも同様にインターネット社会に最適化されたビジネスモデルとして成長してきました。
今後、生成AIなどの新技術に適応したサービスの提供の仕方、売り方みたいなものが出てくることはあると思いますが、ビジネスモデルとしては当分SaaSが続くと思っています。
ーしばらくこれは続きそうな感じなんですね。
岩片さん
そうですね。
吉田さん
ユーザーからするとねー、自前で開発すると、コストかかるから。
山口さん
そうなんだよなー。
岩片さん
そうですね、オンプレミス環境で自前開発となるとショットで何千万何億円の費用がかかるような話なので、ユーザーさんにとっての負担感は大違いですよね。
ー買い切りと比較するとどうなんですか?
岩片さん
製造業向けのソフトウェアライセンスって買い切りでも驚くほど高いんですよね。私が2010年代に製造業の方とやり取りしていた頃は1ユーザーで何百万もする3次元CADが普通にあって、それを20年間買い替えずに使っている現場も珍しくなかったです。
製造業でお金をかける領域といえばやはり生産リードタイムを短くしたり、品質を高めたりする部分なので、買い切りのソフトは最初に大きいお金を払って長く大事に使うというのが普通でした。
そう考えると製造業の方にとって、自社構築や買い切りが当然だったところからSaaSのように月々の利用料をいただくビジネスモデルへの転換は、今でこそ自然になりましたけど、当初はチャレンジングなことだったと思います。
吉田さん
SaaSって最近自然になってきたけど、これからもっと自然になる感じだなってイメージありますよね。
皆
うんうん。