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春、MU-2 飛行検査機

昭和45年から15年間使用された航空局の飛行検査機、MU-2 です。退役した後、航空保安大学校岩沼分校(現岩沼研修センター)の中庭で展示保存されていました。桜の季節に撮影したMU-2の写真が出てきたので紹介しましょう。

▲ MU-2B-20、JA8770(1999年4月17日)

三菱MU-2は、1960年代初期に日本で開発された双発ターボプロップ機です。1965年には日本国内だけでなくFAA(アメリカ連邦航空局)の型式証明も取得し、米国でも発売されました。

小さいころ、MU-2 ってずいぶん翼が短いなぁ、と思っていました。ずんぐりしてリアジェットほどスマートじゃないけど、翼端にタンクが付いている飛行機が好きな子供だったので許せる範囲でした。改めてスペックを見てみると、翼幅わずか12メートル未満(Span: 39ft 2in)です。YS-11の翼幅32メートル(105ft)と比べると、なんと短いことか!

この短い主翼のおかげで、ターボプロップ機でありながらも高速巡航性能を評価されることが多いようです。この翼でも離着陸時の低速飛行を可能にするため、主翼の後縁すべてをフラップ(double-slotted fowler flap)にしました。このファウラーフラップにより、主翼の面積を約21%も増やすことができたそうです。MU-2の失速速度は、フラップアップ(clean)とフラップフルダウン(landing config.)で25ノットもの差があり、フルスパン(全翼幅)フラップ(高揚力装置)にした効果が大きいことが分かります。

しかし、そうすると主翼の両端にエルロン(補助翼)を設けるスペースがないため、代わりにスポイラーを使ってロール制御しています。このしくみは低速で飛行することが多い飛行検査機のパイロットには評判が良くなかったらしく、「低速時には舵を切るだけで失速しそうになった」とも言われたようです。

MU-2のフラップとスポイラー、分かりやすい写真が見当たらないので、こちら(Siregar3D)の3Dモデルをご参考に。

写真の JA8770機は、MU-2総生産数762機のうち、製造番号195のMU-2B-20モデルです。運輸省(当時)航空局が飛行検査機としてこのMU-2Bを導入したとき、すでに3機のYS-11型機が飛行検査に使われていました。DC-3型機の後継とされる、たった1機だけのMU-2飛行検査機です。

新造された1970年春から飛行検査業務に就き、わずか15年間の運用で屋外展示となったのは、少々もったいなかった気がします。海外でなら買い手もあったでしょうに…。


▲ MU-2B-20、SE-GHDのアンテナ配置(2012年)

例えば、たまたま見つけたのがこの機体。今でもスウェーデンで活躍する三菱MU-2のうちの1機、登録記号 SE-GHD機は1974年製です。サーブ社の Aerial Target Servicesの業務で(リアジェットと共に)軍事訓練に使われています。スウェーデンでは十数機のMU-2がいまだに現役で活躍しているようでした。おそらく米国ならもっと多くのMU-2愛好者がいて、現役で飛行している機体も多いのでしょう。


▲ MU-2B-20、JA8770(1998年4月11日)

仙台空港に隣接するこの場所は、12年前のきょう、2011年3月11日に発生した東日本大震災で津波の被害を受けました。機体は固定されていたので流されることはなかったものの損傷を受け、翌月には他の瓦礫とともに廃棄処分されてしまったようです。その痛ましい姿がネットに残っていました。

まだまだ飛ぶことができたのに、1985年秋から26年にわたって地上で余生を送ったこの丈夫なMU-2飛行検査機は、最後の春にこの桜が花開くのを待ちきれなかったのでした。


※ 写真はすべて、やぶ悟空撮影

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