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北方領土へ飛ぶ

あなたが「北海道」の地図を頭でイメージするとき、北方領土まで入っていますか?

ロシアによる実効支配が長く続き、容易に足を踏み入れることができない場所なので、つい外しがちになりますが、あらためて地図を見るとずいぶん大きい島々です。羅臼を訪れると、海を挟んで目の前に国後島が拡がっています。元島民の方々に知り合いはいませんが、行かれるものなら行ってみたいものです。

航空路

これらの島々への空のアクセス、北方領土につながる航空路はどうなっているのでしょう? ロシアの航空情報を探ってみました。

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▲ 北方領土を結ぶ航空路

ロシアの Federal Air Transport Agency が発行するAIPから、2021年5月20日有効の航空路図「ENRC 12」の一部を切り取ったものです。日本のFIR内は青色で加筆しました。

AIP : Aeronautical Information Publication、航空路誌
ENRC : En-route Chart、航空路図
FIR : Flight Information Region、飛行情報区

サハリンの南東部に設定されたウェイポイント「ODEKO」と、択捉島や国後島とを結ぶ航空路が3本ありました。G239B917 そして B919 です。航空路用の無線施設は、この図で見るかぎり「ITURUP」のVOR/DME(識別符号:PTR、VOR周波数:110.6MHz)だけのようです。

VOR : VHF Omnidirectional Radio Range、超短波全方向式無線標識施設
DME : Distance Measuring Equipment、距離測定装置

北方領土には、民間の定期便が就航している空港が2つあります。択捉島のヤースヌイ空港と、国後島のメンデレーエフ空港です。択捉島にはもう一つ、軍用のブレヴェスニク飛行場があります。(島々の空港については、別の記事で…。)


このチャートには色丹島と歯舞群島が記載されていません。そこには飛行場や無線施設などが設置されておらず、航空路の設定もありません。

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▲ サハリンと北方領土を結ぶ飛行航跡(flightradar24、合成)

2021年8月15日の定期便を flightradar24 で追ってみました。この図はスクリーンショットを合成したものです。

ユジノサハリンスク・ホムトヴォ空港から択捉島へはまっすぐの航空路G239です。ヤースヌイ空港の滑走路が1331なので、ほとんど進路を変えることなく滑走路13にILS進入することができます。

一方、国後島はメンデレーエフ空港が知床半島寄りにあるので、航空路B919は日本のFIRを避け、最高峰の爺爺岳を回り込む直角ルートになっています。メンデレーエフ空港の滑走路方位は南北の0119

どちらの空港も、オーロラ航空のDHC-8-400(Q400)機がユジノサハリンスクとの路線を片道約1時間で結んでいます。

ロシア首相の訪問

今年の7月26日、ロシアの首相が択捉島を訪れました(プーチン大統領ではなく、ミシュスティン首相。念のため)。「ロシアの実効支配を改めて誇示した形で、日本政府は抗議した。」(JIJI.COM 2021年07月26日23時00分)などと報道されています。「病院や水産加工場を視察した」(同)とされていますが、択捉島にはどれぐらい滞在したのでしょうか?

flightradar24 でロシア首相が搭乗したと思われる航空機を見つけました。ガスプロムアヴィアの Falcon 900EX(登録記号:RA-09006)、3発エンジンのビジネスジェットです。ガスプロムは半国営の巨大な天然ガス企業。その子会社の航空会社がガスプロムアヴィア(Gazpromavia Aviation Co., Ltd.)で、チャーター便の運航などを行っています。(日本では海上保安庁がファルコン900を長年使用していましたがすでに全機退役し、いま日本国籍のファルコン900はありません)

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▲ 択捉島への飛行航跡(flightradar24、合成)

モスクワを発ち、途中のイルクーツクで給油しただけで一気に極東へ。日本時間の26日0950分ごろに択捉島ヤースヌイ空港に到着しました。

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▲ 択捉島からサハリンへの飛行航跡(flightradar24、合成)

そのファルコン900が択捉島を出発したのは 1020分ごろ。えっ、滞在わずか30分? ヤースヌイ空港から最寄りの港(日本名:紗那=しゃな)まで約7キロあって往復15分はかかりますから、残り15分足らずで2か所を視察したことになります。やはり、日本が返還を求めている島にロシアの首相が降り立つこと自体を重視したのでしょう。「ロシアの実効支配を改めて誇示した」、確かにそのようです。

早々にヤースヌイ空港を離陸した後に2度旋回して島を眺め、ユジノサハリンスクまで戻ったところで宿泊したようです。モスクワから択捉島へ、そしてサハリンまで戻ったGPZ9623便の飛行時間は 10時間半を超えました。たぶん豪華なチャーター機とは思いますが、ファルコン900クラスでの長時間フライトはどんなものなのでしょうか。

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▲ 帰路の飛行航跡(flightradar24、合成)

翌27日、ユジノサハリンスクを発ったファルコン900は、アムール川沿いにある極東の工業都市、コムソモリスク・ナ・アムーレに着陸しました。この都市には 5時間近く滞在しましたが、どんな用事があったのでしょう?

実は、ここにはスホーイの航空機工場があり、極東地域の軍需産業拠点となっているのです。ロシアで開発された旅客機スホーイ・スーパージェット100(SSJ-100)に加え、ロシア空軍の戦闘爆撃機Su-34や 最新鋭戦闘機Su-35Sなどが製造されているのです。おそらく、そのような工場をじっくり視察したのではないかと読んでいます。

YouTubeで "SSJ100 Production Video" を見つけたので、私も「視察」してみました。とても興味深い映像です。

その後、ロシアの首相を乗せたと思われるファルコンのGPZ9624便は、途中で1回テクラン(Technical Landing)して首都モスクワへと戻りました。

※ ロシア首相のフライトについては、すべて「やぶ悟空」個人の推定です。飛行航跡以外の裏付けはありません。

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日本国政府は、国民に対し、北方領土問題の解決までの間、このような北方領土への入域を行わないよう要請しています(平成元年9月19日、閣議了解)。基本的に、現時点で一般国民の北方領土入域は不可能らしいので、それならweb上で行ったつもりに…とあれこれサイトを眺めてみています。興味を持つ航空分野を中心に、北方領土の記事をもう少し続けようかと思っています。次もお楽しみに…。


※ 記事の内容は作成当時のものです。



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