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国後島の火山

今回も引き続き、行ったことのない北方領土の話題です。国後島には、爺爺岳ちゃちゃだけという活火山があります。

爺爺岳の標高

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▲ メンデレーエフ空港のエリアチャートから(青色加筆)

青文字・青線を加筆しました。ユジノサハリンスクを発って航空路B919に乗り、国後島に近づくとほぼ直角に右旋回します。すると、前方右下に北方領土の最高峰である爺爺岳がそびえているのが目に入るはずです。このチャートでは、標高「1819」メートルのチャチャ火山(Vulcan Tyatya)と示されています。

(ユジノサハリンスクと国後島を結ぶ航空路の全体図は、こちらをご覧ください)

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▲ 標高「1822」メートルの爺爺岳(1971年8月30日、国土地理院発行)

国土地理院の地図には、爺爺岳の標高が「1822」メートルと書かれていた時期がありました。 大正時代に測量された値ですが、戦後は北方領土に立ち入ることができず現地測量ができなかったため、2012年(平成24年)ごろまでこの標高が使われていました。そのためでしょう、ネットには爺爺岳の標高を「1822m」とした情報がいまだにあふれています。

しかし現在では、標高「1822」は正しくありません。では、いまの標高値は?

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▲ 標高「1772」メートルに修正された爺爺岳(地理院地図Vector、2021年9月時点)

爺爺岳の標高は、今では1772メートルです。これは人工衛星から撮影した画像により修正された値です。

2006年に打ち上げられた陸域観測技術衛星ALOS「だいち」に搭載されたレーダー(PALSAR)や 光学センサー(PRISM)によって地表面の起伏の高精度な観測を行い、それまで無かった北方領土の2万5千分1地形図を作成することができたのです(2012年12月1日発行)。その結果、爺爺岳の標高は 1822m から 1772m に、マイナス50メートルという大きな修正となりました。1973年に起きた、爺爺岳裾野付近からの大噴火が影響しているのかもしれません。

ALOS : Advanced Land Observing Satellite、陸域観測技術衛星
PALSAR : Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar、フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダー
PRISM : Panchromatic Remote-sensing Instruments for Stereo Mapping、パンクロマチック立体視センサー

先に紹介したように、ロシアでいま有効なエリアチャートに記載されている爺爺岳の標高は「1819」メートル。国土地理院の以前の標高「1822」より3メートル低く、現在の標高「1772」より47メートル高くなっています。ロシアの古い測量データがそのまま使われているのかもしれません。もしや、測地系の違いによるものか?とも考えましたが、数十メートルもの標高差が出ることはないですね。(ロシアのAIPには「ПЗ-90.02」とあり、英語だと「PZ-90.02」という測地系です。PZ-90、PZ-90.02、PZ-90.11<最新>と改訂されています)

チャートの数値が実際の標高よりも低いのは困りますが、高く記されているなら問題にはならないでしょう。ちなみに、メンデレーエフ空港そばにある羅臼山は、ロシアのエリアチャートでは「メンデレーエフ火山、886」と記されていますが、国土地理院の地図では標高882メートルとなっています。

釧路レーダーの目標

さて、等高線でお気付きのように、爺爺岳はきれいな二重火山です。山頂付近を拡大してみましょう。

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▲ 爺爺岳のカルデラ(地理院地図Vector)

標高1500メートルほどのカルデラ内に、いわゆる「小富士」があります。爺爺岳の写真をネットで見ると、「世界で最も美しい二重火山の一つ」(内閣府)と言われるのもうなずける、いい形をしています。

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話題が変わりますが、北海道の釧路町には、道東エリアだけでなく太平洋上の航空機も見ることができる釧路航空路監視レーダーがあります。このレーダー、以前は基準点のひとつとして爺爺岳を設定していました。レーダーが捉えるターゲットの方位と距離を校正するための固定目標です。標高1772メートルの北方領土最高峰は、釧路レーダーサイトからの距離がちょうど200km。山頂で反射した電波がレーダースコープ上でポツンと光ります。その映り具合によって、レーダー機器の調子だけでなく電波伝搬の状態まで把握できたりもします。

爺爺岳が釧路レーダーの固定目標に適していた理由の一つに、「小富士」の存在があります。低仰角への発射を抑えた(シャープカットオフ)レーダー電波が、適度に遠方にある急峻な山頂で反射してきて、小さな点として写ります。基準点の方位と距離を正確に測るには、レーダースコープに山全体がべったり表示されるのではなく、輝点が小さい方が良いのです。

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▲ 釧路航空路監視レーダーの外観

写真のように、レドーム(レーダーアンテナの覆い)が以前より小さくなりました。一次レーダーの廃止に伴って大型のARSRアンテナが撤去され、SSRアンテナだけになったからでしょう。もう、爺爺岳がこのレーダーに写ることはないですが、北方領土上空を飛行する航空機は映し出されていることでしょう。

ARSR : Air Route Surveillance Radar、航空路監視レーダー
SSR : Secondary Surveillance Radar、二次監視レーダー

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北方領土の最高峰、国後島にある標高1772メートルの爺爺岳は、このように思いがけないところで航空の世界ともつながりがあった…というお話でした。


※ 写真はすべて、やぶ悟空撮影

※ 記事の内容は作成当時のものです。


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