自民党憲法改正草案再読(37)
2021年11月13日の読売新聞(西部版・14版)の一面に、自民党幹事長・茂木のインタビューが載っている。「緊急事態条項の創設優先/自民・茂木氏 改憲論議を加速」という見出し。記事の前半部分。
自民党の茂木幹事長は12日、読売新聞のインタビューに応じ、衆院選で憲法改正に前向きな日本維新の会や国民民主党が議席を伸ばしたことを踏まえ、改憲論議を加速し、緊急時に政府の権限を強化する「緊急事態条項」の創設を優先的に目指す方針を示した。
茂木氏は「新型コロナウイルス禍を考えると、緊急事態に対する切迫感は高まっている。様々な政党と国会の場で議論を重ね、具体的な選択肢やスケジュール感につなげていきたい」と述べた。
予想していたとおりにコロナウィルスと緊急事態条項を結びつけてきた。まるで緊急事態条項がなかったために日本のコロナウィルス感染が拡大したかのような主張である。まだコロナウィルス対策の検証もすんでいないのに、である。
問題点はあれこれあるが、諸外国で「緊急事態条項」に類する「憲法」をもとにコロナ対策を進めた国があるか。そして、その国はその対策によって対策の効果を上げたのか。世界的に見てコロナ封じに成功した国は中国やニュージーランドなどわずかである。中国はたしかに「緊急事態条項」のようなものを適用したのかもしれない。権力が国民の自由を奪い、強引にコロナウィルスの移動を封じた。もし、茂木が目指しているものがそうであるなら、それは「中国共産党の政策」をコピーすること、自民党が「中国共産党」になり、独裁をなしとげるということだろう。コロナ対策を口実に、中国共産党並みの独裁を進めるということだろう。
だいたい、諸外国のよう「都市のロックダウン」は日本には合わない、
というのが安倍や菅の主張ではなかったのか。いったい、「緊急事態条項」をもうけることで、コロナ対策をどう進めるのか。それを明確にしないで、「新型コロナウイルス禍を考えると、緊急事態に対する切迫感は高まっている」と言っても空論だろう。緊急事態条項新設のためにコロナを利用しているにすぎない。
コロナ感染がはじまったときから、私は何度も隔離病院を建設する、PCR検査を徹底することが重要と書いてきたが、緊急事態条項があれば病院の建設が進み、PCR検査が進んだのか。緊急事態条項がなかったから病院建設ができず、検査もできなかったのか。違うだろう。ワクチンにしても緊急事態条項があれば、国産ワクチンができたのか。接種が進んだのか。緊急事態条項がなくてもできるのにしなかった。それが問題なのだ。
緊急事態条項があれば、安倍のマスクを全国民に配布することができ、余剰のマスクのために無駄な管理費をつかなくてもすんだのか。違うだろう。
コロナ感染状況は、日本は、11月13日現在落ち着いてみえる。これは緊急事態条項を新設すると茂木が言ったから、そうなったのか。違うだろう。また世界的に見れば、ヨーロッパでは再び拡大しているようにみえる。拡大がおさまらない。緊急事態条項のもとで対策を進めていないから?
事実を無視して、自分の都合で「コロナ対策」を口実にして、緊急事態条項を盛り込もうとしている。こんな「非科学的」な論理で憲法を変えるのは、あまりにも乱暴である。
その「緊急事態」。これは新設なので、現行憲法と比較できない。そのため問題点を指摘することがむずかしい。私は「法律」をほとんど読んだことがない。(憲法は何度も読んでいる。)どうやれば、問題点を指摘できるか。わからないまま、書き進めるしかない。
(改正草案)
第九章 緊急事態
第98条(緊急事態の宣言)
1 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
茂木の言っている「新型コロナウイルス禍」は、第98条1項の「武力攻撃」「内乱等による社会秩序の混乱」「地震等による大規模な自然災害」のどれにあたるか。人為によらないものだから「自然災害」か。
ぜんぜん、わからない。
そして、この「ぜんぜん、わからない」ということが、非常に問題なのだ。
たとえば「我が国に対する外部からの武力攻撃」ということばは衝撃的で、私はうろたえてしまうが、今現在ある「法律」でいえば、「安全保障関連法」では集団的自衛権を認めている。日本が直接攻撃されなくても、ある戦闘が日本の存亡の危機に直結する場合は自衛隊が海外へ行って戦闘に参加することができる。最近話題になっている「台湾有事」の場合も、自衛隊が出かけていくのだろう。そうすると、それは中国(と、仮定しておく)から見れば「我が国に対する外部からの武力攻撃」にあたるから、当然のこととして日本へも攻撃を仕掛けてくるかもしれない。それは「攻撃」というよりも「反撃(防衛)」だろう。それでも日本は「我が国に対する外部からの武力攻撃」と定義し、緊急事態条項を宣言するのだろうか。もし、そうであるなら、日本がある国に先に何か行動を起こし、その国から反撃させ、「外部からの武力攻撃」と定義し、緊急事態宣言をすることもできるだろう。「集団的自衛権」が存在しないなら、安全保障関連法が存在しないなら、まだ、かろうじて「我が国に対する外部からの武力攻撃」の定義を受け入れることができるが、日本が、ある国で武力活動をできるようにしておいて「我が国に対する外部からの武力攻撃」というのは、あまりにも自分勝手である。
「内乱等による社会秩序の混乱」の「内乱」の定義もわからない。いつの選挙だったか、安倍にヤジを飛ばしただけで市民が警察に拘束される(あるいはつきまとわれる)ということがあった。この事件など「内乱等による社会秩序の混乱」を先取り実施したものといえるだろう。「社会的秩序の混乱」も「他の聴衆が演説を聞くのを妨害した」というのが「混乱」にあたるというに違いない。だから、きっと、「自民党は政権から下りろ」というのは「内乱」にあたるし、政権交代を目指し立憲民主党と共産党が共闘するのも「内乱」あたる。しかし、たとえば立憲民主党と連合の対立は「内乱」でも「社会的秩序の混乱」ない。むしろ、自民党にとっては「連合による社会的秩序を回復させるための戦い(共産党を排除する戦い)」ということで、推奨されるだろう。「内乱」にしろ「社会的秩序」にしろ、それは、あるひとがどのような立場で社会に参加しているか、社会をどう定義しているかによって違ってくる。
コロナ問題で考えれば、集団で飲食店で飲み食いするのは、コロナ感染を抑制したい側から見れば「社会的秩序」を乱すもの(混乱させるもの)だが、飲食店側から言わせれば十分な補償をしないことが「社会的秩序」を「混乱」させるもの、ということになる。店がつぶれる。失業者が出る。食べていけない。それは「被害者」にとって「社会的秩序の混乱」である。客がきて、飲食し、金が稼げるというのが飲食店の考える「社会的秩序」である。
いったい、コロナ対策で、自民党は何をしたのか。それは、どんな効果を上げたのか。どんな問題があったのか。検証しなければいけないことがたくさんあるはずだ。それを放置しておいて、コロナ対策を進めるためには「緊急事態条項」が必要だというのは、それこそ、いまある「社会的秩序」を混乱させるものだろう。
2項では、「事前又は事後」の「事後」が特に問題になるだろう。たいていの場合、緊急事態なのだから「事前」というのはむずかしい。「外部からの武力攻撃」や「自然災害」は予期しないときに起きる。だから「事前」に国会の承認を得るということは、まず、ありえない。「事前」が可能なのは「内乱等による社会秩序の混乱」である。「共産党が武力革命を計画している」という「情報」をもとに緊急事態宣言をし、共産党を拘束するということはあるかもしれない。私のように憲法改正反対ということを口にしている人間も「社会的秩序の混乱」を招くということで、「緊急事態」とはいわないが、その動きが大きくなる前につぶしておけ、という動きが出てくるかもしれない。
「事後」にいたっては、いったい期限がいつなのか、わからない。3項に「百日」というひとつの目安があるが、その百日にしろ、いま起きていることは百日前に起きたこととは別問題(あるいは、さらに発展した問題)だから、百日の限定は当てはまらないと言って、緊急事態宣言の「継続」ではなく、第二の「緊急事態宣言」、第三の「緊急事態宣言」という具合に更新し続けることができるのではないか。更新と延長は違うと、自民党はきっというに違いない。
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