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ワム? 航空路WAM

Wide Area Multi-lateration の頭文字をとって「WAMワム」。マルチラテレーション(MLAT)という監視システムを、広域に拡大したものを「ワム」と言うようです。でも、「マルチラテレーション」って馴染みの薄い言葉だし、その仕組みも分かりにくい。そもそも「lateration」を “英辞郎” や “Oxford Learner's Dictionaries” で引くと、そんな英語はない っていうし。いったい何なの?


▲ WAM のカバレージ(AIP の図から余白を削除して加筆)

WAM の測位原理は? …な~んていう難しいハナシはそのうちに考えるとして、AIP にこんな図を見つけました。

「COVERAGE CHART」は「覆域ふくいき図」などとも言いますが、携帯電話のサービスエリアのように捉えていいんじゃないかと思います。

AIP には、次の4つの WAMエリアが示されています。

  • 関東/南東北エリア

  • 中部/近畿/瀬戸内エリア

  • 南北海道/北東北エリア

  • 周防灘エリア

ここに記載した順に、「航空路空域における更なる安全の確保を図るため、…(略)… 高精度な新型監視装置である航空路WAM」が整備されたことが分かりました。(平成29年~令和4年の交通安全白書より)

航空管制において、航空路など高高度を飛行する航空機を監視する役割は、日本各地に設置された航空路監視レーダー(ARSR)や 洋上監視レーダー(ORSR)が担っていますが、それに加えて「高精度な新型監視装置である航空路WAM」もすでに運用されている、ということです。

これだけたくさんのレーダーが日本中をカバーしているのに、なぜ 航空路WAM が必要なの? という声も聞こえますが、大きな理由の一つに「コスト削減」があるのでしょう。上の図には 21のレーダーサイトがありますが、レーダー機器やアンテナの設計寿命はおそらく15年程度。そうすると、平均して毎年1か所以上のレーダーを更新し続けることになるけど、レーダーって、かなり高価そう。

より「高精度」に 航空機の位置(や高度)を把握し、コスト低減も期待できる「新型監視装置」として、航空路WAM が実用化されたのでしょう。すると、今後はいくつかの航空路監視レーダーが廃止されることになるのでしょうか?

でも、レーダーとWAM は監視の原理が全く異なるため、すべてのレーダーをWAM に置き換えることはできません。お互いの長所を主に活用し、短所を補い合うという相補的な使い方が 細長い日本の国土では望ましいはずです。


(略語)
AIP : Aeronautical Information Publication、航空路誌
ARSR : Air Route Surveillance Radar、航空路監視レーダー
DME : Distance Measuring Equipment、距離測定装置
ICAO : International Civil Aviation Organization、国際民間航空機関
MLAT : Multi Lateration、マルチ・ラテレーション
ORSR : Oceanic Route Surveillance Radar、洋上監視レーダー
VOR : VHF Omnidirectional Radio Range、超短波全⽅向式無線標識施設
WAM : Wide Area Multilateration、広域マルチラテレーション

ICAO Abbreviations and Codes ほか



▲ 南北海道/北東北WAM のエリア(AIPの図に加筆)

さて、北国住まいの私が気になるのは「南北海道/北東北」エリア。その部分を拡大してみました。

基本的には、横津岳、釧路、そして八戸の航空路監視レーダーが北海道エリアを飛行する航空機を捕捉し、管制官が監視しています。それに加えて、新千歳空港、函館空港、青森空港あたりのエリアが「南北海道/北東北WAM」のカバレージとなっていました。細い1本足を南に伸ばした、不思議な形です。


▲ 南北海道/北東北WAM の地上局(地理院地図に加筆)

さらに拡大した図。丸印が WAMの地上局です。

2018年10月に開催された国際民間航空機関(ICAO)の航空会議。日本の航空局が用意した 航空路WAMに関する working paper には、北海道WAM(南北海道/北東北エリア)の地上局を18局とする計画が記載されていました。( ICAO Working Paper, 13th Air Navigation Conference, Montreal, Canada, 9 to 19 October 2018, "Implementation of En-route WAM in Japan" )

そのうちの地上2局は 偶然にアンテナを見かけたのですが、他の局がどこに設置されているのか、ずっと分からずにいました。

この記事を書くにあたりネットで調べていたところ、「航空路WAM施設」の場所が掲載された航空局資料が見つかったので、地理院地図に書き加えました。南北海道/北東北WAM の地上局は、北海道に6局、青森県に10局、そして岩手県に3局の 計19局あることが判明しました。(風力発電建造物による航空保安無線施設の影響に関するガイドライン、航空局、令和6年3月改正)

レーダーサイトの数より WAM地上局の方がずっと多いのに、これでコスト削減できるの? と疑問を持つかもしれません。でも、WAMの方が圧倒的に低コストになるはずです。だって WAM の地上局は、細長い受信アンテナ1本だけなんですから。


▲ 航空路WAM のアンテナ、鵡川むかわVOR/DME局舎


次回も WAM の続き、の予定です。


※ 写真はいずれも2020年秋、やぶ悟空撮影


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