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[ローマ留学雑記] 寒空のブダペストを一人で満喫した話(前編)

こんにちは
この秋からローマで留学生をしているリョータです。今回は1月上旬に2泊3日で訪れたブダペスト旅行記です。もしよければ最後まで読んでいってください。

午前1時
私は深夜のサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の目の前で寒さに震えていた。怪訝そうな顔をした陸軍の警備隊を後目にベンチにしばらく座っていると、イタリアの憲兵カラビニエリのパトカーが近づいて私に"Tutto bene?"(大丈夫?)と話しかけてくる。"Si"と答えると職務質問が始まった。パスポートを見せ、滞在場所、目的、期間についての矢継ぎ早な質問に答える。「いったいなんでこの時間にこんな場所にいるの?」と聞かれたので答える。今日の早朝の便でチャンピーノからブダペストに旅行に行くから、朝4時のテルミニ駅発の高速バスに乗らなきゃいけなくて…でもテルミニ駅は治安が悪いからここで待っているんだ。カラビニエリも深くうなずき、寒いから気を付けてねと言われ職質から解放される。そう、この日のブダペストへのフライトは午前6時発。深夜から行動しなければ間に合わなかったのだ。

陸軍と警察に守られる深夜のサンタ・マリア・マッジョーレ

人生の初の職質を済ませた後もスマホでYouTubeを見ながら時間をつぶす。もしローマからの移動で深夜発の便を利用する方がいるならば、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の前をお勧めする。ここはテルミニ駅から歩いて4分の好立地だけでなく、常に陸軍の警備兵が常駐しているほか、警察とカラビニエリも定期的に巡回してくれるため、物乞いやホームレスに絡まれる心配なく過ごすことができるだろう。(ただ職質に対応できる最低限の英語は話せた方がよいと思う)エピファニー当日、イタリアのクリスマスシーズンも最終日のこの時の気温は3℃。世界の首都たるローマも眠る睦月の深夜をどうにか乗り越え4時15分前にバスターミナルへと向かう。バスターミナルでは早朝にも関わらず少なくない人数が空港行のバスを待っていた。オンラインで購入したチケットを見せて暖房の効いたバスへと乗り込んだ。

テルミニ駅の空港行バスターミナル
フィウミチーノとチャンピーノの両空港へ30分毎に運航されている

40分ほどでチャンピーノ空港に到着する。ローマには主に二つの空港があるが、多くの日本人が利用する地中海の一大ターミナルであるフィウミチーノ空港に対して、チャンピーノ空港は主にLCCの発着場として使われている。この空港は国際線の発着がある空港にしては非常に小さく、端から端まで歩いて1,2分ほどの発着ロビーを抜けるとすぐに荷物検査場にたどり着く。今回もヨーロッパ最安でおなじみライアンエアーで最低限のリュックサック一つだけをもって手続きを済ませる。A棟B棟それぞれわずか8ゲートしかなく、待合室も簡素なこの空港で30分ほど待つと搭乗手続きが始まり、バスで移動して飛行機に乗り込む。朝6時の祝日のローマからブダペストに発つ人は少ないようで人入りは4割ほどだった。

チャンピーノ空港の搭乗口

深夜から動き出した疲れもあり席に着くとすぐに眠ってしまった。一時間半ほど眠っていたようで着陸に向けた機内アナウンスでようやく目を覚ます。眼下には夜明け前のブダペストの街と空と同じ濃紺のドナウ川が見えてテンションが上がる。

上空からでもはっきりと見える雄大なドナウ川

午前7時半
ブダペスト空港に到着。シェンゲン協定内なので入国手続きはなく簡単に外に出られる。市内には直通バスが通っているのでそれを利用した。値段は2200ft(フォリント)で約1000円弱、市内までおよそ45分のバス旅だ。降車スポットは複数あるが、この日は13時まで予定がないため一番手前で降りて散策を開始する。中東欧の冬を感じさせる鈍色の曇り空と共産主義政権時代に建てられたと思われる飾り気のない石造りの建物からは1月の寒さと相まって一層冷ややかな印象を受けた。ドナウ川を目指して歩いていくとどうやら旧市街に当たる地区に入ったらしく、おそらく二重帝国時代に建てられたと思われる重厚な建物や豪華な内装が施されたカフェが目に付くようになってきた。

スチームパンクの雰囲気も感じるような建物群

歩を進めてドナウ川にたどり着く。厳冬のドナウ川は「美しき青きドナウ」という有名な形容とは異なり、空の色を写したかのようなどんよりとした灰色に染まっていた。

どんよりと灰色に染まるドナウ川
オーストリア国旗の貨物船は河川貿易なのか…

2時間ほど街のあちらこちらを歩いていると寒さのせいからかトイレに無性に行きたくなる。しかし、この旅の期間中ほぼ現金を使わないで過ごすつもりでいた私は一切のフォリントもユーロも持っていないために公衆トイレが使用できない。無料で利用できるトイレを探していたところ、どうやら橋を越えてブダ地区にあるショッピングセンターがおすすめらしいという情報をインターネットで見つけたので向かってみた。ショッピングセンターは大きくはないものの新しく、トイレも清潔だった。ついでに中にあるスーパーで水を買いだして再び散策を始める。街中を走る路面電車はかなりレトロな代物で、ドナウ川沿いを歩いている最中に出くわすとまるで20世紀の中頃にタイムスリップしたかのような感覚に陥る。

まるで20世紀も中頃のような雰囲気

午前11時
深夜から何も食べていないお腹が限界を迎えて鳴り出した。昼食には少々早いが自由橋のすぐそばにあるブダペスト中央市場に入ってみる。1897年に建てられたこの巨大な屋内市場は一回が肉屋やスパイス屋、土産物屋がひしめき、二階には屋台やフードコートが立ち並ぶ。しかし、どうやら二階の屋台には観光地価格であるだけでなくぼったくりのお店も存在するらしいので避けて、フードコートのような雰囲気のレストランに入ってみる。

ロールキャベツと付け合わせ

頼んだのはハンガリー風ロールキャベツ(Töltött káposzta)と付け合わせのニョッキのようなもの。ロールキャベツは豚のひき肉と米がぎっしり詰まっている。ハンガリー料理の特徴でもあるパプリカパウダーとラードが豪快に使用されており、さらに日本とは異なり酢漬けのキャベツによって巻かれている。一口食べるとラードとひき肉、米の脂っぽさがキャベツの酸味で中和されて箸?フォーク?が進む。お値段は10ユーロ(観光客用にユーロ表記があった)ほどと観光地にしては良心的な価格だった。ラードの脂の重さのおかげか成人男性が食べても十分満腹になる量なのでブダペスト中央市場を訪れる方にはお勧めしたい。

ブダペスト中央市場
一階は食料品と土産物、二階には食事処が多く立ち並ぶ

午前12時
お腹を満たして中央市場と後にして再びドナウ川沿いを歩く。ブダペストはもともとドナウ川をはさんで城郭やゲッレールトの丘が存在するブダ地区と、国会議事堂や聖イシュトヴァーン大聖堂のあるペスト地区が19世紀に合併されてできた都市であるという背景があるため、川の此方と彼方を見比べるだけでも建物の雰囲気の違いが観られて興味深い。20分弱歩いていると川べりに青銅で作られた靴が置かれているのを発見した。この靴は第二次世界大戦時代にファシスト政党の矢十字党によってこの場所で殺害されたユダヤ人の犠牲者の記憶として後世に建てられたものらしい。ここ数年世界で起こっている紛争を思うと複雑な感想が思い浮かぶ。

まるで今脱いだかのような質感の靴たち

さらに5分ほど歩くと今日最初の有料入場施設である国会議事堂に到着した。現代でも使用されている国会議事堂はブダペストおよびハンガリー観光の目玉とされることも多く、国会が開催されていない時期にはガイド付きの1時間弱のツアーで中を見学することもできる。今回はこのツアーに参加する。値段は25歳以下割引で半額の6500ft(約2300円ほど)だった。

世界で最も美しい議会堂とも称される

ドナウ川の上流側に地下に面したインフォメーションセンターがあり、インターネットで予約したチケットをカウンターで紙チケットへと交換してもらう(必須)。一応当日券もあるらしいのだが事前に予約するのが賢明だろう。入場するとまずはオーディオガイドを装着する。英語はもちろん日本語やイタリア語のものもあるため言語に自信がない場合でも、旅行会社のツアーに参加するより公式のガイドツアーを予約することをお勧めする。

長い階段(足腰が不安な人はエレベーターも使用可能)を上がっていくと最初に目につくのは正面玄関。現代でも選挙後の初登壇の際に正門として用いられるこの正面玄関は

そしてそのまま移動して国会議事堂の中心、ドームの真下へと案内される。ここには何とハンガリー王国時代の象徴である聖イシュトヴァーンの王冠が鎮座している。聖イシュトヴァーンの王冠は伝承によると1000年ごろから用いられているとされており、聖イシュトヴァーンの諸地域(ハンガリーとその周辺地域、いわゆる大ハンガリー)を統べる象徴として現代でもハンガリーの国章に用いられている。

上の部分が聖イシュトヴァーンの王冠
実際に十字架が斜めになっているのが特徴

また、この王冠は第一次世界大戦後のハンガリー王国時代には、ホルティ元帥を摂政とする王のいない王国の法令上の最高権力者でもあったらしい。現存する唯一の聖なる象徴であるこの王冠は儀仗兵によって守護されている。また、ドームにはハンガリー王国の過去の王の彫像が置かれており、まさにこの場所こそがハンガリーの中枢であるという雰囲気を醸し出している。ここまで詳細に記述してきたが残念ながら写真は撮影禁止であった。もし興味があればぜひその目で確認していただきたい。10分ほどゆっくりと鑑賞したあとに歩を進めて議員の休憩場所などを訪れる。どの部屋も絵画と黄金、ハンガリー風の植物の図柄があしらわれた柱によって彩られている。イタリアの宮殿とは全く異なった少し異国風にも感じるような装飾はとても興味深かった。ツアーは最後に旧上院議会の中へと訪れる。この国会議事堂は二つの議会が対称に作られているため、議場の構造は現在使用されている反対側のハンガリー国会議事堂と同様のつくりらしい。

旧上院議会
現代でもフォーラムなどで用いられるようだ

午後2時
国会議事堂ツアーが終わり外へ出ると日が少し西に傾き始めている。目の前のドナウ川は朝のどんよりとした鈍色から少し青みがかった色へと変わっていた。ホステルのチェックインが行える時間になったため歩いて向かう。この日止まるホステルはペスト地区のちょうど中心当たりに位置するハイヴパーティーホステル。8人部屋で一泊8ユーロという驚異の安さ。1月のブダペストは観光シーズンでないからか宿泊施設はどこもかなり割安だった。途中で名物のキルテーシュカラチと呼ばれる煙突型のケーキを買って見る。注文したのは一番シンプルなキルテーシュカラチ。素朴な味で個人的にはカフェラテやカプチーノなどと合わせて食べると良いように感じた。

オーソドックスなキルテーシュカラチ

おやつも済ませてホステルにチェックインする。一泊8ユーロの部屋とはいったいどれくらいのレベルなのかと若干恐れていたが、入ってみると清潔で広さも程よい場所だった。唯一問題があるとすれば一階のベッドにもカーテンがないことだろうか。

人生最安値の宿だが寝心地は十分

午後8時
元気を取り戻したところで夕飯を食べに行く。この日はホステルから歩いて30秒ほどレストランに入ってみた。どうやらプリモ、セコンド、デザートと、それぞれに一杯ずつハンガリー産ワインがついて26ユーロ(ユーロ払いが可能だった)のコースが用意されているらしいのでそれを注文した。プリモはハンガリーで最も有名な料理の一つグヤーシュと白ワインだ。グヤーシュはパプリカパウダーのたっぷり入ったビーフシチューで寒い冬のブダペストにちょうどよい濃い味付けと温かさのあるスープだった。付け合わせのパンを浸して食べてもパンの酸味と合わさってよい。セコンドもまた名物のパプリカチキンと赤ワイン。こちらもパプリカパウダーのたっぷり入った一品でラードで調理されたチキンは少し胃もたれしそうなほどだがクリーミーでボリュームがありとてもおいしい。最後のデザートにはチョコレートがかかったクレープが出た。もちろん美味しかったが、それ以上に一緒に提供されたトカイワインが絶品だった。世界三大貴腐ワインの一つであるトカイワインはとても甘いワインとして有名だが、実際に呑んでみると凝縮された甘さが優しく、チョコレートクレープにも負けずに甘味を感じられるほどでそれ自体がデザートといっても過言ではなかった。

プリモのグヤーシュ
セコンドのパプリカチキン
ソースがクリーミーでおいしい
デザートとトカイワイン
想像より甘みの強いトカイワインに驚いた

ハンガリー料理に大満足して外へ出ると時刻は午後9時過ぎ。寝て食べたばかりなので腹ごなし替わりに夜の散歩へと向かう。しんしんと冷える夜のブダペストは暖色の明かりで照らされている。特にドナウ川沿いは国会議事堂をはじめとして大きな建物と橋のライトアップの光がドナウ川へと反射してとても美しかった。しかし鎖橋や国会議事堂などランドマークのライトアップは午後10時に終了してしまうようで、ちょうど鎖橋を通りかかる際に最低限の明かりを除いて暗くなってしまった。鎖橋からの写真を撮るのは翌日以降にお預けとしてホステルへと戻ることとした。

ブダペストの夜景(21:58)このあとすぐに消灯してしまった

最後まで読んでくださってありがとうございました。普段はイタリアに留学している大学生目線でのお役立ち情報や旅行記などを書いています。もしよければ他の記事も読んでいってください。

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